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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
147/162

【147】道の上で光るヤツらしい


ストーンヘンジに到着してから数時間。


度々おこる体の中になにか通るような感覚や、常におきてる頭に霧がかかるようなモヤモヤはあれど、いくら経っても誰一人転移することはなかった。



「っくしょー、なんでだよ。モヤモヤしてるだけ損じゃねーか」


俺は、スケッチブックに突っ伏してボヤいた。



何もしないでボーッと立ってると他の観光客に怪しまれるかもしれないので、俺たちは画学生のふりをしてストーンヘンジをスケッチして時間を過ごしていたのだ。


幸い、恵比寿のマンションに買い置きのスケッチブックが3冊あったから、それと鉛筆を腹の異次元ポケットから取り出したのである。



「渚が絵の勉強中でよかったよぉ、スケッチブックなんてなかなか持ってないもんね。」

「ウム。写真や動画を撮るだけだと、流石に何時間も居座るのは無理があるもんな。絵ならじっくり取り組んでても不自然じゃない。」


川口と福田は普段絵を描くタイプじゃないのだが、やってみると楽しかったのか飽きずにずっと鉛筆を動かしている。



「なあ、お前らはモヤモヤ、全くないの?俺だけ?」

「時たま、体の中を何かがすっと通る感覚はあるけど、渚みたいにずっとモヤモヤしたりはしてないな。」

「渚のそれもさあ、勇者の子である印のなんらかのスキルなんじゃねーの?」



うー、そうなのかな。


勇者と聖女は、なんかしら神様と繋がってるらしい感じだけど…レベルが上がると神様交信もできるっぽいし。


血族である俺も、なんかうっすらと繋がる力、あるのかな…。



──でも、転移できなかったらしょうがないよなあ…結局。




ストーンヘンジの営業時間は夜8時まで。

(営業時間ってのもなんか変な感じだけど、そう書いてあるのだから仕方ないか)


しかし、ソールズベリー駅行きのバスは、19時がラストだ。



もうすぐ最終バスが来てしまう。


人もかなり少なくなり、最終便に乗ろうとしてる人たちもギリギリまでお土産を買ったり飲み物を飲んだりしたいのか、売店の小屋のあたりに集まってる。


車で来たらしき人達は、まだ余裕を持って遺跡の写真を撮ったりしてる。

なにせ、日没が遅いから空が明るいので、まだまだ観光的には問題ないのだ。



「あー、でもまだモヤモヤあるんだけどなあ。バス停まで来ても全然感じる…。」

「おい、バスの中でいよいよ転移したとかいう結末はヤバイぞ。」


それはヤバい。


3人で消えるならまだいいが、俺だけ消えたりしたら残された二人が周りにどんな目で見られるか──



ストーンヘンジに訪れる世界の人々は、基本的にミステリースポット的なものが好きな人の割合が多い。


きっと色々聞かれてネットニュースにされたり、動画を撮られたりと騒ぎになるだろう。



「駐車場、無料だからさあ。さりげなく隅っこで車出して、ソールズベリーの街近くまで乗ってっちゃうとかは〜?」


と、福田が提案してくるけど──

俺たち誰も国際免許ないし…



「おい、スマホで調べてみたら日本の免許で1年間は運転OKだそうだぞ。」

「えっ、そうなんだ!」

「日本の車を使うのに税金もかからないらしいから、持ち込めるらしい。」



光明がさした。



とりあえず、無料駐車場へ行き、空いてるところにヤリスクロスを出す。


(空いてるところ、と言ったが、メチャクチャ広いし利用者もあまりいないから、そこらへんじゅう空いてる)



乗り込んで、エンジンをかける。

運転手は福田だ。


「車線、日本と同じで左だからわかりやすくて良かったぁ〜。」


道に出て、ストーンヘンジに来た時の方角にむけて、走り出す。


他の車はぜんぜんいない。

海外初運転としては、やりやすい状況だ。


福田は楽しそうに、鼻歌交じりに運転している。



「おい、渚。モヤモヤはどうだ?」


ちょっと進んだ頃、川口が助手席から振り返って聞いてきた。


「うーん、ストーンヘンジから離れたらなくなるかと思ってたのに、なんか変わらないんだよね…。」

「なにっ、なくなってないのか。そいつは困るな……もしいまお前だけが消えたら、この車どうしようか。」

「あ…そうか。駐車場、探さなきゃならないもんね。」

「そうじゃない。」


川口が、妙に深刻な声で言ってきた。


「いま調べたらな…確かに日本の免許で運転はできるが、車は届け出を出してナンバープレートを変えないといけないようだ。」

「「なんだってぇー!」」


福田と俺は声を揃えて叫んだ。




その時だった。



俺達の乗ってるヤリスクロスが、光に包まれ始めた。


「ま、まずいよこれぇ、前が見えなくなってきた…!」


福田は窓を開けて前後に他の車がいないことを確認した上で、車を路肩に停車した。


「渚!急いで外に出て、車をポケットに仕舞え!」

「わ、わかった!」



俺が消えちゃう前に、おまわりさんに見つかる前に、車を片付けなきゃ、片付けなきゃ、片付けなきゃ──



金色の光が濃くなる中で、俺は車を腹の異次元ポケットの中に入れた。



そして周りを見ると──


「川口?福田?あれ、いない……」


俺はバッ!と自分の腹を見た。


「まさか…まさか車に二人を入れたまま──」




その時光は俺の周りに収束して、俺はイギリスの公道からシュンッ!と姿を消したのだった。

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