【104】異世界での急速レベル上げ
最初の魔物を倒してから、2時間ほど。
俺たちは、夢中になって進む先々に現れる影の魔物を倒していった。
とはいえ一匹あたりの倒すまでの時間がかかるから、そう大量にやれてるわけじゃない。
ズババーっと弱いのを沢山やるのではなく、格上対戦をじっくり数匹…ってな感じである。
時間はかかるけど、一匹倒すたびにレベルアップするから、だんだん魔石にするまでの時間が早くなっていく。
しかし、レベルアップの数値はだんだん減っていく。
ここらへんは、RPGゲームでもよくあることだ。
イブに「次はあれをやれ」と指示された魔物を倒す形で進んでいくと、毎回違う種族、違う攻撃方法の敵と戦う流れになるので、おのずと戦い方に慣れていく。
最初の牛型の影は攻撃を当てやすく、体力は多いがわかりやすいターゲットだったが、小さくて機敏な魔物だと自動照準をつけてても弾が当てにくかったりと難しい。
蛇のように長いものや、甲虫のように殻が硬くて弾の効き目が薄いものなどは、どう考えていいかわかりにくくて悩まされた。
蝙蝠や鳥の様に飛ぶ物だと川口の剣での攻撃は当てるのが困難で、異次元ポケットの中から自動照準付きのボウガンを出してチャレンジしてもらう事となった。
父の遺した冒険譚だと、そこらへんの戦いぶりはかなりざっくり程度にしか書かれていなくて、なろうで連載をするために俺がラノベで仕入れた知識をもって膨らませて演出いていたのだが、想像してのと実際やるのとは大違いだ。
果てしなく地味で、姿も影だから特筆すべきグロテスクさもない。
─いや、これはあくまでもチート武器を使っているからであって、自分自身の実力で勝負しろって言われたら地味もクソもないんだけどね…!
多分ツノの生えたウサギ一羽にも、3人がかりでいけるかどうか…いや負けるな。
スリルと死の匂いを感じられることは間違いない。
「腹減った…。」
「ああ、おれも空腹でフラフラしてきたぞ。」
時間は正午ちょっとすぎ。
慣れない早起きで、ありあわせのものを腹につめとく程度の朝飯だったため、俺たちは腹ペコになっていた。
「そうね!イブ、ご飯にしましょうよ。」
「そうだな。一旦家に帰るか。」
えっ!そんな気軽に行き来してたんだ、二人共。
本当に「近所のジムでトレーニングしてくる」感覚でダンジョン修行をしているんだな、ユーリは…。
俺たちはユーリに洗浄の魔法をかけてもらって汗臭さや泥とオサラバした上で、恵比寿のマンションの1502号室へ転移した。
「君たちのぶんも用意してあるから、よかったら食べていくといいぞ」
イブが冷蔵庫からピザと山盛りの唐揚げ、大皿サラダを取り出して、魔法で温め─という訳にはいかないので、電子レンジで温めて出してくれた。
料理のサラダ、宅配サービスっぽい入れ物に入ってるからUberで頼んだのかな?
俺たちはリビングルームの椅子に座り、大喜びでむさぼり食う。
飲み物はポケットから、自分の部屋で冷やしてある十六茶のペットボトルを取り出して、川口と福田にも配った。
「こんなにスマートにレベル上げ作業をできるとは思ってませんでした。もっと、血と汗と泥にまみれた事になるのかと──ありがとうございます。」
俺は、イブに感謝の言葉を告げた。
イブはピザをつまみながら、フッと微笑むと、
「お礼なら聖女様に言うんだな。転移も洗浄も、ユーリあっての事だ。」
急に呼ばれてびっくりしたのか、口いっぱいに唐揚げを頬張っていたユーリは慌ててモックモックと咀嚼し、顔を赤くした。
頬がリスみたいになってる。
「ユーリ、ありがとう。」
今あまり話しかけちゃいけないなと思って、短いお礼と笑顔を送ると、ユーリはモグモグしながら「そんな、お礼なんて」といった感じに首をフルフルした。
「そーいえばさぁ、渚。オレたちもきっとレベルアップしてるんだよねぇ?どーやって見んのそれ」
福田が、唐揚げを食べながら聞いてきて、川口もそれに同調してウンウン頷いた。
「おう、そうだよな。お前みたいにステータス開け!って心の中で唱えても、なにも開かんぞ。」
「えっ、そうなんだ。」
自分のステータスを見るの、俺とユーリはできるんだけど…二人はできないのか?
「ふむ…こちらの世界から来た者にはできないのかもしれないな。渚は勇者の子だから特別だが──」
そう言うとイブは、川口と福田をジッと見つめた。
「──失礼、鑑定させてもらった。二人ともレベルは32。渚と同じだな。」
俺はレベル2スタートだったんだけど、そんな差なんてレベル上げ作業の中ではすぐ変わらなくなるんだな。
その内、ユーリとの差も変わらなくなるんだろうか。
「ちなみに、二人の職業は【聖女の従者】だ。」
ゲホッゲホッ!
ユーリが驚きのあまりむせた。
「従者だなんて、なんだか申し訳ないわ。そんな──」
「まあこれは、職業というか『異世界においての立場』みたいなものだ。神が識別するためのメモだと思って、深く考えなくていいぞ。」
ステータスは、神様のメモ…。
なるほどな。
「固有スキルは何だったんですか?」
俺はイブに聞いてみた。
「ん?特にないぞ。あれは異世界の人間でも、全員にある訳じゃないからな。」
そういえば、そうだった。
二人はちょっと残念だったようだが、聖女の従者という言葉の響きがかっけえ!と喜んでいるようだった。
食後、俺達は再びダンジョンに赴き、合間合間に休みをとりながら夕方までみっちり魔物を倒す。
レベルは50まで上がった。
「ふむ、そろそろいいだろう。ユーリ、3人を完全回復させてやってくれ」
イブからの指示でユーリが俺たちに手をかざすと、暖かな温泉の湯のような感覚が体の中を通り過ぎる。
今日たびたびかけてもらってる回復魔法だ。
疲労がなくなり、朝起きた時のような元気な状態を取り戻せるのでマジで気持いい。
「元気になったな?ではダンジョンボスの部屋に向かおう。」
え……
早くないですか?!イブ…イブさん!
いくら超速でレベルアップしたとはいえ、俺達今朝初戦闘だった身ですよ?!
「安心しろ。私も共に戦う。」
イブは豊かな胸に手を置き、目を細めてニッと笑った。




