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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
119/162

【119】真夏は異世界に限るらしい


「ユーリの転移魔法、一度行ったところにだったらワープできるようになったんだよね?」

「そうよ。自分か同行者が行った街なら、転移で飛べるわ」

「じゃあ、ホテル・タラートのある市場町とユーリの魔道具店があるチェマの街は、簡単に行き来できるわけだよね。」


それを聞いて、川口と福田が笑顔になった。


「うむ、そうだよな。車を使わなくても街間の移動ができるんだよな…ウォォ、ゲームでよくあるファストトラベルじゃないか、まさに!」

「じゃあさぁ、ホテルタラートに宿泊しながら、昼だけチェマの街で勇者探しをするとかしてもいいってわけだよねえ?!」


ユーリも手を胸のあたりで組み、ワクワクした顔でイブを見た。


「そうよね。私たち、ダンジョンに行ってても恵比寿のマンションに戻ることだけ考えてて、バザルモア内であっちこちに転移すること、まだしてなかったわ…!」

「ああ、寝泊まりするぶんにはこのマンションに戻るのが便利すぎて、ダンジョンから他の宿泊地に行ける事を完全に失念していた。」


イブもまた、なるほどねという顔をして答えたので、俺は疑問に思ったことを聞いてみた。


「前の勇者パーティーでは、そうやって宿泊所のある街と戦いの場を飛びながら暮らすみたいなことはしてなかったんですか?」

「前の勇者と聖女だと行った事のある街から街へは転移できたが、ダンジョンの中から街へと移る事はできなかったな。ましてや、異世界と行き来しながら暮らすのは私も初めての体験だ。」


そうなのか。イブにとっても初めての体験──要するにそれって、


「…ユーリが、まだレベルも少ない今の時点で、既に前の聖女を上回るスキルを持っているという事だ。」



ユーリ、喜んでるかな…と思って顔を見てみたら、予想外に深刻な顔をしていた。

前の聖女のように戦わなければいけないことや、勇者が見つかっていないことからの一人ぼっちの不安感などが心に去来しているのかもしれない。


「やったじゃん、ユーリちゃんスゴいな〜!いやー、最初会った時から只者じゃない女の子だと思ってたんだよなぁ〜」


空気を気にしない福田の褒め言葉だけが、部屋の中に響いた。




「異世界で雨に見舞われたときのぬかるみや、道が作られていないような場所の凸凹道も走れるように、クロスカントリー型の車を買ったんだけど──」


俺は、みんなに車についての説明を始めた。


「もしチェマの街で勇者が見つからなかった場合は別の大きな街に移動して、そこでも見つからなかったら別の街へ、という形にしたらどうだろう。」

「そうね。一度行きさえすれば、そこへは私の転移で連れて行けるようになるものね。」


ユーリは腕を組んでうなずいた。


「バザルモア王国の中で、イブが過去に行った事がある街なら行けると思うんだけど…チェマよりも大きな街となると──」

「王城のあるバザルくらいだな。バザル城下町だ。」


イブが、傍らにあるたたんだ大きな紙を開くと、そこには地図が描いてあった。

海から北に向かって大きな川が流れていて、その合間合間に都市が築かれている国。


「バザルモア王国の地図だ…!」

「そう。チェマの街で買っておいたのだ。この海沿いのところがタラートの市場街、そこから北上した大きな街が、ユーリの店のあるチェマの街。そして──」


彼女は、そこからさらに北にある大きな街を指した。

ぐるっと川に囲まれている都市だ。


「──ここに王城があり、貴族の多くはこの都市に住んでいる。先日訪れたご令嬢のリンリー家も、そのひとつだな。」

「クララ様はバザルからわざわざ私の店にやって来てくれたのね。」


たった3日間のセールだったのに、すごい早耳だな、クララ様。


彼女が『異世界好み』だという事を知っている身内の者が、小さな「ド○キホーテ」と化したユーリの店の噂を伝えて、最終日にギリギリセーフで訪問してきたのかもしれない。



「バザル城下町なら、前の勇者たちと行ったことがあるが…ユーリも親と行ったことがあるのではないか?馬車なら1泊2日ほどで行けるだろう。」


イブが、ユーリの顔を見た。


「実はないの…親が届け物で行くときは私が店番をしなきゃいけなかったし、女の子が一人で泊まりの旅をするのはいけないって言われてたから。」


そうか、人さらいがいるんだもんな。

親が亡くなったから一人でタラートの市場に来たんだろうけど、結局悪徳奴隷商にさらわれかけていたし…。


魔物の危険もあるだろうから、戦いができない限り、この世界の人間の行動範囲は驚くほど狭いのかもしれない。


(まあ、元世界の多くの先進国だって、少女が一人で旅をできるくらいの治安になったのは20世紀後半からの話だもんな。考えてみれば。)



「ユーリ、リンリー侯爵家…クララさんの所に日本製のかわいい雑貨でも届けに行こうか?」 

「行きたい!」


俺の提案に、ユーリは元気よく答えた。


「クララ様にまたお会いしたいわ。なんだか、彼女とはお友達になれる気がするし……お父様であらされるリンリー侯爵様なら剣技もお強い方だと聞くから、勇者についてなにかご存知かもしれない。」

「そうだな、あの者は確かになかなかの剣の使い手ではあったと記憶している。」


イブもリンリー家と関わりがあるようだ。

それなら臆することなく訪ねていけそうだな。

  

「よし、じゃあみんなでバザル城下町へと行ってみよう。海外旅行も国内旅行も混んでる今、バザルモア国内で旅行してみようよ!」

「「おおーっ、楽しそう!」」


川口と福田も喜びの声を上げた。




そうと決まれば、家事代行の紗絵さんに秋までお休みしてもらって──急なキャンセルだと申し訳ないから、お給料はちゃんと払おう。

そして、翻訳のアルバイトも秋まで休止だ。

急ぎじゃない仕事は、秋までためておいてもらおう。



あとは、ユーリと一緒にクララさんへのプレゼントを買いに行かなきゃな。



混みすぎてる東京で閉じこもってクサクサするより、楽しい夏になりそうだ…!

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