表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第二章 異世界と東京をいったりきたり
102/162

【102】戦闘をしたくないらしい


「戦闘をしたくない…と?」


俺、川口、福田は、隣の1502号室のリビングで、家の主であるイブと向かい合って座っていた。

イブの隣には、数日前からこの家の住人となったユーリが腰掛けている。



前に来た時は床一面に描かれた魔法陣と四隅の灯りしかなかった怪しい部屋も、いつのまにか床には品質の良さそうなワインレッドの絨毯が敷き詰められている。

英国調の長椅子とダイニングテーブル&チェア、ガラス扉の飾り棚などが置かれ、生活感がある…とまでは言えないが、優雅で美しいリビングルームへと様変わりしていた。


魔法陣自体、前世で共闘したユーリ(…の頭の中の聖女ユーコ)に「魔女イブ」だと気づかせるために仕込んだものらしいから、今となってはもう必要ないのかもしれない。



「恐ろしくなったのか?しかし、初心者でも倒せる魔物は幾種類もいるぞ…?」


イブは不思議そうな顔をして、俺の顔を見た。


「そんなに恐ろしくはないんだけど…生き物を殺したくないんです」



俺が戦闘したくない理由は、ひとえに「かわいそう」だから。


出逢った人間を襲うかもしれない…とわかっていても、生き物を危険回避のためならまだわかるが、自分のレベルアップのためだけに大量殺害するってのを、できることならしたくない。



川口と福田は、腕を組んでウーンと悩んでいる。


「オレは出来るかも…いや、うーん、目の当たりにしてみないとわからないな〜。動物殺した事なんてないし。」

「勿論おれもだ。だが、ゲームだと定番のレベ上げじゃないか?」

「ゲームだとね。でもこれ現実だから…俺、気が引けちゃってさ。」


ボフン!とか消えて銭を落としたりなんかしないで、そこには生暖かい血にまみれた死にたての動物が横たわっちゃうわけで…。


それが戦いだ、野生とはそういうものだ、なんてイノシシ一頭しめたこともないくせにウンチク言う奴らがいたら、現実で犬殺すこと想像してみろよ。


やりたくないに決まってんだろ。


「俺、実はゲームでも雑魚モンスターが実際にいる動物を連想するタイプのやつ、苦手なんだよね……」


俺は、長椅子の上で体を折りたたみ、体育座りをしてため息をついた。


毒汁を吐いて襲ってくる好戦的な害虫とかなら殺る気にもなるんだけど、それだと子供の食いつきが悪いからか、序盤はわざわざ可愛くて小さい生き物を配置するゲームは多々あるが、レベルアップの為にじゃんじゃん殺してるうちにふと我に返り、なんか嫌になることがままある。


(一番殺害しまくった「ザコ」をマスコットキャラにしてグッズ展開するゲームも多いが、よくよく考えたら奇妙な話である)



「うーむ…まあ、おれも犬大好きだから、現実で想像してみると狼や野良犬殺すのはひときわキツいな。」


川口も頭をワシャワシャかきながら、困った顔をした。

狼系も、レベルアップの為の大量殺戮だとよくある存在だ。



─でもユーリは毎日修行として、いわゆる「雑魚狩り」をやってるんだよな…


そう思うと、俺達のこの気持ちはただの軟弱なワガママだから申し訳ない……と思えてきてしまう。


一体どうしたらいいんだ──



「あら、その点なら大丈夫よ。」


ユーリが、ニッコリと晴れやか笑顔を見せてきた。


「魔物は、影だから。」

「「「影?」」」


俺たちは、声を合わせてユーリに問いかけた。


「そうよ、真っ黒な影。……モフモフした動物の姿をしてたら、きっと勇者ケースケや聖女ユーコも、簡単には殺せなかったと思うわ。」


えっ……

じゃあ、父と母の手記に書いてあったモンスター達の姿は、真っ黒な影だったのか?


「魔物は死んだモンスターの体から湧き出るから、シルエットだけはもとの姿をしてるけど、攻撃して倒すとバフっと消えて魔石を落とすの」

「えーっ、じゃあ戦う相手は異世界モノでお馴染みのオークとか、ゴブリンとか、スライムとかじゃ、ないの〜?」


福田が驚きの声を上げた。


「それらのモンスターも森とか山にいるにはいるけど、地球でいうところの野生動物と同じよ。好戦的に人間を襲ってくるのは、それらの影である、魔物。」


えっ!そうなんだ。

魔物とモンスターって、別なのか…。


魔王の手下みたいな役回りかと思ってたけど、そういうタテ社会はないのかな?


「モンスター達も大昔は人間を襲ってたし、人間もギルドの依頼で狩りに行ってたみたいだけど、今は食肉用の牧場があるから……ねえ?イブ。」

「そうだな。食肉用じゃないと硬くて、美食を好む現代異世界人の口には合わないだろうな。」


イブが至極当たり前の事のように、そう言った。



そうかー。


食肉用かー。

なんかそっちのほうが怖いような…


いや、地球の人間もやっていることだし、昨日俺たちが食べたフランス料理のメインディッシュ「なんとか豚のなんとかソースがけ夏野菜を添えて」って料理だって、あの柔らか〜い肉は食べられるために大切に育てられたからこその歯ごたえなわけだもんね。


いやー、この問題については、われわれ現代人が食糧に関してあまり考えないようにしてる事柄の最たるものだよな…。




とりあえず、「戦いたくないんだけど問題」は解決された。


まずはやってみればわかる、という事で、俺たち三人は翌日のユーリのレベル上げに同行することになったので、今夜は早寝。



川口と福田も、今夜から自分の部屋で眠る。

(昨夜は細かいもののセッティングがまだだったので、俺の部屋で寝た)


なんとなく飲んでゲームしちゃって話してるうちに明け方まで──という生活習慣を直す良いチャンスかもしれない。



ぶっちゃけ、魔物がモフモフの哺乳類とかの姿じゃないってだけで、正直言ってやる気が200%アップした自分がいる。

(川口と福田も同じ気持ちなようで、イブの部屋を出たら足取りも軽くそれぞれの自室へと帰っていった。)




久しぶりの、一人きりの家。


なんだかメチャクチャ広く感じる…!



ちょっと寂しいような気もするけど、みんなこのマンションの中にいるんだと思うと、孤独感はない。



俺はタブレットでアマプラのアニメを見ながら長風呂をして、軽くストレッチをした後、淡麗グリーンラベルを飲んで眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ