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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第三章 英国の香り・ソルベリー王国
135/162

【135】商人か絵描きか迷うらしい


「あ…ありのまま昼間目にしたことを話すぜ!」



川口が、城下町から帰ってくるなり俺を見つけて鼻息も荒くおきまりのセリフを言ってきた。


「な…何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…」

「どうしたいきなり。」


そのセリフが言ってみたかっだけたとかじゃないだろうな。


「渚の、『仕入れ』スキルを目の当たりにした。」

「へ?」



俺の新しい固有スキル『仕入れ』。


発動すると、メル○リみたいな画面が頭の中に現れて、誰かが出品したものを自分の資産から「通販」できる。


日本からの出品者のは、たぶんメ○カリと同じ手順なんだろうけど、こっち──バザルモアからの出品者のはどういう理論で出品出来てるのかまるでわからなかった。



「でもさ川口、俺今日は何も買ってないぞ?」

「他にもそのスキルが使える人がいるって事だ。それも何人も。」

「どういうことだ?」

「俺と福田はイブさんの商談の間、小腹がすいたのでパン屋を覗いたんだ。そしたらチリーンという鐘の音がして、店主のカウンター横の神棚みたいな台に貨幣が現れてた。」


まさか、「仕入れ申し込み」の通知機能なんかがあるのか?

神棚に??


「…そしたらよ、店主のおばさんが金を数えるなりいそいそとパンを20個、袋に入れてその台に乗せたんだよ。」

「20個も乗るほどの神棚なのか?」

「神棚は小さいんだが、乗せきる必要はなくてよ、袋を触れさせただけでシュン!と消えちまったんだ。」



えっ──


俺がためしにパン一個買ってみた時も、そうやって「即売」してくれたってことか。

(だから朝だと焼き立てホカホカだったのか…。)


「でさ、店のおばさんに、いまなにされたんですか?って聞いてみたんだよ。」


おおっ!でかした、川口。


「そしたらおばさんはこともなげにさ、『祭壇買取り』の方がいらっしゃったので──ってさ。」

「祭壇買取り?」

「勇者や聖女の固有スキルって珍しいけど、商人の固有スキル持ちって意外といるのかもな。」



スキル持ちの商人なら、通販で製造業者から仕入れができるってことか。

宅配便業とかのかわりって感じだな。

神様パワーの。



スキルの力が神様絡みなのかどうかは定かではないけど、俺やユーリの転移能力が神様に与えられたものだってことは、物質転移も神様が関係してるのかなー…って、単なる当てずっぽうな推測。


でも……バザルモアの民が神棚みたいな「祭壇」をこしらえて転移の受け取り受け渡しをしているという限りは、この推測もあながち当てずっぽうとは言えないかもしれない。



「それさ、渚。フリマアプリみたいに、お前の方から出品もできるのか?」

「うーん、試したことないけど、どうなんだろ?」


そう思ってスキルの画面内をくまなく探してみたが、そういう機能は見当たらなかった。


──レベルが足りない?

…いや、パン屋のおばさんが俺たちみたいにダンジョンでレベル上げしてるとは思えないから、そこはやっぱ本物の商人じゃないとダメなのかな。




夕飯の時、イブに『祭壇買取り』について聞いてみたところ、確かに仕入れスキルを持ってる物は多く、小さな村で食料品店を営む店主から大きなレストランのオーナーまでいるとのことらしい。


「考えてみれば販売業の人に限らないもんね、仕入れをするのは。」

「まあ、若い時から仕入れのスキルがあるようなら親も商売人になるよう勧めるだろうから、商人ギルドに所属しているケースが多いだろうな」


イブが、レモンバターソースのかかった白身魚のポワレを食べながら教えてくれた。


商人ギルドか……。


聞けば、ユーリも親の店を継いだときに加入したので、一応ギルドメンバーだという。

在庫一掃セールが終わったあと、ユーリの魔道具屋の休止願いもチェマの街の商人ギルドに出してたっけ。



「渚も商人ギルドに登録すれば、スキルで仕入れだけじゃなく出品販売もできるようになるかもしれないぞ?」



そうか、いまは商人ギルドに入ってないから商人として認められていないため、スキルも『仕入れ』だけなのかもしれない。


買うだけなら自由だけど、売るなら商人じゃなきゃってわけか。



「ギルドに入ると…貴族の人たちにおすそ分けするのも正式な金額をつけての『販売』じゃないといけなくなりそうだし、バザルの名門ドレスショップが商売敵として睨んできたりしたら嫌だからなあ…」


それまで紳士服一枚仕立てるので巨額な金額をとっていた貴族御用達の店とかにとってみれば、絶対面白くないだろうからね。俺みたいなポッと出の輸入衣料品屋が市場に登場するのって。



「ナギサ殿は、儲けに興味がないのかね?」


侯爵が不思議そうな顔をして、俺を見てきた。


「お金は親の遺産のおかげで十分あるから、無駄に諍いごとをおこしたくはありませんね…。」


俺はちょっと申し訳ない気持ちになって、そう答えた。


「自分はどちらかというと、商いをやったり魔物討伐をしたりしてバリバリ儲けるというよりは、絵を描いたりして芸術を志したい方でして──」



芸術とは大きく出たな、と自分でも思ってる。

でも他に表現の仕方がわからなくて─

漫画やイラストって言葉が通じるかどうかわからなかったし。


「芸術!!!素晴らしいではないか。ナギサ殿!」


侯爵の鼻息が途端に荒くなった。


「絵が描かけるとは、さすが異世界の方だ…!異世界の書物やアイテムには絵がつきものなのは我々も知っているが、こちらの世界には異世界風の絵を描けるものがおらんのだよ。」


異世界(=地球)風の絵──


もしかして、転移者たちの持っていた本の挿絵とか、ペットボトルや菓子の箱とかもろもろの道具にプリントされているイラストのことかな。


確かにそういうのは、バザルモアにわずかながらある肖像画の文化とは違って、もっとこうなんていうか、現代的に簡略化された絵だよね。


「そういう絵を描いて暮らしたいんです、本当は…。」


これは、俺の本音だ。

日本なら絵を描く人が多いから「大して勉強もしてないやつが生意気言うな」って言われちゃいそうだけど、こっちなら素直に言える。



「なんと高潔な心を持った若者か…!」


侯爵は、心に熱いものが去来したかのように、胸をおさえた。


「よろしい、ナギサ殿が絵で生業をたてることに関しては、わが侯爵家が全力で後ろ盾となろう。ぜひその芸術魂を、このバザルモアで開花させてくれたまえ!」



わ……

わーい…!


なんにも作品を描けてないうちに強大なパトロンができちゃったよ。



これは責任を持って、戦いの練習だけじゃなく絵の勉強もちょこちょこやっていかなきゃいけないな。

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