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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
139/162

【139】勇者と聖女in埼玉、らしい


翌日──


俺のヤリスクロスは山手通りから富ヶ谷インターを入り、埼玉に向かって首都高を走っていた。

途中から少し東北自動車道に入り、その後岩槻ICから一般道に降りて春日部周辺の道を北へ向かい進む。



車に乗っているのは、俺、ユーリ、ケート、川口、そして運転手は福田のいつものメンバー。


後部座席は俺を真ん中にし、左右にユーリとケート。

二人とも、窓から外の眺めを食い入るように見ている。



高速道路で走っている時は、あまりの早さにはじめは少し怯んで緊張していた。


異世界の魔石モーターボートもわりとスピードを出すようだが、車に比べるとまだ遅い。

この速さに慣れてしまったら、馬車などはゆっくりすぎて乗ってられなくなるんじゃないかなあ、と思ったりする。



春日部駅付近で川口を下ろす。


なんかしら手土産を買って、実家にふらりと顔を出してみるらしい。


「帰りは久しぶりに電車乗って恵比寿帰るわ。もしかして連絡取れたら近所の友達と合流すっかもしれねえし。だから俺、拾って帰らなくて大丈夫だから。」



んじゃな、と言って彼は歩いていった。



「お母さんに、普段の暮らしはどうしてんのとかなんとか色々聞かれるんだろうなあ、川口…。」

「まーアイツのことだから、大丈夫でしょ〜!のそっとしてるようでいて、頭の回転は早いからさあ。」


俺たちはもう少し北へと進み、家の最寄りの駅の駅前パーキングに車を停めた。

ここからは歩きだ。



目立ったものはこれと言ってない駅前で、ボーゼンと前世の『記憶』をたぐりよせながら立ってるケートとユーリに、


「腹が減ったからこのへんでなにか食べていこうか。」


と声をかける。


「蕎麦でも食わない?」


その提案に、福田はわっと喜んだ。


「いいねぇ〜!フツーの蕎麦屋、しばらく行ってなかったもんなあ。お金を手にしてから小洒落た店ばかり行くようになっちゃってさあ。」

「わかるそれ。そうなっちゃうよね。」



俺たちは駅の近くの蕎麦屋により、それぞれ天ざるやら月見やらを頼んだ。


ケートとユーリも、品書きを見るなり天ざるとニシン蕎麦を注文。


(そう来ると思った)


俺は心のなかで呟いた。


なぜなら、それらが父と母がこの店でいつも頼んでいたお気に入りメニューだからだ。



箸はバザルモアでも使われているので、二人共なんなく食べれたようだ。

(割り箸も、なんの説明もなくパキッと割って使えていた)



てか、前世でなじみの蕎麦屋に来たせいか、店内での過ごし方もわきまえててなんとなく雰囲気も大人びている。


──『記憶』が刺激されてるんだろうな…味覚も、記憶の大きなヒントだっていうし。




会計をする時、一つ驚いたことが起きた。


ケートが真っ先に伝票を持って、レジに向かったからである。


「け、ケート…日本のお金、そんなには持ってないだろうし、俺が払うよ?」


するとケートはハッとして、伝票を俺に渡しながら、


「なんか、僕がやらなきゃいけないような気持ちになってました…これも前世の記憶でしょうか?」


と言って、少しはにかむように笑った。

その笑顔の奥に、父の面影が見えた。



──そうだ、家族で食べに来たときはいつも、父さんが先に立ってスッと会計してたっけ。




蕎麦屋を出ると、実家に向かってみんなでトコトコ歩いていく事にした。


「わーっこのへん覚えてる、懐かしいな〜」


俺の家の近所を見て、福田がさかんに高校時代を懐かしがっている。


数回、遊びに来たことあったもんな。

卒業してからはアパート暮らしを始めたから、福田と川口が遊びに来るときはそっちばかりになったけど…。



だが、福田以上に懐かしがってる存在があった。


ユーリとケートは、家が近づくにつれ、なんとも表現しにくいジンワリとした顔になっていっている。



「さ、ついた。ここだよ。一階の店はもうやってないけど──ユーリ…?」



見ると、ユーリはポロリと涙をこぼしている。

ケートも、いまにもウルッときそうな感じだ。


彼女たち自身の感情としては「へえー、ここが…」くらいなんだろうけど、『記憶』の中の勇者と聖女の魂が激しく揺さぶられているんだろうな。



カチャ──


お隣のおばさんの家のノブが回された音を、俺は聞き逃さなかった。


まずい!


いまだ両親は帰らぬまま、涙ぐむ外国人美女を連れて息子だけ帰郷とか、なにを聞かれるか、どんな想像を(勝手に)されるかわかったもんじゃない…!


「さっ、みんな入って入って!」


俺は自宅のドアを開けて、ユーリとケートの背中を押して中に入れた。




「ふう…なんとか間に合った。」


俺は額の汗を拭うと、靴を脱いで廊下に上がった。


「みんな、靴は玄関で脱いでね。日本の自宅は裸足文化だから…って、スリッパもなくてごめん。」


「ここ…知ってるわ」


ユーリが、廊下の壁を手でなぞりながらゆっくり進み、家の中を見て回る。


次いで、ケートも同じように手で壁や扉を触りながら家内を歩く。



がらんどうになっている一階の店舗部分を見たあと廊下の階段をのぼり、二階の居間にたどり着いた。


両親が、寝室兼食堂兼居間として使っていた、我が家のメインルーム。

異世界転生する時に身の回りの物を処分したらしく、今では最低限の家具以外、なにも置いてない。


それでも俺にとっては、子供時代の懐かしい思い出がつまった部屋だ。



部屋に足を踏み入れたときに、ユーリとケート、二人の口から同時に言葉が発さられた。



「「ただいま。」」

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