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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
120/162

【120】異世界の宿で優雅なひととき


バザルモア王国の城下町・バザル。



大きな川にぐるっと囲まれた島のような地形で、その真ん中に壁に囲われた貴族の暮らす敷地があり、さらにその中に城壁に囲われた王城がある。


平民が暮らす城下町には壁がないが、大河が自然の要塞のようになっているのだろう。


橋はチェマの街の方角へと続く街道がある南だけ。

東西北には対岸に渡る船着き場がある。


だからこの城下町は、万が一南の橋が落とされたら王城ごと孤立してしまう危なげな作りではあるのだが、それでも人々はその場所を離れず島の中で長年暮らして繁栄させているようだ。




「うっわ〜!タラートのホテルみたいに綺麗だなー、ここ。住みて〜っ!」


福田が、豪奢な「待合い宿」のロビーを見て歓喜の声を上げた。



俺たちは今、貴族の敷地の入口で侯爵家への確認待ちをさせられている。


といっても堅苦しい感じではなく、実に優雅。

入口の門脇に建てられた豪奢なホテルのロビーで、ゆったりと花のお茶を飲みながら過ごす状態である。


そこはホテル・タラートを小さくしたようなクラシカルな美しい南国風のホテルで、「待合い宿」といっても駅の待合室のようなせせこましい感じはなく、日頃貴族のお目通り待ちをする人々の暮らしぶりの良さを象徴している感じがした。

おそらく、ここを訪れるのは力のある商人や他国から来た要人などだろう。


場合によっては数日間待つ事になるので、高級ホテルの形式をしているのだとイブが教えてくれた。



「なんかここでずっと滞在してもいい感じだよね、安全そうだし…」


俺は、冷たく冷やした花のお茶を飲みながら、ロビーの長椅子にもたれかかった。

細くてしなるヤシ系の植物素材で組み立てられた椅子と机が、広いロビーにたくさん設置されている。

元世界の籐家具とほぼ同じ感じで、南国らしさを醸し出している。


高い天井では大きな木製の扇風機がカラカラとまわり、窓から入る風とあわさって心地いい。


「本当だな。しかし、この国は南国なのに暑さがキツく感じないな。東京のほうが余程暑苦しいぞ。」


川口は窓辺に立って、外の風を浴びている。


「風がヒンヤリとしているからかな。あと…紫外線が弱い…?」

「そうだな。おそらく君たちの世界と紫外線の種類が違うのだろう。いわゆる日焼けはあまりしないな。」


イブが、お茶うけのドライマンゴーをつまみながら、教えてくれた。


「確かに、太陽の下にいると暑いは暑いけど皮膚ヒリヒリしないよねえ〜、こっちだと。ユーリちゃんみたいに色白の人も多いし。」

「私はそんなに色白ってほどじゃないわ…クララ様みたいな貴族の方に比べたら、普通よ。」


ユーリは、スマホでなろう小説を読んでいる。

最近は聖女の手記を書くだけじゃなく、他人の作品を読むことも楽しんでいるようだ。


「えーっ、ユーリちゃん、スマホ電波つながるの?圏外かと思ってた。」

「これはダウンロードした小説をオフラインで読んでるの。もちろん圏外よ。」


異世界でもネット小説が読みたい!とユーリが言うので、なろうのオフラインリーダーのアプリを教えてあげたのである。

好きな小説を恵比寿にいるうちにごそっとダウンロードしておいて、圏外の状態になっても読めるようにしておくわけだ。


「へえ〜、どんな小説が好きなの?」


福田に聞かれたユーリは少し焦ったような顔になり、コホンコホンと咳をした。


「男爵令嬢に転生するお話とか…恋愛ものとかかしら。」


ちょっと頬が赤くなってる。

この世界の人は、自分のプライベートな趣味を見せるのを恥ずかしがるようだから、どんな物語に陶酔するかはあまり言いたくないのかもしれない。


俺は助け舟を出すことにした。


「ユーリはこっちに来てる間、『武勇伝』のなろう小説の連載はどうする予定?」


ちなみに武勇伝というのが、勇者と聖女の手記をなろうで書くときのペンネームだ。


「私、寝る前と起きた時にスマホで小説を書く習慣がついてしまったから、朝ごはん前の身支度をしてる時にパッと恵比寿に一人で転移して、アップロードしてから戻ってくるつもりよ。」


そうか、書くだけならメモアプリとかでオフラインでもできるもんね。


「まあでもいい宿が見つからなかったら、寝る時だけ恵比寿に帰ることになるかもしれないけど──」


それか、日が暮れたらホテル・タラートに異世界内転移して泊まるかだな。


「え〜っ、ここに泊まれるんじゃないのー?」

「それはできんな。ここは待機状態の者しかいることはできない宿だ。それに、我々はおそらくそろそろ──待ち人来たる、といった頃かな。」


イブが花のお茶を飲みながら、そう告げた。



ふとロビーの入口の方を見ると、高級そうな薄緑色のクルタを着た、白髪の老紳士が入ってきた姿が目に入った。

彼もこちらの姿を見つけたようで、近づいてくるなり、上品な声で話しかけてきた。


「魔道具店のユーリ様というのは、どちらのお方でしょうか…」

「あ、ハイ、私です。」


ユーリが手を上げた。


「お待たせいたしましたユーリ様。クララ・リンリー様より、お仲間の方々と共に屋敷にご案内するよう命じられてまいりました。私はリンリー家の執事、サワダと申します。」


あ、執事っぽいなと思ったら、やっぱり執事だった。


「外に馬車を2台ご用意しておりますので、どうぞ皆様、お乗りくださいませ。」



イブはスッと立ち上がり、俺達の方を見て微笑んだ。


「ほら、な。待ち人は来たろう?」



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