「猫にまた旅亭」
『わらわに気安く話しかけるでないわ、禿げ猫』
「禿げてはいない! 背中の毛が少し薄いだけだ! こいつめ、人間はお前の言葉がわからんからと、好きに言ってくれる。もういい、決闘だ! 表へ出るがいい! そのモフモフ、この剣ですべて刈り取ってやろう! うっ……待ってくれ、その前にバケツを貸してくれないか?」
――『猫にまた旅亭』の店主(?)と長靴を吐いた猫
始まりの町郊外にある食事処、『猫にまた旅亭』。
小規模の宿泊施設としての機能も兼ね備えたこの店は年中、冒険者たちで溢れかえっている。
客のほとんどは格安料理を目当てにした新米冒険者だが、ときおり自らが歩んだ道を顧みるため戻ってきた英雄など、思いがけぬ来客を迎えることもあるようだ。
この店では人柄の良い老婆が店の主を名乗っているが、真の店主は別にいるらしい。
しかし、また旅亭の従業員といえば、老婆の他に若い男女が二名と、猫が一匹だけ。
実は、カウンター裏の開かずの扉の向こうに、誰かが隠れ潜んでいるのではないかと、冒険者たちの間で噂になっているようだ。
始まりとはすなわち、物語の起点。
英雄であれ、破壊者であれ、物事には始まりがある。
ならばこそ、それを見守る者もいるのだろう。




