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「偽善者の贈り物」

 街のパン屋、テオは過去に大きな罪を犯したことがある。

 その罪は誰にも見つからず、裁かれることもなかったが、テオはそれを忘れることができず、ずっと彼の心を蝕んでいた。

 

 だからだろうか、テオはカゴにできたてのパンを入れ、ある場所に向かった。

 それは街のはずれにある、小さな孤児院。

 存在こそ知っていたが、実際に訪れるのはこれが初めてのことだった。

 

 テオを出迎えてくれたのは、聖職者のような(よそお)いに身を包んだ女性。

 しかし、階級や所属を示す物や意匠はなく、衣服も聖職者らしいというだけであって、テオが知る限り他では見たことがない。

 

 テオはパンを持ってきたことを伝えると、彼女は喜んで中へ招き入れてくれた。

 すると、見知らぬ人物に興味を持った子供たちに、テオは一瞬で囲まれてしまう。

 テオはその全員に、自分が焼いたパンを配った。


 できたてのパンを口にする子供たちの笑顔は、テオの心を(さいな)む痛みを、少しの間だけ忘れさせてくれた。

 それは、忘れてはならないもの。けれど、ほんの僅かな間ならばと。テオは安らぎを求め、次の日も孤児院を訪れた。

 

 その日も、出迎えたのは昨日の女性だった。

 聞けば、この孤児院にいる大人は彼女だけらしい。

 彼女の名は、リゼット。

 目が開いているかもわからない細目で、常に微笑みを絶やさない彼女はずっと、聖職者のようにテオの話し相手をしてくれた。


 そうして何日も、テオは孤児院にパンを届けた。

 だが、ある時テオは気づいてしまったのだ。

 子供たちの笑顔と、リゼットの感謝の言葉。今度はそれが、テオの心を締め付けていることに。


 テオは思い切って、リゼットに自分の過去を打ち明けた。

 パンを配るのは、過去の罪に苛まれた心を癒やすためだと。自分のやっていることは、ただの偽善なのだということを。


「街でもよく『善人』の方々に、偉いだの頑張ってだの、はたまた子供たちの世話はちゃんとできてるのかとか、小さな家に押し込められて可哀想だとか言われますが……結局のところ、言葉だけではこの子達のお腹は満たされません。たとえ自分のためであろうと、貴方には感謝していますよ」

「俺はまたここに、パンを届けてもいいんだろうか」

「もちろんですとも。誰が作ろうと、パンはたいてい美味しいものですし、お腹に入っちゃえば関係ありません。子供たちも喜んで……あ!? べつに、普段から子供たちがお腹をすかせているわけではないですよ? おやつがあると、子供たちも嬉しいという意味であってぇ……」

「なんで焦ってるんです?」

 ――孤児院の主リゼットとパン屋テオ

 

 

 パンを届け、いつものようにリゼットと話していたある日。ふとテオは彼女の過去が気になり、それを尋ねた。

 結局はぐらかされてしまったが、その一瞬だけ、いつも細目だった彼女のまぶたが僅かに動き、その時初めて、テオはリゼットの瞳を見た。

 口元の微笑みは決して崩れなかったが、彼女の瞳はまるで、狼や猛禽のように鋭く。

 テオはその金色の輝きに、息もできないほど呑み込まれてしまった。


「実は、貴方の百倍は私の手も血に(まみ)れていると言ったら、信じますぅ?」

「百倍……ですか、想像できませんね」

「ですよねぇ。冗談ですよ、じょーだん。こーんなどこにでもいるエセ聖職者に、そんなことできるわけありませんものねぇ?」

「やっぱり、エセだったんですか」

 ――『聖職者狩り』リゼットとパン屋テオ

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