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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
136/162

【136】胎児の内にクライマックスらしい


食事を食べ終わり、デザートのフルーツのクリームがけに移ったところ、イブに例のことを尋ねてみた。


──ケートとユーリのみが、ソルベリーに転移できるようになった、という件についてである。



「それは完全に、にっちもさっちもいかなくなった時の為の逃亡用のスキルだな。」


話を聞いたイブは、そう感想を述べた。


「やっぱりイブもそう思うんだな。俺も神様が与えた、パーティー壊滅時の予防策だと思ったよ。」

「前の勇者にはなかったスキルだ。もし、かつての邪神戦でこれがあれば、ラナンが大怪我をおわずとも逃げれたのだがな──」



あ、その話は両親の手記で読んだことがあるぞ。


魔王は倒し、魔王の家臣の悪い召喚士が呼び出した邪神と戦うことになった最終決戦のくだりだ──。



召喚士も他の魔物も倒され、追い詰められた邪神が残りの魔力を振り絞って大きな衝撃波を出した、その時。


「あわや全滅かという時に、ラナンがポケットから小さいドーム状のアイテムを出して、それを瀕死状態の勇者と聖女、そしてイブにかぶせて…閉じ込めたのだ。」



イブは、皿の上の中央がくり抜かれたパパイヤを見つめながら、訥々と語った。


「ドームの外から『私は戦いも下手だし、こんな事しかできません。どうかこの間に回復を』という、ラナンの声が聞こえてきた…。ラナンは自分を犠牲に、聖女に回復の時間を与えてくれたのだ。」


ユーリとケートは、前世の『記憶』が疼くのだろう。

少しつらそうな顔をして、それぞれ手元を見ている。



「聖女の魔力も枯渇していたので、せっかくラナンに貰った回復の時間も無駄になってしまうのではないかと恐怖した──が、その時、聖女の腹部がまばゆい光を放ち、真っ暗なドームの中が明るく照らされたのだ。」


イブは、俺をちらっと見た。



はい。

もしかして、それってあれですよね。


「聖女はみるみるうちに回復して、魔力を取り戻していった。あれは、お腹の子供の魔力を吸収して復活したのだと、私は推測している。」


「うん?……お腹の子…?」

「その子ってさぁ──」


全員、俺をの方を見た。


そうですよね、俺ですよね。


知ってますそのくだり、母の手記で読んだから…。



「渚ぁ…そーだったんだね。魔力、そこで使い果たしての全回復タイムありがと……」

「ウム、生まれる前にクライマックスを迎える奴もなかなかいないぞ。」


おい!

なんだよ、俺が全部使い果たしたあとの抜け殻カスカスみたいな言い方──



──あれ?でもよく考えたらそうなのかもしれない…。


だから俺だけ、勇者と聖女の子なのに魔力がゼロなのかな?!



俺に構わず、イブは戦いの思い出の続きを話した。


「ラナンの被せてくれたドームは衝撃波によってしばらくのちに砕けたが、我々の傷は回復した聖女によって癒やされていた。」



みんな、食うのも忘れてイブの話に集中している。


俺もそうだ。

やはり、手記を読むだけと違ってその場で経験した人の言葉を聞くと臨場感が違う。



「血みどろになって倒れていたラナンを見て、我々は怒りに任せて力の限り邪神を攻撃した。……そして敵は沈み、長い長い戦いに幕が下りた。」



ギリギリの戦いだったんだよな。


俺は、父と母の手記にも同様の、勝利へのくだりが書いてあったことを思い出していた。



でも、たしかその後は──



「聖女がラナンにかけよると、虫の息ではあるがラナンが生きていることがわかったのだ。長い戦いの中で、この時ほど我々が安堵したことはない。」


「蘇生魔法や蘇生の魔道具ってのは、ないんですか?」


ゲーム好きの川口が聞いてきた。


確かに、RPGだと魔法をはじめ、聖なる木の葉っぱや不死鳥の尾を使うなど、なんらかの方法で死んだパーティーメンバーを生き返らすのがお馴染みのやり方だよね…?



「前の聖女・ユーコはできなかった。だが、もしかしたら生まれ変わることで能力が倍増した今の聖女──ユーリなら、いずれ可能になるかもしれない。」


ユーリは、ギュッと組んだ指に力を込めて、自分の手を強く握っていた。


大きな責任を感じているのか、それともまだ目覚めていない能力をもどかしく思っているのかはわからないが──



「私とて、すべてを聖女に頼ってばかりいるわけではないぞ。さっき川口君が言っていたような、魔法の道具による蘇生術は、ある。もっとも、最終戦で苦戦した頃には使い切って手持ちはゼロになっていたがな……」


あるんだ!


聖なる木や不死鳥みたいなの、人工的に作ることができるのか?

だとしたらすごいことだぞ。



「あっ、イブの魔法研究所って、もしかして…」

「そう、勇者と聖女になにかあっても、それを補えるようなアイテムを開発していたのだ。なにせ私は攻撃や弱体化の魔法は使えても、蘇生どころか回復や転移の能力すらないのでな。」


「…クロマ…」


川口が、俺と福田くらいにしか聞こえないような声で呟いた。


黒魔。

某ファイナルなファンタジーのゲームの中で、黒魔導士と呼ばれてるジョブみたいな感じなんだな。イブは。



「魔法で吸い取るのはできないんですか?敵の体力や魔力を。」


俺は、イブに聞いてみた。


確かあのゲームだと、回復ができないかわりにそういう魔法が使えた気がする。


「吸い取る?」


イブは、興味深げな顔で俺の方を見た。


「……面白いな、その案は。魔法としてはないが、周囲の微量な魔力を僅かに吸収する魔道具はあるので、うまく改良すればできるようになるかもしれない。」


魔法としてはないのか。


あったら、相手からかけられることを考えるとメチャクチャ恐ろしいけどね…!なくてよかった。



「これはバザルモアの新しい魔法研究所ができたらすぐにとりかかる案件だな。感謝するぞ、渚…!」



アハハ…まあ…


俺が考えた魔法じゃなくて、ゲームの世界の有りモノなんだけどね…。


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