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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
137/162

【137】綾鷹飲んで夏を感じるらしい


バザルモアの魔法研究所の建築は、国王の名のもとに迅速に進められていた。



かつて貴族が使っていたソルベリー様式の廃屋の屋敷をリフォームして、ソルベリーにあるイブの研究所にほど近い建物を作り上げるそうだ。


壁材一つの選び方もイブに意見を聞きながら、魔法の研究に適した作りに変えていく。

なんでも、北の国ソルベリーの方が寒いぶんだけ壁の密度も高く、バザルモア式の南国の建物よりも魔力を扱うには安全なんだという。



「バザルの城下町で揃えられる備品はなるべく揃えよう。さあ今日も物色しに行くぞ、川口君、福田君。」

「アイアイサー、ボス!」


すっかりイブの専属部下のようになった川口と福田が、買った物を入れる大袋を肩に下げていそいそと後をついていく。


二人とも妙にイキイキしてるのは、異世界で手伝える任務を見つけたからなのか、それともドのつくほど美女の大魔道士に仕えるのがなんだかんだ嬉しいのか──



「どっちもなのかな〜、うーん。」

「なにがどっちもなの?渚。」


おっと、ひとりごとを呟いているのをユーリに聞かれてしまったぞ。


侯爵家のどデカいリビングルームで籐の長椅子に寝そべりながら、クッションを枕に物思いにひたっていたら、テラスに出ていたユーリが開け放しの窓から入ってきたのだ。



「ここ、風が入って気持ちいいわね。扇風機も2台回ってるし。」

「日本の夏と違って、風がひんやりしてて紫外線が強くないから、暑さが気にならないよね。」


俺は腹のポケットから、マンションの冷蔵庫でキンキンに冷やしてある緑茶のペットボトルを出した。


「いる?」


ユーリはペットボトルを受け取り、一口飲んで、


「ぷはあっ、この味…!日本の夏は冷たい緑茶に限るわぁ。」


と、幸せそうに言った。


「…っと、ここ日本じゃなかったわね。バザルモアは常夏だし。」

「ユーリ、日本人として暮らしていた前世の記憶が前より出てきてるんじゃないか?」


さっきのセリフなんてまさに、日本のオカーサンって感じだったもんなあ。


「そうね、こうやって触るとそれに関しての記憶がフワッて浮かんでくる感じよ…でも、」

「でも?」

「今のところ、バザルモアで過ごした期間の聖女の記憶の方が思い出せてる率が高いわ。だって、こっちで過ごしてる時間のほうが長いもの…。」



そう言われてみれば、そうか。


ユーリは、聖女の魂が入り込んでから今までの間で日本にいた時間はまだそんなになかったっけ。

加えて、日本にいる時間の殆どがマンションの中だから、思い出したくても思い出すソースが少ないんだ。


「夜、恵比寿のマンションに帰るとネットが使えるから、スマホで色々見たりはするんだけど…やっぱり生の目で見たり、触ったりしたものの記憶の方が圧倒的に蘇りやすいわね。」



じゃあ──


埼玉の実家に連れて行ったりでもしたら、ユーリもケートも前世の記憶が爆発的に蘇るのかな?


そういや、今まで修行やらセールやらなにやらが忙しくて、そういう基本的な『記憶復元行動』をしてなかったっけ…。



うう、でも…


こんな可愛い15歳のユーリとケートが、フツーの埼玉県民のおばさんとおじさんとして俺の両親をしてた感覚を完全に思い出したりでもしたら──


キャ、キャラ崩壊とか、しないか…な?!



正直言って、ちょっとこわい。



「ユーリ、ここにいたんだね。探したよ…!」


爽やかな少年ボイスが聞こえたと思ったら、ケートがリビングに入ってきた。


「あっ、ナギサ殿とお話中でしたか。失礼しました。」

「いや、話ってほどじゃないんだよ。緑茶飲んでただけ──ケートも飲む?」

「リョクチャ?」


俺はケートに、ポケットから出した冷たいペットボトルの緑茶を渡した。


ケートはハッとした顔をして、迷いもせずにペットボトルの蓋をキュルっと開けて、腰に手を当ててゴクゴク飲み干した。


「ぷっはぁー……暑い夏は冷えた緑茶に限るなぁ!」



そう言うなり、あれ?いま何て…と困惑した顔になるケート。

自分で自分がわからなくなっていたようだ。


「私もね、同じようなことしたのよ、さっき。」


ユーリがケートに囁く。


ケートはしげしげとペットボトルを見ながら、


「これは、わが国の花茶より美味しいかもしれません。ナギサ殿の世界のお茶なんですよね?」

「うん。綾鷹っていう、父と母が好きなお茶だったから試しに飲ませてみたんだよ。」

「「アヤタカ…」」


ケートもユーリも、ふたりしてペットボトルの文字を眺めては、再びコクリと飲んだりして目をつぶって味わってみている。



「ナギサ殿、他にもご両親にまつわる思い出の品があったら、ぜひ体験させてもらえないだろうか。日本の食べ物や飲み物でも、日用品なんかも…!」


ユーリより、日本体験期間が短いもんな、ケートは。街だって、先日渋谷に連れて行ったくらいだし…。

その時もかなり記憶が刺激されまくっていたようだったから、やっぱりここらで一発思い出ツアーしてみるかあ…!


ちょっと怖いけど。



「ね、二人とも、俺の実家に行ってみない?」

「「実家?」」


急な提案に二人は驚いた顔をしたが、すぐに事情が飲み込めたようだ。


「あっ!勇者と聖女の暮らしていたお家のことね!」


ユーリは嬉しそうにはしゃいでいるが、ケートは驚きすぎたのかワナワナしだした。


「な、なんて事だ…そんな聖地に足を踏み入れる事ができるなんて──光栄の至であります!」

「いやそんな、かしこまるほどのことでも…」

「いま、いま父上に報告して参ります!きっと喜ばれることでしょう…今夜は祝宴ですね!」



そう言うなり、ケートは廊下の方へ走っていってしまった。



えっと…



ただの埼玉だからね?



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