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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
148/162

【148】異世界の草原をベンツで走ろう


パッ──



という音がしたわけじゃないが、まさしくそんな感じで俺は知らない草原に姿をあらわした。



「えーっ、こんなところがイギリスにあったかなあ〜それとも日本?!」


…なーんていう、白々しい「初異世界転移ごっこ」をしてもしょうもない。

誰も見てないし。


何度となく転移してるから、感覚でわかる。

ここは、間違いなく日本でもイギリスでもなく異世界だ。


転移が起きた、イギリスのソールズベリー平原周辺でもない。

アスファルトの自動車道がないのだ。


そのかわりに馬車道のような道が一本(もちろん舗装はされてない)ずーっとまっすぐ遠いお城に向かって──



「お城?!」


見える見える。

林の向こうの、少し丘になっている所に石造り?と思われる、イギリスのウィンザー城みたいなお城が…。


ディズニーランドのシンデレラ城みたいなトンガリ屋根があるタイプじゃなく、上が凸凹みたいな形をしてるイギリスの古城っぽいやつね。



「あれがソルベリー城なのかなあ。」


イギリスから転移できるのはソルベリー王国だってイブが言ってたし、きっとそうなんだろう。



──ユーリとケートもあそこにいるんだろうか。



「──そうだ、車…!」


俺は転移の瞬間かなり慌ててたので、車の中に川口と福田を入れたまままるごと腹の異次元ポケットにしまってしまったのだ。


シャツをバッと上げて、腹から車を草の上に取り出した。


「ふたりとも、無事か?!」



異次元に巻き込まれて消えちゃってたらどうしようと冷や汗が出まくったが、二人は何事もなかったような顔をして車から出てきた。


「あー、うん。大丈夫だよ〜。」

「おう。待ってたのもマンションの駐車場だったしな。」


あっ、そうか──


腹から取り出したものは、入れたとき元の場所にちゃんと戻ってる。

それがリビングのテレビとプレステであっても、宝物庫の武器でも。


だから二人を載せた車は、俺のマンションの駐車場にスッと現れたってわけか。



「すぐ車ごと呼び戻してくれると思ったからさぁ、車の中で待ってたんだよ〜。」

「てかあれだな。おれたちだけで転移する能力はもちろん無いわけなんだけど、アイテムに入っていればできるんだな。」

「ちょっとポケモンみたいな気分になるけどねえ。」


福田はケラケラと笑った。



フーッ、よかった…。

これで3人でどこでもいけるし、ユーリかケートがいれば、もっと色んな人を連れて転移することができるのかもしれない──



と思ったが、


俺は楽しい想像と怖い想像が同時に頭に浮かんで、う~~~んと唸ってしまった。



【楽しい想像】

侯爵やメイドさんたちも連れて東京お買い物ツアー。お台場の大江戸温泉体験もさせてあげちゃう。


【怖い想像】

弱みを握られ軍事利用されて、腹から兵士を載せた馬車をどんどん送り込まされ、どこかの国の侵略戦争の道具にさせられる。



──うん、両親がかつて世話になった人とか、信頼のおける人にしかこの能力は見せないほうがいいと決まったな。


いや、でも考えてみれば俺の腹のポケットは自分で願わなければ取り出せない仕組みなわけだから、弱みさえ握られなければいいんだ。

そう例えば…



──ユーリやケートが人質になるとか。



俺はゾッとした。

今のこの彼女たちと音信不通な状況、かなり危険なんじゃないか?


「早くお城に行って、ユーリたちを探そう…!」



ヤリスクロスを腹のポケットにしまい、マンションの駐車場に戻す。


「おいおい、しまっちゃうのかよ渚。」

「徒歩で行く〜?お城まで結構距離ありそうだけど…」


少し不安な顔をする二人。


イブに連れて行ってもらったダンジョンでの特訓のおかげで、もう戦闘レベルはそこらの木立から出てくる魔物は一捻りできるくらい高くなって入るはずだけど、道を歩いていての「野良戦闘」はほとんど未経験。

「ケンカしたことない優しいプロレスラー」みたいな状態である。


それでも襲われたら戦闘しなきゃいけないだろうけど、なるべくなら避けていきたいし、そもそも歩くの疲れるよね。



「新しく借りたシャッター付きガレージにクロスカントリー仕様の車を置いてあるんだ。ここからはそっちを使っていこう。」


文京区のガレージにぽつねんと置いてある、買ったばかりのクロカン車。

山道もガツガツ進める、「ゲレンデ」と呼ばれるベンツのGクラス。


「いでよ、ゲレンデ!2000万したんだから、がっつり働いてくれよ…!!」



腹からゲレンデを取り出し、草の上に置く。


ドライブ好きの福田の目が、キラッキラになった。


「おおお〜ッ!スゲー!これよく芸能人とかがYouTubeで自慢してるやつじゃん。」

「福田、運転いけそう?」


俺は、買ったはいいけどまだあまり運転してないし、でっかい車の扱いに慣れてない。


その点彼は商売をやってた親の手伝いで、免許を取るなりバンを乗り回していたし、俺より運転テクが良いから安心して任せられる。


「いけると思うよ〜!クロカン車、もっと安いのだけど友達とキャンプ行くときに交代しながら運転することあるからさあ。」



よし、ならばまずは進んでみよう。


ということで、いつ何時敵が出てきてもいいように、ダンジョンに行くときの装備を腹から出して3人で着替える。


誰もいない草原だから、道っぱたで着替えても気にならない。


俺も例の、腹だけ開いてるターバン商人スタイルになり、ガンベルトと状態異常銃を腰に装着した。



「戦士のいでたちで車に乗るの、違和感あるな。盾と大剣がつっかえてガラスが危ないし…」


川口が苦戦してるようなので、下車する時まで盾と剣は俺の腹ポケにいれておくことになった。




出発である。


目指すは、あの丘の上の城。



あれがソルベリー城かどうかは、わからない。


でもまずは、人がいそうなところに行って情報を集めなければ…!



なにせ異世界は、地図もスマホも「地球の歩き方」もなーんにもないんだからな。

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