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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
123/162

【123】勇者の秘密


「ちょ、ちょっ…渚!」


急にユーリが袖を引いてきた。


「なに?ユーリ。」

「まだ心の準備が……!」


ユーリは、額に汗をかいて頬を真っ赤にしている。



あ、そっか、考えてみれば──


「ユーリちゃん緊張してる〜?」

「ウム、元々は夫婦だった二人だものな。生まれ変わっての再会か。」


福田と川口がワクワクした顔でこちらを見ている。


「もうっ、二人とも!そういうの聞くとよけい緊張するから…!」



その時だった。



「お父様!姉様!異世界からのお客人というのは本当なんですか?!」


バタンとドアが開いて、薄茶色の髪の美少年が応接間に入ってきた。


「剣の稽古を途中で切り上げて、馬で早駆けして帰ってまいりました!」


侯爵と同じようなノーカラーの白いシャツの袖をまくりあげて、手には乗馬用だろうか。白くて短い手袋をつけている。

ズボンもまた乗馬用らしい形の西洋服で、足元にはブーツを履いている。



「こら、ケート!お客人の前で失礼だぞ!」


公爵に叱られて、ケートと呼ばれた少年は俺たちに気づき、深々とお辞儀をした。


「申し訳ありませんでした。こちらに皆様お揃いだとは気づかずに…ご無礼をお詫びします。」



まだ15歳かそこらだろうか。

声変わりもしきってないような、みずみずしい中学生くらいの声。


しかし紳士的に振る舞うその姿は、やはり貴族の子息なんだなあと思えてならない──


けど。



──父さんなのか?!

だとしたら、なんちゅう美少年に生まれ変わってんだよ!


いや、母さんも大概だけどさ!


どこかの「味の玉手箱や〜!!」とか言ってる太めなグルメレポーターみたいに、若いころは美少年だったとか、そういう系のおじさんじゃないじゃん!

普通のおじさんだったじゃん!


なんで生まれ変わったらハリウッドもビックリ級になれるの?!

そんなんなら俺も転生したいよ…!


「…やはりこれは、勇者として人々を救って徳を積んだからだろうか…」

「ん?なにか言ったぁ?渚〜」


あ、いかん。心のなかで思ったつもりがボソッと声に出てしまっていた。


「いや、なんでもない。」



「ご紹介が遅れました。先程お話しました、末の子のケートです。」

「父様、先程の話ってなに?僕のいないところで──」


ケートがぷーっと膨れたような顔をしてみせる。


「いや、お前が落馬して死にかけたが奇跡の生還をはたしたという話だよ。」

「そうなんです。実は僕、神様とその時お話したんですよね…ってその話を言っても、あまり信じてもらえなくて。」

「私は信じていてよ、ケート。」

「クララ姉様…。」

「だから、この方達にあなたのことをお話しようとしていたところなの。あなたの持つ『記憶』の話を──」



俺はハッとして、イブの顔を見た。

するとイブは、こくりと頷いてきた。


やっぱり…やっぱり、この子の中に父さんの魂が入っているんだ…!



ユーリはどうしてるだろうと横を見ると──


「……あの方が勇者様…?」


やはり俺同様、心で思ったことがつぶやきになって出てきてるけど…


うっわ!

ポーッとして、頬をピンクに染めている…!

漫画だったら目の中にハートマークが入ってそうな感じ…!


こ、こ、これは……


これは、話にならなさそうだから放っておこう…!!



「ケートくん、落馬したときに体験した、君の『記憶』の話を教えてもらえないでしょうか。なぜなら─」


俺は、りんごのように赤くなってるユーリの肩をポンと触り、


「彼女もまた、君と同じような体験をしているからです。」


と、伝えた。


ケートの方も何かに気づいたのか、ユーリをじっと見つめている。



「──わかりました。僕におきたことついて、お話しましょう。」


彼は、自らの父と姉に目線を向け、互いにコクリと頷いて了承を得たようだ。


「僕は、落馬するときまではこのリンリー家の三女──末娘でした。」




「「「……え?」」」



驚きのあまり、間があいてしまった。



え?三女?


「てことは、女の…子…?!」

「ええ。ケートは、間違いなく私の妹ですわ。」


クララが答えた。

侯爵もそれに続く。


「この子はもともと活発で、15歳にして剣の腕も大人の男性も負かすほどの腕前だったのですが、死から蘇ってから、その…なんといいますか…。」

「男の子そのものになってしまったんですわ。」

「なんだか、こっちのほうが暮らしやすいんだよね。姉様だって、別に構わないって言ってたでしょ?」


ケートは、悪びれずに、クララに向かってそう言った。


「ええ、私はあなたが望むように振る舞うのでいいと思っているわ。ただ──あなたの中に誰かがいるのが、父様も私も少し…気になるの。」

「ああ。たまに、まるで見てきたかのように、私以上の『異世界好み』な知識を見せるようになった。まるで、その──異世界の誰かの『記憶』を持っているかのように。」

「それは──」


ケートは、そう言うと俺達の方を見た。


「僕の『記憶』はまだ不鮮明で、探り探りでしかないんですが、きっとそこのお兄さんたちと同じ国の物なんだと思います。」


俺たち──日本人としての記憶。


「石鹸の泡のように頭に浮かんでは弾けて消える、記憶の中の風景にいる人々は、彼らと同じ、僕達より少し薄い顔をした人種。その人たちの暮らす街──」


ケートは、そしてユーリの方をしっかりと見た。


「そこの女の子も、きっと同じような状態なんじゃないでしょうか?」

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