【132】願いを叶えてもらえるらしい
「素晴らしい逸品、感謝するぞ。勇者と聖女の息子、ナギサよ。」
「その上、本に載っている異世界のドレスを取り寄せていただけるなんて、夢のようですわ。」
王様も王妃様も、俺から贈られた異世界アパレル系プレゼントボックスにホクホク顔だ。
──王妃様にあげたファッションショーの写真雑誌の、ランウェイを歩くモデルの着てる服は流石に取り寄せできない物がありそうで不安だけど…
まあ、どうしても困ったら、東京の衣装製作屋に頼んで同じようなデザインのものを作ってもらうしかないか。
普通のスーツ1着に馬車一台ほどの金貨がかかるバザルモアのドレスショップで作るより、多分安く作れることだろう。
「儂からも礼がしたい。何か、そなたかそなたのパーティーで必要としているものがあったら、言ってみよ。出来得る限り、王として協力をするぞ。」
欲しいもの──
パーティーとして欲しいものは明確にある。
「陛下のご厚意、たいへん嬉しく存じます。できることならば──でございますが、ここにおります魔道士のイブが安全に魔法研究ができる施設がこのバザルにあれば…と考えております。」
チェマなど、人が多く商業が発達した街の中に作るとなると、ユーリの店の魔道具爆発事故の例もあるから、おそらく周囲の市民から反対が出るだろう。
こういうのは、日本で工場などを作る際にもよくある対立だ。
バザルも人は多く、店の商品のレベルも高いようだが、チェマほど建物同士がごみごみと密接した感じがなく、大きめの土地を有した建物も多い。
王家の持っている、周囲から文句の出にくいロイヤルな物件もあるだろうから、思い切って聞いてみたのだ。
「イブはソルベリーで魔法研究をしていたと聞くが、バザルモアにも同等の魔法研究を、という事か。」
王は、イブの顔を見てなるほどという顔をして言った。
「それは我が国にとっても有益になる提案だ。むしろこちらからお願いしたいくらいだぞ…!すぐにでも用意させてもらおう。」
精悍な笑顔をたたえつつ、王は頼もしく頷いてくれた。
俺たちは「やった…!」という喜びで互いの顔を見渡し、イブの方を見ると、彼女も嬉しそうに頷いて微笑みを返してくれた。
「イブよ、後で必要な物資や条件について大臣と話すが良い。」
「畏まりました。陛下のご厚意に感謝いたします。」
イブは恭しくお辞儀をした。
「他にはなにかあるか?ナギサ。」
との王からの問いかけを聞き、俺は大切なことを思い出した。
「あ…!あの、この王城に勇者が遺した宝物庫があると聞いたのですが、そこに保管されている魔道具を使う権利をいただきたく思います。」
周囲はにわかにざわついた。
ん?俺なんか変なこと言ったかな…?
王が、不思議そうな顔をして片眉を上げて顎を撫でている。
「王家の宝物庫はあるが、そこにはわが王家の一族が遺した宝や遺品があるだけだ。儂も一通り目を通した事があるから、間違いない…。」
えっ──?
どういうことだろ。
勇者の宝物庫の存在は、王には知られていないのだろうか?
「恐れながら申し上げます、陛下。」
イブが、言葉を挟んできた。
「私どもが勇者と共に戦った時、前王様が色々と助力なさってくださいました。恐らく、前王様と一部の高齢の側近の方のみが知っている所に隠されているのかと存じます。」
「なんと、父上が──そうか、没されたのが急だったので、周囲の人間に伝え損ねたのかもしれないな。」
王は、王妃と顔を見合わせ、大臣の顔も見たが、ふたりとも小さく頭を振って「わかりません」という意を表している。
「──心当たりがないわけでもない。この場で詳細を伝えるわけにもいかぬ。暫し調査のための時間をくれないか?」
確かに、貴族たちもいるこの場で王家の秘密を話すわけにもいかないだろう。
俺も、こんな大勢の前で言って大丈夫かな、とは思ったけど、この機を逃したら王とサシで話すなんてなかなかないよなと思って聞いてしまったところはある。
「承知いたしました。ありがとうございます。」
俺は礼を告げて、あとは王の判断に任せることにした。
謁見は終わり、俺たちは応接室に戻された。
すぐさま、使用人が冷たい花のお茶とナッツのガトーみたいな茶菓子を持ってきてくれる。
いたれりつくせりだ。
「ふい〜、緊張したねぇ。」
福田が、籐椅子にもたれかかりながら大きく息をついた。
「お前、渚と違ってお辞儀した程度だろ。」
川口が笑いながらガトーを丸ごと口に放り込んだ。
「だってさあ、こんな正式な場なんて生まれてはじめてじゃん。お辞儀1つとっても、もーどうしたらいいかって感じでさあ。」
「ウム。おれはファンタジーのゲームやアニメの謁見シーンを思い出して、なんとなく真似てみていたぞ。しかし、渚はよくサラサラと言葉が出るな。」
「うんうん。渚って、不思議とそ~いうところあるよねなー。女子とか、新任の女の先生とか、校長にも臆せず話しかけてたよねぇ。」
「お、おい、それだけ聞くと俺がチャラいパリピかさもなくばご機嫌取りの上手い太鼓持ち気質みたいじゃないか。」
俺は一応、自分にフォローを入れておいた。
「なんか、一応緊張はするんだけどさ、あまりフリーズする感じにはなりにくいんだ。俺。」
しかしそういえば、そうだな。
子供の頃から、そんな感じだった気がする。
「何か変わった事が起きたとき、確かに一瞬動揺はするけど──頭の中ではどう動けば、どう喋れば打破できるかなって冷めた自分が自分を眺めてる感じがあるんだよね。いつも。」
「僕は──」
それまで黙って俺のことを見ていたケートが、口を開いた。
「僕は、もともとは動揺しやすい性格だったんですが、勇者の魂が入ってからはどんどん動じにくい、客観的な性格に変わっていってる自覚が、あります。」
「ケート、それって…。」
「これは前の勇者の、ケースケ殿の元々持ってる性格ではないでしょうか。」
「それでいったら、私も同じよ。」
ユーリが言う。
「私にもケートと同じような変化が起きているわ。前の聖女ユーコも、冷静な判断力に優れた性格だったんだと思ってたの。」
そう言うと彼女は、フフッと笑った。
「まあ、聖女はパーティーの命を預かる役目だから、冷静じゃないと全滅しちゃうのよね。大きな戦いだと。」
この性格は、遺伝によるもの──。
パーティーの命を預かる、という意味では、俺の「アイテムシューター」だって同様だ。
戦うべくして戦う運命になっているのだろうか?
──ケンカなんて縁がない、のんびりしたペースの性格なんだけどなぁー!自分。
でも、マイペースにコンビニのバイトをしていた時と違って、不思議とワクワクしている自分がいた。




