132/174
「慈悲の剣」
「私はただ、みなさんの悩みを取り去ってあげたかっただけなのです。悲しみや苦しみを抱えて生きるのは、きっと辛いことでしょうから」
――聖女アリアンナ
教会の聖女、アリアンナが隠し持っていた武器。
銀の刃に祈りの言葉が刻まれた、本来は祭儀用の道具。
武器として耐えうる強度は持ち合わせていないが、刃は鋭く尖り、人の胸を刺し貫くことはできる。
アリアンナはこれを懐に隠し、いつも持ち歩いていた。
そして悩み持つ者に、この刃で慈悲を与えたのだ。
アリアンナの慈悲に、他者の意思は関係ない。
ただ彼女は、よかれと思って刃を振るうのみだ。
老いた親の世話に苦しむ若者には、親の死という慈悲を。
親の財を無心する子には、子の死を。
誰かの死を願う者には、その者の死を。
アリアンナの手により、恨まれつつも死までは望まれなかった者たちの遺体が、無数に積まれた。
しかし彼女は最後まで、これは慈悲であると語ったのだ。
慈悲と優しさは、押しつけるものではない。
望まぬ者に与えれば、優しさとて暴力になるのだ。




