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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
121/162

【121】異世界の侯爵家は『異世界好み』


「うわあ……素敵!」



馬車に揺られること10分。

俺たちはリンリー侯爵家に到着した。


侯爵家の造りはバザルモアにしては珍しく西洋的なデザインで、白い石造りのお屋敷だった。


扉や窓、バルコニーもヨーロッパの建物のような雰囲気で、ユーリは目をキラキラさせながらうっとりと眺めている。


「なんて素敵なおうち……まるで、なろうの小説のように美しいわ…!!」


「「「…………。」」」


俺たち日本人男子3人組はそのセリフにそこはかとない違和感を感じつつも、とりあえず何も言わないでおいた。



「ユーリ!」


バルコニーから声がして、見上げるとクララが手を振っていた。


「クララ様!こ、このたびは突然の訪問にもかかわらず、お招きいただき──」

「フフッ、そんな硬い挨拶はいいですわ。サワダ!客間にお通しして頂戴」

「かしこまりました。」




俺たちは侯爵家の広い客間に案内され、西洋風な布張りのソファに身を沈めた。


壁にはヒゲの生えた渋い男性の肖像画が飾ってある。

どことなく、元サッカー選手のベッカムに似ている。

服はクルタではなく、西洋風なノーカラーの白いシャツだ。


天井は木製の扇風機。

灯りは壁の各所に取り付けてある魔石ランプだ。

(火を使わないで光っているランプは全て魔石の力によるものなので、魔石ランプと呼ばれている)




「みなさま、ようこそお越しくださいました!」


クララは客間に入ってくるなり、両手をひろげて歓迎の意を表した。


薄緑色の、1950年代のアメリカ映画のようなドレスを着ている。

若い頃のオードリー・ヘプバーンのような、清楚なデザインの裾が広がった半袖のワンピースだ。


髪もポニーテールに結っている。



─これはあれなのかな、やはり『異世界好み』のコーデなのかな…?



「クララ様、お土産を持ってまいりました。お収めください。」


ユーリが頭を下げ、予め腹のポケットから出しておいた段ボール箱を川口と福田がそれぞれ持ち、客間の机の上に置いて開いてみせた。


「まあ、これは……!!」


中を開けて見たクララは、両頬を両手で覆い、歓喜の声を上げた。


「なんて可愛らしいデザインのものたち…!」


中に入っているのはユーリおすすめの、Seriaの商品1つずつ詰め合わせセットである。


別の世界から来た人だってバレてるから、折角なんでバザルモアだと作ることができなさそうな物をたくさん混ぜ込んでみたようだ。



化粧用のスタンドミラー、髪留めクリップ、カール用のブラシ、カラーヘアピン、ヘアバンドなどのおしゃれ関係アイテムや、卓上や室内に設置できる夏っぽいデザインのかざりもの、スリッパや水玉模様のコップなどの雑貨類など──


書き上げるときりがないほど、Seriaの女の子が好きそうなアイテムを揃えました!という箱の中身。



ブランド品とか、もう少し高級なもののほうがいいんじゃないか…と提案したんだけど、ユーリがコレがいいと言い張るので、その言葉を信じて従ったらうまくいったようだ。


「ありがとう、ユーリ!お部屋で飾って、全部使いますわ!」


クララは、ユーリの両手を握った。


ユーリは頬を染め、よかった…と嬉しそうに笑った。



「サワダ、この箱を私の部屋に運んで頂戴…落とさないよう気をつけてね」

「かしこまりました。」


執事の老紳士が近づいたので、俺は思い切って気になっていたことを聞いてみた。


「あの、サワダって自分の国だとよくある名前なんですけど、こちらの方…ですよね?」


執事の紳士はホッホッと笑い、


「これはご主人様が付けてくださったニックネームなんでございますよ。」


と言った。


「ニックネーム?」

「父が、私が生まれるより前からそう呼んでいたので、本当の名前よりもサワダのほうがしっくりきてますわ。」


サワダ…沢田?日本人かな。

お父様のリンリー侯爵も、どうやら娘にもまさる『異世界好み』な予感がしてきたぞ。


「執事さん、本当のお名前はなんとおっしゃるんですか?」


「…ジュリー?」


ふ、と本人が答えるより早くユーリが答えたので、一同驚きにつつまれた。


「─左様でございます。どうして私めの名前を?」

「ユーリ、『記憶』の中に彼の存在があるの?」


ユーリは、顎に指を当てて一生懸命思い出そうとしている。


「…いえ、なんとなくそう思っただけです。ごめんなさい。」


どうやらそれ以上は思い出せなかったようだ。



本名ジュリー、通称サワダ。

日本人だとしたら、逆のような気がしないでもないけど…?


俺の中の記憶の扉も開きそうで開かなかったので、あとで侯爵に会ったとき聞いてみようと思った。



「侯爵はご在宅ですか?クララ様」


俺は彼女に聞いてみたら、わざと頬を膨らせたような表情をとり


「父ももうすぐくるわ。しかし、もう!みんなクララ様じゃなくて呼び捨てでいいですのよ。異世界の方はこの国の階級なんて、気にしなくてよくてよ。」


そうはいっても、話し方とか雰囲気がすでに貴族ーっ!て感じだからなあ。


日本でもたまにいる、身分が高いけど「くだけて接してね」と言ってくる人は、どう対応したらいいか微妙に困る。


「じゃあ、クララ……」


ユーリが、勇気を持って呼んでみた。

するとクララはとても嬉しそうに、


「それでいいんですわ、ユーリ!私達、お友達なんだから」


と言って、ユーリに微笑みかけた。


「歳も近いんじゃなくて?私は18歳。ユーリは?」

「私は15歳です。」

「まあ、少し大人っぽく見えるのね、ユーリは。同い年かと思ってたけど、妹みたいな感じなのね。」



そこへ、執事のサワダさんが声をかけてきた。


「クララ様、みなさま、ダルバード侯爵様がお見えになりました。」



扉を開けて入ってきたのは、壁の肖像画のその人。髭の侯爵。


「おお!異世界の皆様、ようこそお越しくださいました…!!お会いできて嬉しく思いますぞ」



手を広げて歓迎の意を表してくれているその姿を見て、俺たちはひそかに驚いていた。



ノーカラーのシャツの上から、薄手の麻布で作ったダブルのホワイトサマースーツを着たその姿は、『LEON』のモデルでいそうな「イケてるオジサマ」。



まさに現代のお金持ちの紳士が「リゾートを楽しんでます」といった、異世界度ゼロの格好だったのだ──!


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