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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
140/162

【140】神殿で性別変更できるらしい


「取り敢えず気分を出すために……」


俺はたたまれて端に置かれていたテーブルを出して居間の真ん中において、腹のポケットから冷やした綾鷹のペットボトルをニ本取り出し、卓上に置いた。


「よかったら座って飲んでみてよ、ユーリ、ケート。」



二人は卓を囲んで向かい合わせるようにカーペットを敷いた床に座り、ペットボトルの蓋を開ける。


やはり想像通り、父と母のいつも座っていた位置に、彼女たちは無意識に座った。


「テレビでもつけようか。」


色々処分された生活用品の中、テレビは残されていたので電源を入れてみた。


因みに実家の光熱費は父の口座から引き落とされるため、俺がお金を入金して不自然に途切れないようにしておいてある。

(通帳とカード、ハンコ類は家の権利書など貴重品類とともに処分されずタンスの中にしまってあった。)



「テレビ──」


あれっ、ケートはテレビを見るのは初めてだったっけ?


異世界には電波を使っての視聴サービスがネットやテレビどころかラジオすらもないので、食い入るように見ている。


テレビの画面に映っているのは昼下がりの帯番組だ。



「ねえ渚、ケートにも私と同じように、スマホをあげてみたらどうかしら。」


と、ユーリが提案してきた。


「私、東京に行くなりすぐ渚にスマホを買ってもらえたから、かなり沢山の情報を得られたし、思い出せたわ。なにかを思い出していくとそれだけで経験値がたまるみたいで、レベルの上がりも良くなったし──」


へえっ、そんな効果もあるんだ?!


「じゃあ恵比寿に戻り次第、早速もう一台契約しなきゃね。」

「もちろんバザルモアの侯爵家に戻ったらネットに接続することはできないけど、それって要するに「機内モード」と同じなだけだから…」


いつの間にか、ユーリが「機内モード」なんていう言葉も覚えてる。


「前に渚が教えてくれたみたいにダウンロードしておけばオフラインで本を読めたり音楽を聞けたりするわけだから、なんとでもなるわ。」

「電源もさあ、日本にいるうちに充電器をいくつか満タンにして持って帰っておけば、きっと数日もつよね〜」


親子水入らずの邪魔をしないようにとでも思ったのか、部屋の隅に座って壁に寄りかかっていた福田が、冷えたペットボトルの烏龍茶を飲みながらそう言った。


「そうね、機内モードにしてると長持ちするものね。動画や3Dゲームには触れずに小説や漫画だけ見てると、びっくりするほど持つわ。」


ユーリが答える。


そんな豆知識も知ってるとは…ユーリがどんどん「現代日本人」になっていってる気がする。


「あと、絵や音楽みたいなバザルモアに足りない芸術分野を愉しむと、何故かわからないけど経験値がもらえるし…」

「へぇ〜、そうなんだぁ!それは俺たち日本人チームにはない効果だと思うから、なんか羨ましいな〜」


「ナギサ殿…!」


ケートが、俺の方を見て声をあげた。


「是非、僕にもそのスマホという異世界の魔道具を買わせていただけないでしょうか?金貨は持ち合わせがあるので、ナギサ殿のスキルでこっちのお金に両替していただければ──」


そう言うと、ケートはゴソゴソとズボンの左右のポケットから金貨を2枚ずつ取り出した。

計4枚。っていっても日本円で40万円か。

文字通りポケットマネーなわけだが、さすがお金持ちの家の子だな…!


「スマホは買うだけじゃ使えなくて、決まった店で契約をしなきゃいけないんだよ。」

「契約…というと、ギルドの申請みたいなものですか?」

「まあ…ある意味そうだね。あちこちにあるスマホギルドの支店で、身分証を登録しないと使えないんだよ。だから異世界の二人には契約は無理なので、俺がかわりにやっておくつもり。」

「そうか……申し訳ないですが、お願いします。しかし、せめて金額は払わせてください。おいくらでしょうか?」

「ユーリちゃんのを見る限り、きっとハイスペの機種買うだろうからぁ」


福田がコメントを挟んできた。


「10万円かそこらのになるよねきっと。だからえっと、金貨一枚、くらいかなあ」

「了解しました。これをお納めください。」


ケートは金貨を一枚、俺の目の前の卓上に置いた。



うーん、今の俺には別にたいした金額じゃないからそれくらいたやすく買ってあげれるんだけど──


貴族の子としては、他人からわけもなく施しを受けるのは良くないと教わって育ってきているのかもしれない。


ここはひとつ、ありがたく頂戴しておこう。



「そうだ、これ見てみなよ二人とも。」


前回来たときに天袋から発見した、親の若いときのアルバムを持ってきて開いた。


写真が紙だった頃の思い出が詰まっている。


「「これは──」」


ユーリとケートが、恐る恐る写真に触れた。


「写真だよ。この髪の長い女性が母さんで──ほら、これ結婚前のなのかな。若い頃。」


ユーリが、聖女ユーコの姿を凝視している。


「で、こっちの男の人が父さん。若い頃の写真もあるよ。」


ケートが、勇者ケースケの姿をジッと見つめて、


「本当に、男の人なんだ…最初から」


と呟いた。


「そ、そりゃあそうだよ。父さんと母さんがいて俺が生まれてるんだから、男だよ。」

「僕達の世界では、子供は性別関係なく授かれるんです。」



へ?!?!


ナンダッテェー?!


「基本的な体の仕組みはおそらくナギサ殿の世界と同じだと思うんですが、南の神の神殿に申請して祈りをささげると性別を変更することができるので…」

「そうね、だから子供を育てることと性別は関係ないというか、みんな性別自体にあまりこだわりはないわね。」


「すっごぉ…異世界って、文化も医学も遅れてるのかな?って思ってたけど、そーいうところメチャクチャ最先端の感覚じゃん。神様スゲー」


福田が驚いて、目を見開いている。



いや、俺もだ。


そ、そんなハイパーでファンタジック、いやむしろSFと言ってもいいようなシステムが使われてるなんて。


俺たちの世界─この地球は、正直言ってたまに「神不在」なんじゃないかって思うことあるけど…



神様がちゃんと祈ればキッチリ願いを叶えてくれる世界って、半端ねえな…!神の存在感スゲー。



「──だから僕は、結ばれたい女性ができたら神殿に行って、男として結婚して子供を作ろうと考えているんです。」


イキイキとした顔でケートが宣言すると、なぜだかユーリがポッと頬を赤らめた。



あれ?もしかしてこの二人…


まあでも、違和感ゼロだな。うん。


そもそも俺に言わせりゃ、元々夫婦なんだしな…!

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