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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
113/162

【113】異世界の芸能分野はだいぶ未開発


在庫一掃セール最終日。



沢山あって困っていたユーリの店の魔道具も、半分以下に減っていた。


ここはひとつ、策を練って


「最終日特別価格!値下げしました」


という大きな看板文字をイブに屋根と壁に転写してもらい、買うか迷っている人の購買意欲をあげることにしよう。



各商品の黄色いポップの値段表示も、わざわざ上から赤い線を引き、下に安くなった価格を赤い太文字で書く。


実際はそこそこ程度の値下げでも、そうするだけでだいぶ頑張って下げましたプライスに感じてもらえる。




「歌も流したほうが良かったかしら…」

「歌?」


開店直前、ユーリが謎の呟きをしたので、聞き返してみた。


「ほら新宿にあったペンギンくんのイラストがあるお店やさん、店内でお店の名前を連呼する歌がかかっていたでしょう?」


ああ、あるね。

「♪ドンドンドン〜…」という独特のオリジナルソングが、いらっしゃいませの呼び込みメッセージとともにかかってる。


「ここのお店もオリジナルソングをかけたほうが、より活気づいたかしら?」

「アハハ、それはあるかもね…ユーリ、今から歌う?あの店の歌、女性歌手だっただろうし─」

「えっ、そ、それは無理よ!人前で歌ったことなんてないもの!」


ユーリは手の平をブンブン振って、首もふるふると横振りした。

よほど恥ずかしいのだろう。


「私はてっきり、渚か福田くんあたりが歌うものかと思って言ったんだけど…」


川口はさり気なく外されてるぞ。

何故だ。

ヌーっとした雰囲気か、それともド低い声質のせいか。


「渚の世界は、歌が溢れているんでしょう?歌い手じゃなくて一般の人でも、趣味で歌を歌うようだし─」


まあ、プロの歌手までいかなくても「歌い手」と呼ぶ文化はあるけど─うちの国の場合は。


プロのイラストレーターじゃないけど「絵師」と呼ぶ文化もあるな。

(どちらも、アマチュアだけど人気によってそう呼ばれるようになっていった人と、自称してる人が混じっている感じだけどね。)


「異世界では、歌手っていないの?」

「歌うスキルがある人は、なにかをたたえる歌を歌うわ。」

「なにかって?」

「神とか、神獣とか、森羅万象の色々な恵みにたいしてとか─基本的に褒める内容の歌ね。祝日とかに大きな教会へ行くと聞けるわ。」


へえー!

異世界、想像してたより文化はそこそこ発展してるけど、歌の文化はあまり発展してないのかな。



「一般市民が自由に流行歌を口ずさむとかは、ないの?」

「歌い手のマネをしてこっそり家で歌ったりしてる人は沢山いるわよ。でも、恥ずかしいから人には見せない。絵とかも、そうよ。渚、この建物にペンギンくんの絵を描いてくれたでしょう?」

「え?ああ、うん。」


自分なりにデザインはしてみたけど、パクりみたいなもんだけどね。アハハ


「人に絵を見せる人なんて、この世界にはあまりいないから、街の人の目は大いにひいたと思うわよ。」



そういえば、店の小さな看板にランプやフォークや馬のマークなどが描かれてあるほかは、あまり絵を見かけないな。チェマの街では。


ホテル・タラートには肖像画とかホテルの外観画とか飾ってあった気がしたけど、あれは超高級ホテルだから特別なのかな。

漫画絵みたいなイラストは、当然皆無だ。


─だとしたら、「絵師」もいるにはいるけど、スキルを持って生まれてきた人だけだから、絶対的人数が少ないってことになるのかな。


そこら辺の親父さんでもイラストが描けたりする、今の日本とは大違いだ。


─とはいえ、元世界でも日本人が変わってるだけで、日本以外の国ならそういう地域もたくさんあるかもしれないよな……なんてことを思ったりした。



「日本は、かわいい絵がものすごく沢山溢れているもんね。私、大好き。聖女ユーコの『記憶』の中にも、たくさんの絵の記憶が入ってるわ。もちろん、歌も。」

「ユーリも歌ってみるといいよ。いくつか覚えたらカラオケ行ってみようか。」


それを聞くと、ユーリはヒエッ…とした顔をした。


「聖女ユーコが好きだった歌を歌う施設だということは知ってるわ…でも私は…『記憶』に頼ればできるかしら」

「きっと出来るよ。みんなで行こう」

「みんなでなんて、恥ずかしくて声が出なくなるかもしれないわ…」


ユーリは両頬を手でおさえてる。



─カラオケがなかった頃の日本人も、こうだったのかもしれないな。


歌なんて学校で歌うくらいだろうから、カラオケが誕生した頃、人前で初めてカラオケを歌う時なんて、ものすごく緊張したんだろうなあ。



考えてみればダンスとかコントとかを「今すぐやってみて」と言われたら、俺もどうしていいかわからず、恥ずかしくて固まってしまうだろう。


でも、人に見せられる性格の人はプロじゃなくてもさらっとやってのけて、動画でアップしたりしてるし、漫画やイラストもアップして人に見せてる人は多い。


芸術って、誰もが楽しめるようになるまで時間をかけて浸透させていくものだけど、なにかのキッカケでブワッと「人に見せられる人」が出てくるものなんだろうな。



あれ、そういえば──


「ユーリ、小説はあるの?この世界には。」

「あるわよ。本は高いのから安いのまで、色々出てるわ。実用書が多いけど、誰かが空想した物語を書いてある小説も、結構あるわ。私、好きよ」


そうか、だからサラッと聖女ユーコの手記を小説にすることを申し出れたのか。


「私も、聖女ユーコと融合する前、沢山の本を読んでいたのよ。もっとも、親の買った本が多いけど──この家の二階にたくさんしまってあるわよ」



異世界の小説。気になるな。


この感じだと、この国に漫画はなくても図書館はありそうだ。



「このセールが終わったらいろいろ読ませてもらおうかな。」


ユーリは、ギクッとした顔をした。


「いいけど、その、我が家のは恋愛の本ばかりだから、渚にはつまらないかもしれないわ…よ?」



うーん、なおさら読んでみたい。

純粋な、文化的好奇心が湧いてくる。


ポケットに入れて日本に持ち帰り、読書びたりするのも悪くないかもしれない。



異世界の「紙の本」で読書三昧、新たな趣味になるかもしれない。

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