【133】買物代行を頼まれたらしい
王宮からリンリー侯爵の家に戻ってくるとほどなく夕刻。
俺たちは侯爵の屋敷で食事をいただくことになった。
王宮で晩餐会みたいなことになったらどうしよう…バザルモアの伝統的テーブルマナーとか、よくわかんないよ、と不安になっていたが、それはなかったようだ。
侯爵の屋敷は隅々まで、食事の形も西洋風だ。
それがソルベリー様式なのか、異世界の西洋人からかつて伝えられた食事様式なのかはわからないが、俺達の世界の西洋料理店と同じスタイルなので、安心できる。
──もっとも、フランス料理店などにおけるマナーなんてのも、革袋でお金を増やして高級店に行けるようになってから、ネットで調べて急遽覚えた「にわかマナー」なんだけどね。
それまでは、そんな高い店行くとこもなかったし…
(ちなみに川口と福田も同じように頑張って調べて基礎をマスターしたようだ。)
夕餉の場で、侯爵が
「陛下に差し上げたような本を、是非私にも売ってもらえないだろうか?ナギサ殿。」
と、俺に聞いてきた。
「金貨は用意する。何枚必要か伝えてくれたまえ。」
「いや、そんな。雑誌に金貨なんて申し訳なくていただけませんよ!」
金貨1枚で日本円10万円。
『LEON』1冊買ってきて10万も貰ったりしたら、あまりにもボリ過ぎてて自分で自分に引いてしまうだろう。
「そうか、それでは本は一種のカタログということでありがたく頂く事にするが──」
あ、カタログって文化はあるのか。
写真はないし、イラスト文化もあまり発展してないみたいだから、一体どういうカタログなんだろうな。
「そこに載ってる衣服を売っていただく際には、適切な金額で購入させてくれたまえ。王ならわかるが、我々貴族も無料で頂いたりするのはあまりにも申し訳ない。」
「でも、侯爵にはこうしてお世話になっている訳ですし、自分的には差し上げたいなあと思うんですが…」
俺はチラッと、ケートの顔を見た。
「それに──侯爵は仲間の、お父様ですし。」
その言葉に、侯爵はいたく感動したらしく、なんと心根の優しい若者なんだとひとしきり俺を褒めちぎったあと、
「ナギサ殿のお父上の魂は我が子の頭の中に入っているのだから、こうなっては家族も同然だ。こちらの世界にいる間は、私を父親と思って是非頼ってくれたまえ。」
と、言ってくれた。
──ケートが俺の父ってことは、その父親だと「お祖父ちゃん」なんじゃないだろうか?
と一瞬思ったけど、それは言わないでおいて、
「光栄です。」
とだけ答えることにした。
「しかし、実はな…他の貴族諸侯からも衣料品の購入を打診されておるのだ。」
侯爵は、王との謁見の場にいた貴族たちから、衣類の本と異世界の服をなんとかして手に入れられないものだろうかと頼まれてしまったらしい。
「もちろん皆、金貨は惜しみなく払うだろう。私には贈答でよくても、貴族全員にそうする訳にもいかん。」
俺としては、別に全員にプレゼントしても一向にかまわないんだけど、侯爵の立場上、それだと贔屓をしたような形になってしまうのでちょっと微妙らしい。
しかし商いをするとなると、商人ギルドに所属して商いの規模に対しての税金みたいなものを納めなければいけないらしいので、儲けを目的とするわけではないのなら「買い物代行」という形で請け負うのが一番適切だそうだ。なるほど。
俺がどうやって異世界から物を持って来れるのかは、侯爵は知っている。
なぜならケートも異世界転移の能力を得たため、父親である侯爵に包み隠さず話したからだ。
しかし、侯爵の話を聞く限り、王や他の貴族には転移できることまでは話していないという。
今までの異世界転移者だと「行ったり来たり」できる人はいなかったらしいので、行き来できると知られたら異世界の過ぎたる技術の輸入を求められる可能性があるからだそうだ。
中には強制をしてくるものもいるかもしれないので、幼いケートには重荷すぎる。
しかし俺の異次元ポケットだけが異世界との繋がりもとだという設定なら、ユーリやケートには無理強いされず、ターゲットは俺だけになれる。
その上、都合の悪いものは「取り出せなかった」「持ち合わせがない」などと言えば、万事完了だ。
もともと、異世界でも俺が購入できたものしか取り出せないんだから、平和な日本ではピストルひとつ持ち込めないんだけどね。
こちらの世界でも作れる日常の便利アイテムに関してはソルベリーの異世界街の人たちが頑張って開発してくれてるようだから、バザルモアでも意外と販売されていたりする。
ソルベリーの転移者に大型武器系の知識がある人がいないのか、それとも知っているけど良心で伝えないでいるのか──俺は後者の方だと思うが。
──一度会ってみたいな。
それにはやはり、イギリスからソルベリーに転移するしかないのかな…。
でも、それにはユーリとケートのパスポートの問題をどうにかしないと無理だよな。
飛行機にくらべてものすごく時間はかかるが、異世界の船旅をするしかないのか──
「ユーリ、レベルアップして転移のスキルが遠くまでできるようになったとか、そういうのはないの?」
俺は試しに、ユーリに聞いてみた。
「うーん、残念ながらないわ…転移は国内の行った所のみのまま。他に増えたスキルは、仮死状態の人を蘇生させるとか、ウィルスを消すとかその程度しかないわね。」
…いや、その程度って相当凄いのできるようになってるけどね?!?!
ウィルスを消すって、もうすでに母の領域に近づき始めてるじゃん。
「固有スキルでなんとかなるかなと思ったけど、駄目かあ…」
そう言ってたら、ケートが目を見開いて俺たちの話に割り込んできた。
「転移する固有スキル、僕もありますよ!!」




