【143】ファーストクラスでロンドンに到着したらしい
新型感染症の菌が消滅してから海外旅行客が増えたとはいえ、安く済ますことを考えなければなんとかチケットはとれるものだ。
中でも日本の航空会社のファーストクラスは、相当な値段だからかなんだかんだ席が空いていた。
ユーリとケートが消えた翌朝、俺たちは朝イチで成田空港へとむかった。
ほとんど眠れてないが、ハイヤーなのでうたた寝してる間に運転手が運んでくれる。
こんな時は自分で運転するより何十倍も安心・安全だ。
空港のチケットカウンターで、ロンドン・ヒースロー空港行きのファーストクラスのチケットをダイレクトに買う。
割引なしの「普通料金」なので、チケット代お一人様片道燃油サーチャージ込で136万円。×3人。
「すっげー、国際線の飛行機のチケット、カウンターで買う人初めて見た」
「映画でしか見たことなかったぞ。007とか。」
福田と川口が、あまりの金額にヒョエエとなっているが、搭乗時間が迫っているから悠長に喋ってはいられない。
「さっ、チェックインして荷物預けて、とっとと中に入っちまおう。」
「飛行機、11時半頃だよねぇ?まだ割と時間あるんじゃね?」
「ふふふ、甘いな福田…!」
俺は寝ずにチケットを買うとこから海外に出国するまでの「空港ですべきことアレコレ」を調べておいたのさ。
国内旅行気分で迂闊にのぞんで、大失敗したくないからな…!
「保安検査や出国審査が混んでるから意外なほど時間を取られるはずだ。だってあれ見ろよ。」
荷物の検査に並ぶ人の数、数…
乗る飛行機はバラバラでも、入る所が飛行機の数だけあるわけじゃないから、外国人も日本人も、旅行に行く人もこれから自分の国に帰る人も、仕事で単身行くビジネスパーソンもこれからビーチでリゾートする新婚カップルも、みーんな集中するのだ。
今のような、感染症もなくなり海外との行き来も復活して景気回復もしてきた状態の空港だと、要するにメチャ混みなのである…!!
「ヒェェ…両替できるかな、これ」
「飯食いたかった…」
青ざめる二人。
「飯も両替も出国審査したあとのエリアでできる!今はとにかく並ぼう。それに…」
「「それに…?」」
「ファーストクラスだから、飛行機に乗りさえすればメチャクチャ美味い飯とシャンパンが待ってるぞ…!」
ウオオオ!よっしゃあ!と、二人の士気は単純に上がった。
正午──
俺たちは、雲の上にいた。
無事搭乗を済ませ(ファーストクラスなので、エコノミーやビジネスの席よりも真っ先に搭乗できた)各自、席でゆったり……
「これはなんとも、日本人の心にやすらぎを与えるつくりをしているよなあ…。」
ファーストクラスの座席を一言で説明すると、きれいで高級なマンガ喫茶の個室席だ。
席は軽くボードみたいなのに囲われて、寝姿が丸見えにならないようプライバシーが守られていた。
起きてる時間は基本ソファーでテーブルとモニター(映画を見たりゲームをしたりできる)あと、ちょっとした小物が入ってる引き出しみたいなのがついてる。
寝たければフラットにしてベッドになり、枕も硬めと柔らかめを選択できるといういたれりつくせり。
当然ひと席あたりのスペースはでかいので、ファーストクラスのエリアだけ席が少ない。
ぽつんぽつんとある感じだ。
(まあ、一人ひとりのブースがこんだけ大きいなら、そりゃ数も少なくなるか。)
俺たちは、豪華な機内食を食べてシャンパンと紅茶を一杯ずつ飲み、すぐ昼寝に入ってしまった。
ヒースロー空港に到着するまで、起きたり寝たり食べたり飲んだり、眠くない時は映画を見たり──
そうしてる間も、頭の中からユーリとケートへの心配がなくなったことはなかった。
─本当に、転移できるのだろうか。
─もう既に、その魔王とやらが覚醒していて、囚われていたらどうしよう。
─俺たちはまた、異世界にいるイブや侯爵と再会することはできるのだろうか。
悩みすぎると眠れなくなるので、映画やダウンロードしておいた小説を見て忘れるようつとめながら、12時間ものフライトをやり過ごした──
イギリスのヒースロー空港についた時は、夕方4時になる前。
まだ空は明るい。
「出発、11時台だよねえ?12時間や、そこら乗って4時間程度しかたってないの違和感すごくね…。」
「うーむ、これが時差か。」
体は「一日たったしこれから風呂入ってゲームして寝るぞー!」って気分なのに、まだまだお昼なの確かに違和感。
まあ、飛行機の中で寝たから、そんなに疲れてないのでまだまだ動けるけど…。
ファーストクラスだとなにせ席とサービスがキモチイイから、体への負担が少ない。
若いうちにこんな甘えた形で渡航しちゃうと、お金を増やす革袋がなくなりでもしたらエコノミーに乗らなきゃならないと思うと、長距離海外旅行はしたくなくなるんだろうな…きっと俺たち。
「出国審査だのなんだのを終えて空港を出たら、ロンドン市内に予約しておいた宿に向かおう。それからだと今日はもう遅いから、ストーンヘンジは明日の朝だな。」
「おう。渚、さすが手際いいな。どこ取ってあるんだ?」
「急だったから、3人で泊まるとなるとなかなか見つからなくて…パディントンって街のちょっとキレイな普通のホテル。まあでも、一泊だからいいよね。」
何泊も予約すると、もしも異世界に転移できてしまった場合、事件になってしまう。
一泊だけでまずは転移ポイントに行き、もしも転移できなかったら──
その時はまたどこか予約して探せばいいさ。
なにせ、翻訳の指輪がある限り、言葉の心配はいらないんだからな。
異世界に比べりゃ、スマホで検索して予約ができるぶんだけ全然楽だ…!




