【108】異世界人とLINEしてみたらしい
『なあ、渚…』
ダンジョンから帰った翌日の夜。
ユーリに筋肉痛の治癒魔法をかけてもらってすっかり治り、各自自分の部屋へ戻った後──
川口から、ゴリラが思案してるみたいなLINEスタンプと、メッセージが届いた。
『筋肉痛ってさ、運動で傷んだ筋肉が修復されてより強い筋肉に育つ時に起きるっていうじゃないか』
それは俺も聞いたことがある。
上手く運動すれば痛みが出にくく鍛えることもできるらしいが、突然の大運動だと大概痛くなるもんだ。
『魔法で筋肉の傷を取ってもらったら、痛くなくなるかわりに筋肉も育たなくなるんだろうか?』
うーん…
俺はリアルなマグロが『……』と長考してるのと、『しばらくお待ち下さい』のスタンプを送ってから、ユーリにLINEで問い合わせてみることにした。
珍しく修行はないみたいで、すぐに短文の返事が返ってきた。
『筋肉のことは私わからない』
『イブに聞いてみるわ』
『渚が私とラインするの最初以来ね。』
なんかどこかたどたどしい感じもあるが、たしかに先日LINEを教えた時以来、特に会話をしてなかったっけ…。
イブと使ってみてるのかな?
彼女もLINEは利用していたようなので、連絡用に俺も友達登録はさせてもらった。(会話はまだしたことがない)
5分くらいたったのち、ユーリから返事が来た。
『筋肉は作って』
──なんて?
俺は魚人間がアワアワしてるスタンプとともに、
『筋トレでボディメイキング?それとも誤字?!』
と返信したら、LINEにもともと入ってる無料キャラクターの茶色いクマが、汗を出してるスタンプが送られてきた。
『ごめんなさい誤字』
『渚みたいな絵どこにあるの?』
『私もいろんな絵使ってみたい』
と、やはり若干たどたどしい返信メッセージが来たので、スタンプショップについてしばし説明──
プレミアムで使い放題の設定にして、言葉の予測から色んなスタンプが表示される使い方もできるが、いきなりだと難しいだろうから、まずはシンプルに普通の購入方法を。
スタンプショップを閲覧してるのだろうか?
かなり経った後、サンリオキャラクターのリボンをつけた猫が「ありがとう」と言ってるスタンプが送られてきた。
─えっ、これってユーリの中にある母さんの『記憶』…?
異世界人のユーリは、サンリオキャラを知らないはずだし─
「母さんもこっちの世界で生きてる間、LINEで連絡取り合うときはサンリオキャラスタンプ愛用してたっけ。」
俺はなんだか、しみじみとした気持ちになってしまった。
─ユーリに対して恋愛感情とか、そういうのが全く芽生えないのって、こういう部分がたまに見え隠れするから、なのかな…やっぱ。
すごい美少女だとはわかってるんだけどね。
─あ、でも、俺はお姉さん専科なので10代は恋愛対象外だから、どのみちあまりときめかないか…。
かといってイブにもなぜだか、本当になぜだか、ときめきにくいんだけど──理由は不明。
……と思ってるところに、イブから初めてのLINEメッセージが来た。
『ユーリから問われたが、筋肉を肥大させたいのか?渚。』
単刀直入。
声が聞こえてきそうな文だった。
俺の指輪によって翻訳されてるのではなく、ちゃんと日本語でLINEの文を書いている。
「川口が、筋肉を鍛えたいって言ってたから…と返信しよう。ところで、イブは日本語、書けるんだなあ」
初めてあった時の印象が英国人だったし、イブとしての正体をあかした時、翻訳の指輪をはめてくれるまでは英語か異世界語で話してたっけ。
だから、彼女のこちらの世界での基礎言語は「英語」の印象があった。
といっても、英国人男性から貰った在留カードにあわせてキャラ作りをしてたと思うので、本当の母国語は異世界の言葉なんだろうけど──
「ユーリは頭に半分、日本人が入ってるからすぐに『記憶』から取り出してマスターしたのかな?と思ってたけど、イブは純度100%異世界人だもんなあ。日本語の読み書きって、やはり翻訳の指輪任せなのかな?」
異世界から戻ってきたあと、川口に貸したイブの翻訳の指輪のかわりに、金庫に入ってた母の翻訳の指輪をイブに渡してあるのだ。
イブさん、喋んのだけじゃなく書くのも日本語上手いですね、と返信したら、
『翻訳の指輪をつけていれば、渚も異国の者と文章でも会話できるぞ。』
『ラフな会話や若者用語などもそれらしく翻訳してくれる、前の勇者パーティーが獲得した中でもトップクラスで優れた指輪だ。』
という返事とともに、スタンプが送られてきた。
某有名なあらいぐまのアニメキャラに「えっへん♪」というメッセージが添えられてるスタンプが──
「えっ、ラ○カル?!チョイス意外すぎるんですけど!!!」
俺はとりあえず川口に報告した。
『魔法は筋肉増強に支障ないらしいよ。』
『あとイブさんのスタンプ、ラス○ルだった。』
と報告すると、
『ラスカ○?!意外だなそれ!』
『ミステリアスなのに、そんなファンシーな面もあったのか』
川口から驚きの言葉の返信と、ゴリラがたまげた顔をしたスタンプが送られてきたのだった。




