【15】俺は『天才(仮)』らしい
俺は車を走らせながら、指輪の事を考えていた。
親が子供の字で俺へのメッセージを書いたのは、まず間違いなく、俺以外の誰かが引き出しを開けたときの為の対策だろう。
俺がメッセージに気づかないまま時が経って、親戚の誰かが「行方不明になったのでは」と怪しんで入り込んできてもバレないように…
果ては警察を読んでの家宅捜索などをしても、俺に疑いが及ばないように…
「お前に渡したい指輪がある、なんて書いてあったらメチャクチャ怪しまれるもんな、きっと。」
しかし…
どんな性能の指輪なんだろう?
それともただの結婚指輪?
俺は運転中、車のオーディオに接続されたスマホからサブスクで作った自分のプレイリストの曲をかけていた。
日本のミュージシャンの曲いくつかと、海外のミュージシャンの曲をいくつか。
シャッフルではなく順番に再生していたので、日本人の曲が一通り終わったあと、海外のミュージシャンの曲が再生される…
…はずなのだが…
「…は?アリアナ・グランデが…日本語で歌ってる…だと…?!」
どういう事だ。
日本語版のカバー曲があるかどうかなんて知らないし、プレイリストに入れた覚えはないぞ。
あまりに驚いたため、危うく車線を間違える所だった。
もしや…
もしやこれは…
俺の心の中に、ひとつの疑念というか、可能性が浮かび上がった。
こういうのを、ラノベで読んだことがある気がする。どれかは忘れたけど…
次の曲にスキップしてみた。
やはり英語の曲が日本語になっている…。
LSDが「俺はて、て、て、て、天才〜」って歌ってる…。
………。
ちょっと動揺がすごいので、通りかかったニトリの駐車場に車を停めた。
エンジンはかけたまま。
おもむろに、指にはめていた父の指輪を外す。
すると…
「英語の歌詞になった…。翻訳…翻訳の指輪なのか…!」
再び指輪をはめて、YouTubeでいろいろな国の動画を再生してみる。
「すげえ…全部日本語で聞こえる…!」
それどころか、動画の説明文や、それぞれの国の人々が書いたコメント部分もすべて読める。
文字を読む場合は日本語になるのではなく、なんとなく、なぜだか日本語として理解できるといった感じだ。
異世界にいる間、両親はこの指輪を使って現地の言葉を理解しながら生活していたのだろう。
神様からもらったりしたのだろうか?
「ヤベェ…もしかしてこれ、現実世界だと便利どころじゃない最強アイテムだぞ…!」
すべての国の言葉がわかる、読める。
そんな人間、きっといない。
─俺はどんな国の書物も、映像も、おそらく古文書も理解できる人間になったんだ…!
ヒュっと息を思い切り吸い、フゥ〜っ…とゆっくり吐き出し、車のシートにもたれかかる。
目の前が普段よりもいやに眩しく、白っぽく見える。
興奮で瞳孔が開いてるのかもしれない。
マジか〜、マジか〜…とうわ言みたいに暫く呟いた後、さっきのプレイリストを再びかけた。
LSDが「俺はて、て、て、て、天才〜」と言ってる所で何故だか大爆笑をしてしまう。
笑いすぎて涙が出てきた。
俺は指輪のチートで『天才(仮)』になったのだ。




