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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
153/162

【153】公爵にうかがってみたらしい


公爵家の中庭で、館を守っている数人の兵士に取り囲まれてしまった俺たち。


そりゃそーだよな。


金髪の少女はいれど、取り囲むようにしてデカい日本人男性がゾロロッと何もなかったところに出現したら、怪しまないほうがおかしい。

川口に至っては全身鎧で剣すら持っている。



ケートが、俺達の輪から一歩前に出た。


「転移にて現れた無礼を詫びる。私はバザルモア王国のリンリー侯爵の第三子、ケート・リンリー。姉のソフィア・エバンズ公爵夫人に取り次いでもらいたく思う!」


兵士たちは、互いの顔を見合い、暫しザワついていた。

するとそこに、



「何事ですか?」


回廊の方から凛とした女性の声が響くと、兵士たちはザザッと道を開けた。


「姉上!」


パッと晴れやかな顔になって叫んだ、ケートの声が響き渡る。


「その声は、ケート?まあ!やっぱりあなたなのね。」



兵士たちが立ち並ぶ間から、一人の美しい女性が姿をあらわした。


袖の膨らんた白いシルクのブラウスに、たっぷりと布地を使った深緑のロングスカート。

薄茶色の髪をアップに結い上げて、綺麗なうなじをだしている。


中世のようなドレスではなく、20世紀初頭の西洋のようなデザインだ。

やはり、俗に言うファンタジー世界の西洋文化よりは少し文明が進んでいるような気がする。


この国に囲われてるという、異世界転移者たちの影響だろうか。



「姉上…お久しゅうございます!」

「ケート…!」


ソフィアと呼ばれた貴婦人は、ケートのもとへ走りより、ギュッと体を抱きしめた。


「叫び声がしたので上から見たら、あなたそっくりな子がいるじゃない。まさかと思って降りてきたら本人で、驚いたわ。」

「姉上と、義兄上に急ぎご相談したい事がありまして、仲間とともに転移スキルで飛んでまいりました。義兄上は今──」

「書斎にいるわ。どなたか、応接の間に呼んでくださる?」

「はっ、はい!ただいま!」



先程、中庭で腰を抜かしていた女性の使用人が館の中にタタタ…と走って行った。


「皆さん、中庭でお話というのもなんですから、応接の間にご案内しますわ。こちらです。」


俺たちは、ソフィアさんの後について公爵家の屋敷の中にむかう。



兵士はまだ、釈然としない用なポカーン顔をしている。

へへへ、悪いね。唐突な展開で驚かせて。

(って、ソフィアさんが旅行中とかじゃなくて本当によかった…厄介なことになるところだった。)




公爵家の応接間はとても広く、絵に描いたようなヨーロッパの名門貴族の館だった。


フランス式というよりはイギリス式の装飾美で、壁は上品な煉瓦色、家具は凝った彫りのマホガニー。

長くて大きな窓につけられたカーテンは品の良い赤のビロードで、椅子やソファの背もたれやクッション部分の布も同様の素材が使われている。


全体的に赤系統で纏められているが、派手な感じはなく、ロイヤルな雰囲気が漂う。


壁の片面には大きな暖炉。

いまはまだ暖かい季節だが、冬になるとこのあたりはかなり冷え込むんだろうな。



俺たちはソフィアさんに促されて、応接間の中央にあるコーヒーテーブルを囲むように置かれたソファーや椅子に座る。


ケートはソフィアさんの隣に座り、俺たちと向かい合うような感じになった。


「ナギサ殿、みんな、改めて紹介します。ソルベリーのエバンズ公爵家に嫁いだ僕の姉、ソフィアです。」


ソフィアさんは微笑みをたたえた顔で、ペコ、と小さく会釈した。


「ケート、落馬事故があったことを父様から聞いて心配したけど、元気みたいで良かったわ。もうだめかもしれないって父様から文が届いた時は、私…本当に胸が張り裂けそうで──」


ソフィアさんは、滲んだ涙を指で拭いた。

ケートは優しいお姉さんが二人もいて、幸せものだな。


「姉上、心配させてごめんなさい。奇跡的に助かったことは父様から聞いたの?」

「ええ。それにしてもケート、さっき二階からあなたの姿を見つけたとき、最初見知らぬ男の子かと思ってしまったわ。前から活発だったけど、いまはなんだか──人が変わったみたいな雰囲気というか…。」


そうか、ソフィアさんはソルベリーに住んでるから、どんどん男っぽくなっていってる過程を知らないんだな。

その理由が、勇者の魂と融合したからだってことも、当然まだ聞いてないようだ。


もしかしたら侯爵が書いた船便の手紙よりも早く、俺たちがここに着いてしまったのかもしれないけど。



ケートは頭をポリポリとかくと、


「それについては紆余曲折あって──その件は、あとで説明するよ。それより、姉上!」

「な、なあに?ケート。」

「この方を王城にお連れしないとならないのですが──」


そう言って、ケートはオリビア姫のことを指した。


「王城に…?」


ソフィアさんは不思議顔だ。


「王族の令嬢のようなんです。オリビア、というお名前の姫君をご存知ないでしょうか?先程、このナギサ殿が僕とともに吸血鬼の古城から助け出してくれたのです。」

「まあ!」


ソフィアさんは、驚きのあまり両手で頬を覆った。


「そんな恐ろしい目にあっていたの…?おお、ケート…。ナギサ様、ありがとうございます。どれだけ感謝の言葉を並べても足りないくらいですわ…!」



俺は、なにか引っかかっていた。


王族の姫君が攫われたのなら、もっと知れわたっていてもいいんじゃないか…?

それも、公爵クラスなら聞いていそうな気がするんだけど──



「話の途中で失礼するよ。」


背後から声がしたので振り向くと、そこには上品なスタンドカラーのシャツにスラックス姿の、口髭のある紳士が立っていた。

年齢は30前後だろうか。

ソフィアさんよりはいくらか年上そうだ。


「あなた。」


この人が、エバンス公爵──



俺たちはみんな、立ち上がって挨拶しようとしたが、公爵に


「どうぞそのままで。」


と言われたので、着席した。



「その少女を王城に、との件だが──失礼、扉を開けるなり立ち聞きをしていてしまった。」


コホン、と公爵は咳払いをした。


「単刀直入に言うと、いま、王族の姫君が攫われたという事件は起きていないので、ただ連れて行っても信憑性を疑われてしまう、という事だ。」



誰も攫われてない──


えっ?それじゃあオリビアは、結局どこの子?!

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