【130】リゾートスタイルで謁見するらしい
王宮から侯爵の屋敷にやってきた迎えの馬車は豪奢な造りで、馬も車体も白くて美しかった。
19世紀風のドレスを纏ったユーリは、目をキラキラさせながらケートにエスコートされている。
「こんな、ファンタジー小説みたいな体験ができるなんて夢みたい……!」
──いや、聖女の魂と融合するとか、異世界で魔女と暮らしてダンジョンで魔物と戦うとか、どれをとってもファンタジー小説みたいだけどね?ユーリの人生…。
でも、彼女の好きな作品はいわゆる「貴族令嬢モノ(作品ジャンル:恋愛)」なので、バトルよりもこのキラキラ感が欲しかったのかもしれない。
俺たち日本男子3人組も馬車に乗り込む。
想像していたよりも、座席のクッションがフカフカで乗り心地がいい。
これなら遠出をしても尻が痛くならないだろうなー…と思ったが、侯爵の屋敷は王城に近い貴族の敷地内にあるので、到着するまでたいして時間はかからなかった。
王城は反り返った金の屋根の上に大きな尖塔がついたエスニックなスタイルの巨大な建物で、タイあたりの王城に近いデザインをしていた。
建物の周りには、金色の尖塔部分だけを地においたような不思議な金の円錐状の建物がいくつかある。
建物の周囲には植物がたくさん植えられて、ヤシや南国の花が咲く木が目立ち、実に美しい。
「侯爵のお屋敷からも金のトンガリ部分が見えてたけどさぁ、すっごい派手だね〜!バザルモアのお城。」
ベージュの麻のスーツに身を包んだ福田が、馬車の窓からスマホで動画を撮っている。
「おー、すごい圧巻の光景だな。トンガリだけの建物はザナルカンドにありそうなデザインだ。」
川口は、夏物にしては珍しく、黒尽くめのサマースーツだ。
上着は暑いからか脱いで座席の横においている。
ちなみにザナルカンドというのはファイナルなファンタジー10に出てくるアジアンテイストな架空の都市である。
ちなみに俺は、夏向けのシアサッカー素材の小縞のスーツを買ってきた。
靴は白の柔らかい革靴。
3人とも、暑いのでスーツの中は半袖のカットソーや開襟シャツを着ている。
リゾートカジュアルもいいとこだが、この世界には我々の世界で言うところの「フォーマルはネクタイ絶対主義」みたいなものはないと思うので、これが異世界スタイルだよと言うつもりで涼しさ優先で着てきたのである。
だって、初めて会うのに顔や髪が汗でベチャベチャじゃ悪い印象与えちゃうもんね。
制汗スプレーで汗臭さ防止は日常的にやっていることだが、今日は汗崩れしない整髪料でキチンと髪を整えて、汗染みができないようUNIQLOのエアリズムもインナーとして着てきている。
これで爽やかさ維持対策はバッチリだ。
馬車から降りたリンリー侯爵と俺達は、しばらく応接の間で冷たいお茶を飲んだあと、謁見の間へと案内された。
侯爵は、俺達の紹介人として、謁見に同行しているのだ。
さあとうとう、王様、そして王妃様とのご対面の時間だ。
謁見の間は椅子も調度品も柱も全て金色で、玉座の左右にアジア風な感性で掘られた神の像が置かれている。
これもまた金色だ。
玉座に座る王と王妃は、ケートの説明にあった通りの人物だ。
王は凛々しく引き締まった顔をしていて髪はなく、銀色のノーカラーシャツに、黒いサルエルパンツのようなものを着用している。
古い映画の『王様と私』に出てくる、ユル・ブリンナーを彷彿とする顔をしてるな、と密かに思った。
王妃は薄桃色の髪をアップに結いあげ、薄紫のふわっと膨らんだロングドレスを着ている優しい顔立ちの美女だ。
広い謁見の間の左右には、ズラリと逞しい男女が帯刀して並んでいる。
みな赤い上質なクルタで、模様の入った織物の布を肩から下げていて、頭には布を巻いている。
その後ろに守られるようにして、おそらくハイクラスだと思われる貴族の方々やこの国の重鎮たちが並んでいる。
『異世界好み』は侯爵だけではなかったようだ。
ソルベリー風と思われるクラシカルな西洋服を着ている人の合間に、タキシードやカクテルドレスみたいな現代的な正装をしている人が混じっている。
濃い顔の人たちばかりなので、一斉にこちらを見ているときの威圧感がすごい。
「おお、リンリーよ。こちらが新たなる勇者と聖女のパーティーか。皆、若者なのだな。」
国王が我々を見て、威厳のある声でそう言った。
ユーリとケートは15歳だから実際若いとして、俺たち日本人三人組は多分実年齢より若く、10代くらいに見られてるんだろうなあ。
──イブが何歳に見られてるかは謎すぎるよな。
そう思っていたところ、イブが開口一番、紹介を始めた。
「国王様、私は25年前の魔王討伐パーティーに属していた魔道士のイブと申します。」
場内にざわめきが起こった。
イブがそんな年には見えないから驚いてるのかな…と思ってよく聞いてみたら、どうやらそういう訳ではなさそうだ。
「イブ様が活動を始められたという事は、魔王が復活するという噂は本当だったのか…」
「あれが大魔道士・イブ様…物語では知っていたけど、本物は初めてお見かけしたわ。」
若い貴族には魔王との戦い自体が記憶にない出来事、年配の人にとってもうら若い頃の記憶だろう。
高年齢の人は、戦いを思い出してか青くなっている。
「イブよ──私は25年前の戦いの時はまだ10代も半ばで、戦勝祝いの宴で貴女とお会いした事がある。寸分違わぬ若さを保たれているので、よもや本人だとは思わなかったぞ。」
イブはフフ、と微笑んだ。
「魔法の秘術によるものでございます。殿下は立派な大人になられて──いえ、今は陛下にあらさられるのですね。」
「率直に聞こう、イブよ。」
王が、真剣な声色で問いかけてきた。
「魔王は近年、再び現れるのか?」




