【128】思い出は懐ゲーの中にあるらしい
「おーっ?渚、それにイブさん…じゃなかったエイヴさん達まで、なんでここに……」
川口は、古いゲームの攻略本や設定資料集みたいな本を並べてある棚を物色していた。
「飯がてら、ユーリとケートの『記憶』が開くようにと渋谷観光。」
「まんだらけで?!」
「本人たちの望みなんだよ」
彼は、ホントかよ…という顔をしたが、当のユーリとケートはゲーム関連書籍の棚を見て目を輝かせている。
「わかる…これ、なんだか」
「ええ…わかるわ」
『記憶』がどんどん開いているようで、2人とも古いゲーム棚から離れようとしない。
息子の俺の目に映っていた両親の姿は、オタクではない。
漫画やラノベ好きでもなかった。
アニメも、俺が見るのを眺める程度で率先してみようとしないし、若い頃からずっと推してる作品があるようでもなかった。
恋人ができたときにオタク的な趣味をやめる人がいるとは聞くが、子供ができた時にもまたオタク的なものから離れていく第二波がくるのだろうか?
ただ、2人ともゲームだけは好きなようだった。
母が寝る前の時間に国民的RPGゲームのオンラインのやつをやる趣味がある。
あのゲームは、旅人の酒場に預けて(?)ある他人のキャラクターをNPCとして連れて行くことができるから、オンラインゲームといっても他人と時間を合わせて会話したりなんだりしなくていいため、チャットやボイチャが苦手な親世代の層にも人気があるので有名だった。
そんな母のプレイ画面を見ながら、父は帳簿をつけたりビールを飲んだりしつつ楽しそうになんやかや言う。
それが我が家のいつもの夜の姿だった。
母はたいてい補助魔法をかける側で、パーティーコントロールが得意だからか、つっかえることなくスルスルと高レベルになっていたのを覚えている。
──もしかしたら、異世界でのファンタジックな生活を懐かしんでいたのかもしれないな。オンラインゲームを通して…。
俺が知らなかっただけで、両親はスマホでファンタジーの漫画やなろうの小説を読んでいたかもしれない。
若者のように、心ときめくお気に入りのキャラもいたかもしれない。
大人になって「オタク趣味をやめる」というのは、本とテレビだけの時代と違って、「表向きやめるだけ」のことで、本質的にはやめていない大人はもしかしたらものすごくたくさんいるのではないだろうか。
息子や娘がその事実に気づいていないだけで──
「私、これ買うわ。」
ユーリが手にしているのは国民的RPGオンラインゲームの攻略本とロマンシングなサガのデザイナーの画集。
「攻略本って…オンラインゲーム、始めるの?ユーリ。」
「小説を書いてるからその時間はないけど──眺めてるだけで楽しいからいいの。それにこの画集、こんな美しい絵の本、バザルモアにはないわ。」
恍惚とした顔で、彼女は言った。
「僕はこれを買います。」
ケートが手にしてのは、ファイナルなファンタジーのオンラインゲー厶資料集。やはりこれも国民的RPGだ。
あと、古いファミコンの雑誌。
異世界に行く前、学生の頃読んでいた勇者の『記憶』なんだろうか?
「ケート、オンラインゲームわかるの?」
「まだあまりわからないですが、これをやってみたいなと強く思っていた感情の『記憶』が出てきました。」
そうだったんだな。父さん。
俺や母さんの手前、我慢してたのかな。
てか母さんと違ってファイナルなファンタジー派だったんだな、父さんは。
周辺の棚も見ていたら、さっきの薄い本の会計を済ませたらしく福田が合流してきた。
「おつーっす。遠くから見ても、みんなすごい目立つなぁ〜。」
「観光客の方々ってことで。」
なるほどたしかにな、と福田と川口は笑った。
他のコーナーもひと通り見たあと、俺たちはマックへ移動して飯を食うことにした。
福田と川口は、飯はすでに食ってあるので帰宅するという。
──多分今日買ったものについてマックであれこれ聞かれないよう、帰る事にしたんだろうな。
わかる。わかるぞ。
俺たちは二人に別れを告げ、マックへ。
混んではいたが、時間的にもう中高生はいなく、席はすぐに見つけることができた
ユーリ、ケート、そしてエイヴの手にはそれぞれまんだらけの袋。
ゲーム以外のコーナーでもいくらか買っていたので、少し重そうだ。
──こりゃ帰りは電車じゃなくて、ハイヤーを呼んで荷物を乗せたほうがいいかもしれないな。
ちなみに先程のゲーム棚以外で買ったものはというと…
ユーリは主に漫画家やイラストレーターたちの美麗なイラスト集と悪役令嬢系のコミカライズ作品のマンガ
ケートはお父さんやお姉さんへのお土産にと、古いオモチャやプライズマシーン系のぬいぐるみと、イラスト集
エイヴは昔の日本のサブカルチャー文化がわかるような古い雑誌類とイラスト集
「みんなイラスト集買ってるね?!」
と、俺が聞くと、
「だってやっぱり、珍しいもの。どれも綺麗で、眺めてるだけでも素敵。」
「ああ、日本の絵の文化は素晴らしい。芸術だな。」
「これほど芸術的な本が山ほど売られているなんて、バザルモアでは考えられません…!」
それぞれ日本の漫画イラスト文化をベタ褒めなようす。
ちなみにケートは日本円を持っていないので、ユーリが払ってあげたようだ。
申し訳ながっていたが、そのぶんバザルの城下町でなにか買ってねという約束になったようである。
俺たちはめいめい気になったバーガーセットを食べ、デザートにオレオのフルーリーやアップルパイも頼み、久しぶりのマックを楽しんだ。
ユーリとケートにとっては初めてのマック。
日頃食べている高級な肉料理に比べたらどうなのかは特に口にしていなかったが、どれもこれも珍しくて面白いと大喜びだった。
中でもシェイクとフルーリーが殊更珍しいとはしゃいでいた。
バザルモアには似たようなものがなかったんだろうな。
意外なことに、エイヴ──イブはかつてこっちの世界での姿の元の持ち主・英国人の「エイヴ」と来たことがあるようだった。
じゃあその時のイブはどんな姿でいたんだろう?
イギリスで?日本で?
エイヴとはつまるところどんな間柄だったんだろう?
──と、いろいろ気になってしまったが、俺はなんとなく聞けないでいたのだった。




