135/179
「影鼠」
水晶が鼠に噛み砕かれた時、城の兵士たちは理解した。
鼠の一匹たりとも通さないという行為が、どれほど難しいことかを。
そして、もう自分たちを守る壁が機能しないことを。
その城は長く、不可侵の領域だった。
最奥に隠された水晶が魔法の壁をつくり、それがあらゆる害意を何代にも渡り阻んできたのだ。
そして城の兵士もまた、主に忠実であり、用心深かった。
壁の力ばかりに頼らず、彼ら自身も鼠の一匹であろうと見逃すまいと、常に注意深く見張りを続けていた。
だからこそ、侵入者はありえない。
城の誰もが、そう信じていた。
だが何事にも、絶対はありえない。
長く続いた城の不可侵を破ったのは、一匹の鼠だった。
それは影が実体を伴ったかのような、黒いもやが鼠の形をしただけのもの。
魔法使いが放った生き物ですらないそれが、城壁の隙間か、あるいは誰も気づかないような小さな穴から侵入し、魔法壁の発生源たる水晶を砕いたのだ。




