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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
105/162

【105】異世界での勝利と王様


最深階、ボス部屋──



階段を降りると、いかにもな感じの大きなホール状の広間に出た。


「ってか、いつの間にかボス直前まで進んでたんだ、俺たち…」


3人がかりでやってきたとはいえ、いくらなんでも敵の数が少なすぎる。


─もしかして、俺たちが戦ってる間に、余計な魔物はイブがさり気なく倒していてくれたのかな?


1種類に付き1戦闘ずつしかしてない。

あたかもゲームで戦闘の基礎を覚えるための、チュートリアルのようだ。



「いいか?敵の索敵範囲に入るぞ。ターゲットは奥にいる、あの大きな影だ。」


見ると、ホール状になってる部屋の奥に、ドラゴンのような形をした大きな影が座っているのが見えた。

大きさはキャンピングカーくらいで、背中に羽がついている。


「「「ド、ドラゴンか…!」」」


俺たち日本人3人組は、恐怖と喜びの入り混じった声を出して、ヘッピリ腰気味に武器を構えた。


今まで戦った影の魔物は、真っ黒ではあるけど現実世界にいるなんらかの動物、猛獣と近い感じだった。


だから、正直言ってとうとうガチのファンタジー魔物に出会えたぞ…!という感動はある。

メチャクチャ怖いけど。


「あれは大蜥蜴の魔物だ。背中に小さな羽がついているが、飛行はできないし、火も吹かないから安心しろ。」


えっ…ドラゴンとは違うんだ。

それとも羽が退化して小さくなっただけで、ドラゴンはドラゴンなんだろうか?


「飛行しない分走るのはとても速いので、鈍足弾をかかすなよ、渚。──ユーリ、3人に耐毒と防御力強化の魔法をかけてやってくれ。」

「わかったわ。」


ユーリが呪文を唱え、俺達の体が柔らかな光に包まれる。


えーっと、それって…


元世界で言うところのコモドドラゴンが巨大になったみたいな生き物が死んで、魔物になった奴ってこと…?


「な、渚ぁ、あれさあ、ガキの頃……世界の果てまで行くバラエティ番組で見たやつじゃね…?」

「ウム、時速20kmで走って、人も動物も食う奴だよな……噛まれと死ぬ毒があると…」


川口と福田が冷や汗にまみれている。


「毒は無効化したわ。防御力も上がっているから、噛み千切られることはないくらい硬くなってるはずよ…!」


ユーリが励ましてくれたが、うんじゃあ安心だね!とはならない。

だって、頭からパックリいかれたらおしまいだよな、サイズ的に。



大蜥蜴は真っ黒な舌をチロチロ出し入れして、こっちをふり向いた。


「臭いに気づかれたぞ、渚!弾だ!」

「は、はい!」


俺は大蜥蜴が走り出すのと同時に、鈍足弾と毒化弾を打ち込んだ。

毒のある魔物だから、毒耐性があったらどうしよう…と思ったが、どうやら効くようだ。


ダッシュ時した瞬間はすごいスピードだったけど、これまで戦った魔物と同様にゆっくりになり、ガクガク痺れている動きに変わった。


「行けそうだぞ!福田!」

「オッケー!川口!」


前衛の二人が駆け出し、攻撃を始める。

俺は念の為、これまで戦った中で、弾の状態異常効果の解除が速かった魔物の時と同じ間隔で、次弾を撃ち込む。


ユーリは聖なる攻撃魔法のようなものがあるのだろうか?

光のつららみたいな物を手の平から発射して、魔物に突き刺しているようだ。




戦闘が始まって10分ほど経ち、弾の効果を途切れさすこともなく、俺たちは各々の攻撃スタイルに慣れてきた。


するとイブが、


「よし、仕上げよう。」


と言って短い呪文のような物を唱えると、紫色の光の玉を手の平から飛ばして魔物に当てた。


「防御力を大幅にダウンさせたぞ。攻撃を畳み掛けて、一気に仕留めるのだ。」


イブの弱体化魔法はかなり強力だったらしく、川口と福田、そしてユーリの攻撃を1分ほどくらった挙句、大蜥蜴の魔物はボフッと弾けた後、大きな魔石を落として消えた。


「「「おおーっ!」」」


俺たちは、魔石を囲んで歓声をあげた。


「これで魔力を使わないタイプの魔物との戦い方は、だいたい経験できたな。このダンジョンは、特殊な魔法攻撃を仕掛けてこない魔物の棲家なのだ。」


そうだったのか。

確かに、地球上にいる動物と似た猛獣タイプの魔物ばかりだった。



イブは、俺たちの事をジッと見つめた。


「ふむ…今の戦いで3人ともレベルが53になったようだな。」

「私はレベルが1上がって59になったわ。」


ユーリがニコニコしながらそう言った。


「イブさん、オンラインゲームであるような、レベルが高い人と共闘するとあまり上がらなくなるってのはないんですか?」

「おー、俺もそれ思ってたところだ。イブさんと一緒に戦うとレベルが上がらなくなるんじゃないかって…」


ゲーム好きの川口も、同じような疑問を持ったようだ。


「この世界では、そういうことは無いな。だから本当は私と組んだ上で、レベル200や300の敵を全て私の攻撃魔法一撃で倒していけば、一日にして君たちのレベルは物凄いことになるだろう。」


ヒエッ……


それは…嬉しいような、しかしなんかいちばん大事な部分が物足りないような……


「しかしそれでは、魔物の多様性に順応できないままハイレベルになってしまう。だから、せめてレベル上げの中で種類ごとの特性を知ってもらおうと思ったのだよ。」

「俺たちが格上挑戦しやすいように、段取りを組んでくれたんですね。」

「まあな。しかし私は補助をしたにすぎない。倒したのは君たち自身だ」


イブは、にっこり笑った。


「渚よ、君のポケットから取り出せる物の中には、ひたすら強い破壊力で根こそぎ壊し尽くすような物もある。人は焦ると、火力の高い物ばかりを選んでしまいがちだが──」


彼女は手を伸ばすと、俺の手をそっと握った。


「戦いの肝は、弱体化だ。弱まらせる程仲間を救い、環境への被害を減らせる。それを忘れないでいてほしい」


「わかりました…!」


俺はイブに誓った。




そんな強い戦闘道具が、俺のポケット──親の遺した宝物庫の中にはゴロゴロ入っているのか。


そりゃあ、誰かに使われたりしないよう、厳重に隠す訳だな。


─という事は、それを託したこの国の王様っていうのは、勝手に戦争に使ったりしないような、信頼に当たる人物だってことなのかな?



俺は王様に一度会ってみたくなった。


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