【151】対決!決着!吸血鬼戦
俺の鈍化の銃弾は、巨大蝙蝠と変化した吸血鬼の胸にめり込んだ。
『馬鹿め、私に普通の武器なぞは効かん──むっ、なんだこの弾は…』
麻痺が、奴の身体の自由を奪う。
ブルブルした、独特のノソノソ動きになったのが見て取れた。
よし!これで飛んで逃げられないだろう。
『ぐ……おのれ──』
吸血鬼が口を大きく開け、シャアアア…と紫色の息を吐く。
「う──なん…だ?」
川口が、寝ぼけた間抜け面になって、ガシャンと膝をついた。
「眠い──気をつけろ、渚…」
クソッ、こいつ、このスキルでユーリとケートを眠らせたのか。
川口はガシャン!という鎧の金属音を響かせて、倒れてしまった。
『ふふ…次は貴様だ──』
吸血鬼は痺れながらも、俺の方に顔を向ける。
俺はもう一つの銃、毒化銃を撃った。
確かに弾は奴の胸にめり込んだはずなのだが…
『毒か?毒なぞは効かん』
あーっ、毒無効だったか!
洞窟の獣型魔獣とは一味違うんですねやっぱり……
奴が口を開き始めたその時、
「入口の穴が空いた木の扉の前!」
いつの間にか吸血鬼の真後ろに『どこにでもいけるドア』を移動させていたらしい福田が、「ドアの行き先」を叫んで扉をバーンと開いた。
額縁状に四角く空いた穴2つから降り注がれる、真っ昼間の太陽の光──
『グフッ、ウガアアア──!』
吸血鬼はブルブルと震えだした。
巨大蝙蝠になった姿から、もとの黒い男の形へとだんだん戻っていく。
「効果ありだねぇ!よーしっ」
福田は吸血鬼の前に走り込み、長い脚を思いっ切り突き出して、奴の胴体をドアに向かって蹴った。
ドシャアッ!
『ギャアアアアアアーッ!!』
木の扉の前、四角く切り取られた光の中に倒れ込んだ吸血鬼は、哀れな絶叫をあげてもがき苦しんでいる。
起き上がろうとするが、体の痺れで上手く立てないようだ。
チャンス!
俺は床に落ちている川口の銀の剣を掴んで、ドアの中に飛び込んだ。
吸血鬼は黒い影のかかったような顔なのでよく見えにくいが、かなり萎れているのがわかる。
俺に息を吐きかける力も出ないようだ。
「てぇーーーいっ!!」
気合を入れて、俺は振り上げた銀の剣を吸血鬼の胸の傷めがけてズブーッ!と刺しこんだ。
『ギャアアアアアア…アアア……』
吸血鬼は断末魔の声をあげたあと、ボフン!と煙になり──
大きな濃い紫色の魔石を落として消えた。
「こいつも魔石になるのか…」
「やった〜!やったじゃん、渚ぁ〜!!」
福田がドアの中から走り込んできた。
その後ろから、頭を抑えながらヨロヨロとした足取りで川口が姿を見せる。
どこにでもいけるドアのフレームで体を支えてるみたいな感じだ。
「大丈夫か、川口!」
「ああ、すぐ息を止めたので、そんなに沢山吸い込んだわけじゃないからもう大丈夫だ。俺のことより、奥の二人を…」
吸血鬼は、自分を倒さなければ目が覚めないと言っていたけど──
「ユーリ!ケート!」
俺たちは、棺の中で眠ってるユーリとケートの方へと走り寄った。
「「うー、ん…」」
二人とも、目は覚めども頭を上げるのが重いような二日酔いの朝のような雰囲気ではあるが、一応覚醒できたようだ。
「渚…来てくれたのね…よかった…」
ユーリは、横になったまま手を自分の胸に当てる
すると、薄緑色のぼんやりした光に包まれはじめた。
「解毒…それから回復──」
薄緑色の光のあと、いつもの白い光に包まれたユーリは、しゃっきりとした顔で上体を起こした。
「そうだ、ケートはどこ…?!」
「ここだよ、ユーリ…」
隣の棺から、弱々しい声がする。
ユーリはピョン!と棺から飛び出ると、ケートに駆け寄って一連の解毒と回復の魔法をかけた。
「すまない、ユーリ。僕がついていながら魔物に攫われるなんて──」
「それは私のセリフよ、ケート。ケートはまだ勇者になりたてなのに、私がついていながら…。」
回復が終わり、ユーリが立ち上がって俺たちの方を見た。
「ケートを追って慌てて転移したくせに、私も一緒に攫われるなんて…みんなには迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。」
「何いってんの、ケートくんはユーリちゃんが追ってってくれたから助かったんだよお〜!」
手をヒラヒラさせながら、福田が明るく励ましの言葉をかける。
嬉しそうな顔をするユーリ。
それに反して、ケートは沈痛な面持ちをしていた。
「ユーリを守るべき存在なのに、事もあろうか僕まで吸血鬼に捕まって、あわや餌食にされそうになるなんて…」
ユーリは、優しくケートの方に手を添えた。
「私達の中で、誰が守る役かどうかなんて関係ないわ。むしろ、レベルが上の人のほうが下の人を守るというのであったら、私のほうがあなたを守れなかったのを悔やむべきよ。」
「ユーリ…でも僕は…」
「日本の前世の記憶の、『彼氏が彼女を守るべき』なんて考えは捨てていいのよ。」
「なになに、二人とも。いつの間にかカレカノなの〜?」
福田にはやされて、ユーリは頬を赤くした。
「──例えよ、例え。」
ケートは俺たちの方に向かって、申し訳無さそうな顔をした。
「みなさんも巻き込んでしまって申し訳ありません。僕がソルベリーの事をあまり覚えていなくて、遠くからの姿見でこの古城を目指して歩いてしまいました」
「俺たちもそうだよ。同じ。」
「うん、この城は林の向こうから見たら間違えるって〜、誰でも!」
「ウム、しかし同じ勘違いをしたからこそ、助けることができたと言えるから、結果オーライだな。」
「考えてみればソルベリー王国は船で行ったはず。港に面しているから、そもそもこんな林の奥にはないんですよね…」
「じゃあ、港に向かって進めばいいんだね。」
「なあ、みんな。ところでなんだが──」
川口がソロソロと棺に近づいて行き、俺たちの方に向かって言った。
「この棺、どうしたらいいと思う…?」
そうだ、棺は全部で4つあった。
2つはユーリとケート、奥の一つは吸血鬼用。
じゃあ、これは──?
俺たちは、閉じたままの3つ目の棺の横で、ゴクリと唾を飲み込んだ。




