【11】旅行の計画を練るらしい
駅ビルの本屋で沖縄のガイドブックを買い、つい調子に乗ってハワイとアメリカ西海岸、台湾、タイ、香港のも買ってしまった。
どこも行きたかった所だ。
すぐには行けなくても、ガイドブックを眺めているだけでもワクワクした気持ちになれる。
しかし、服に靴に本数冊に…となると、ひとしきり重さが増した気がする。
本屋と同じ階にスタバがあったので、俺はアイスコーヒーを飲みながら、荷物をBEAMSで買った買い物バッグにいくつか移す作業をした。
もちろん、イートインだ。
ここのスタバは近いししょっちゅう来ることになりそうだから、スターバックスカードを作っておこう。
(高校の時、空のスタバカードを誰かにもらったけど、チャージすることなくどこかに行っちゃったんだよね。高いからそんなに寄らなかったし…)
チャージしたぶんからガンガン使っていくとゴールド会員になれるそうだから、細かく入れるのも面倒なので3万円入れておいた。
スマホにスタバアプリを入れて連携するのも忘れない。
これでカード一枚持つだけで、朝ごはんやおやつを食べに来れるぞ。
3万円も入れておけば、しばらくもつだろう。
海外だと使えないらしいけど、国内ならどこでも使えるし、便利便利。
アイスコーヒーを飲みながら、沖縄のガイドブックをパラパラ眺める。
(一人で行くのも寂しいから、誰か誘おうかな)
ふっと梨亜の顔が浮かんだが、まだLINEで喋ってすらしてないのに旅に誘うなんてとんでもない。
誘うとしたら、キャンプに行った友達連中あたりが妥当だろう。
男ばかりだけど、気楽でいい。
現地で新しい出会いもあるかもしれないしね。
(みんな金はないから…俺が飛行機代とホテル代出してやりたいな。でもそんな金を持ってるなんて、なんて言って説明しよう…)
抽選で沖縄旅行プレゼントが当たった!とでも言おうか。
3名一組くらいなら、ありえる範囲かな。
よし、さっそく聞いてみよう。
俺は友達連中の中でも一番親しい間柄の、川口と福田にLINEで呼びかけてみた。
川口はゲームが得意な、どっしりした兄貴分の性格。
福田はアニメ好きで、ハキハキした明るい性格。
二人に共通して言えることは、根が真面目でちょっと古いタイプの男だということだ。
もしも友達の秘密を知ったとしても、チャラチャラと他人に言いふらす性格をしていない。
こいつらにはいつの日か、両親の秘密を話してもいいかもしれないと思っている。
《3名一組の沖縄旅行が抽選で当たったんだけど、行く?》
今は二人とも仕事をしてる時間だからすぐに返事は来ないかもしれないけど、おそらく飛びついてくるだろう。
返事待ちの間に、予約を入れるホテルを探そう。
全て俺がコーディネートしなければいけない。
ガイドブックによると、恩納村というエリアが観光ホテルが多く、ホテルのプライベートビーチもあるようだ。
那覇からは少し遠いが、レンタカーを借りればあちこち巡れるし大して気にならないだろう。
(いま5月だけど…もうとっくに海開きしてるんだな、沖縄では。暑そう。)
海、入りたいなあ…ビーチがあるホテルがいいな、絶対。
時期としては梅雨明けしてすぐくらいがいいだろう。
6月10日とか、そのあたりを狙って航空券の空席チェックもしてみた。
「余裕ありそうだな、よし!」
宿泊先はシェラトン沖縄というホテルにしよう。
3人なんで、そこそこ広めでベッドを3台用意してもらえる部屋が良い。
(ホテルによっては3人だと、一人はシングル、二人はキングサイズやダブルのベッドで寝る形の所もあるみたいだけど、男友達と一緒に寝るとかはできれば避けたい)
予約しようと思っているのはプレミアムラナイルームという新しくてキレイな部屋。
3泊4日で三人で30万円。
「もっとバカ高いホテルもあるけど、これくらいの価格帯が『抽選で当たった』というのに不自然じゃない範囲かな。」
航空券はビジネスクラスだと、三人分往復合計に25万から30万円くらいか。
こまかい諸費用あわせて70万円くらい用意しておいてあげれば大丈夫だろう。
「着いてからの食費はそれぞれで払う方が不自然じゃないけど、なんだかんだ理由をつけて奢れそうな所は奢ってあげよう。」
調べ物をしているうちに、川口と福田から
《マジか?!騙しじゃないよな?!》
《行きたい行きたい〜!!!!バイト休む!!!》
という返事が届いた。
バイトか…。
─前の家の近くのコンビニのバイト、辞めるって店長に伝えよう…!
丁度新人も入ったみたいだしな。
遠いから通うのが大変だし、もし働くとしたら恵比寿周辺で楽しんでできそうな仕事を探したい。
(正直言ってコンビニの店長は何かにつけて威張ってくる性格をしていて、あまり楽しんで働いてるとは言えない職場だった。)
「本当はもうバイトなんかしなくても大丈夫なのかもしれないけど、無職であのマンションに住んでるってのも怪しいから──なんかいい手はないかな。」
川口と福田に旅行計画についての返信文を書きながら、俺は新しい仕事について考えを巡らせていた。




