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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
138/162

【138】渋谷は伝説の魔都市らしい


「勇者と聖女生誕の地に、我が子を連れて行ってくださると聞きまして…!」



ドッバァーン!


というくらいの見事な祝宴を用意されてしまった。


もちろん、開催者は現・勇者の父であり、にわかに俺のパトロンになったリンリー侯爵その人である。



「うわ~!なになに?いつもすごいけど今夜はことさらすごいね〜、夕食!」

「うおおお、ご馳走だ!!!!」


福田と川口は食堂に入るなりテンションMAXだ。


「おい渚、なにかあるのか?今日。」

「いやあそれが…ついツルッと言ってみただけなんだけどさ…」


俺は二人に、実家にユーリとケートを連れて行く提案をしてみたことを話した。


「え…実家ってあの雑貨屋やってたおまえんちか。」

「そこ行くのが誉れだってんで、こんな祝宴を開くことになったっての?」



二人とも、見事ポカーン顔だ。


同じ公立高校だから二人にとっても実家が近い地域であり、そこそこなじみの地だ。


「一緒についていって見てみたいなぁ〜、それ。埼玉の、それもなんにもない駅の住宅街であの二人…目立つだろうなーと思って…プククッ。」


福田はあからかさまに面白がってる。


「いーよ、お前らは実家にでも帰ってやっとけよ、久しぶりにさあ。」

「オレ実家の親父が田舎で農家やりだしちゃったからさあ、もうあの頃の家ないんだよねぇ。」

「ウーム、おれはちょっと顔だしてみるかなあ…」


「さあさあ、皆さん!夕餉の時間ですよ!」


侯爵の元気な声が聞こえた。

今日はカーキ色の開襟シャツにグレーの薄手のスラックスを着ていて、何も知らない人が見たら外国人の普通のおじさんみたいだ。


──『異世界好み』のこっちの人にしてみれば、俺達みたいなTシャツなどの「異世界服」を着て東洋人顔をした人間に囲まれるというのは、嬉しいことなんだろうな、きっと。


西部劇好きの日本人が、タイムワープしてきた本物のカウボーイやガンマンに囲まれるのと同じようなもんだもんな。



なーんてことを考えつつ、祝宴の席についた。




「勇者生誕の地、踏破を祈って…乾杯!」

「「「か、かんぱ〜い…」」」


俺達日本人チームは、その「地」が危険でもなんでもない埼玉県の東武東上線の駅周辺だと思うと、どうにも乾杯の声を出しにくい。



それに──


「あの…お言葉ですが、勇者生誕の地ではなくてですね…俺・生誕の地ではあるんですが。」


その言葉に福田と川口はウンウンと頷く。

少しプルプルしてるのは笑いたいのをガマンしてるからだろうか。

見なかったことにしよう。



「なんと、お生まれは異世界の、別の都市だったのか…。」


侯爵は、少し残念そうな顔だ。


「はい。店を開くために今の実家の町に家を買ったらしいんですが、親の実家はどちらも東京の杉並区と豊島区なんで──って言っても知らないですよね。」

「へえ、親御さんの故郷、東京だったのか。知らなかったな。」

「じゃあ渚のおじーちゃんおばーちゃん、都内にいるんだ?」


川口と福田がそれぞれ一斉に口を挟んできた。


「どっちも祖父母がもう他界してるんで、故郷って感じはないんだけどね。」

「トーキョー!!」


急に侯爵が叫んだから、俺たちは3人とも驚いてガタッと立ち上がりそうになった。


「は…え?ご存知でしたか、侯爵。」

「トーキョー!知っているとも!異世界の中で、最も大きな都市なのだろう?」


そんなことは無いと思うんだけど…ニューヨークとかパリとか、世界には他にも大都市は色々あるわけだし。


どうも侯爵の異世界情報は偏ってるような──下手に若い頃、前の勇者と聖女に関わってるから、憧れがニッポンに集中しちゃってるのかな?!



──それともソルベリーの異世界人街にいる転移者たちも、結構な割合で日本人だったりして…。


だとしたら、ぜひ会ってみたい。



「そうか、勇者と聖女は伝説の都市、トーキョーでお生まれになったのか…フフ、まるで吟遊詩人のうたうお伽語りのようだ…。」


侯爵は、なぜだか嬉しそうに顎を撫でながらニヤニヤしている。


「父上!僕がこの前ナギサ殿に案内してもらった異世界の街は、なんとそのトーキョーのシブヤなんですよ!」

「なんだと…ケートよ!おお!」


ケートが父親を喜ばそうとして告げた言葉に、侯爵はシッカリとテンアゲしてくれた。


もしかして、息子?(娘?)のケートから見ても扱うのが単純な人なのかもしれない。侯爵って。



「我が子が伝説の三魔都、シブヤ・シンジュク・ロッポンギの内のひとつに既に行っているとは…神よ…」


三魔都って。


それにしても伝説多すぎて草生える。


父さんと母さん、どんな伝え方したんだよ。東京の繁華街のこと。

絶対ふざけてつたえたでしょこれ…!



「と、とりあえず今回ケートを連れて行こうとしてるのはシブヤでもシンジュクでもなく、サイタマですから…。」



川口と福田の方を見ると、耐えられなかったのか窓辺に移動して、肩をプルプル震わせながら外を見ていやがる。



侯爵は彼らの事は特に気にせず、果実酒の入ったグラスを高く掲げた。


「勇者と聖女が愛を育んだ街、サイタマへの旅の安全を祈って、皆の者、乾杯をしようじゃないか。」


あ…覚えてくれたんですね。埼玉。



「トーキョーに次ぐ伝説の都市と成りしサイタマに、栄光あれ!乾杯!」


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