●「北の魔法学院、東の尖塔」
「アンバー、こっち来なさい。ここは寒いわ」
「フェルト……貴方」
「勘違いしないで。風邪を理由に、来週の試験で手を抜かれたくないだけよ」
「そうじゃなくて、くっつきたくないの。貴方の汗で服が汚れるじゃない」
――『炎の見習い魔法使い』フェルトと、『降霊術の見習い魔法使い』アンバー。尖塔が大炎上する五秒前の会話。
北の魔法学院、その東にそびえる尖塔は、生徒に人気の場所の一つだ。
人気の理由はそれぞれだが、学院の周囲を一望できる高所であり、支柱のみで屋根を支える吹きさらしの構造が衣服をはためかせ、なにより腕試しの決闘にちょうどいい円形広間になっている。これだけ揃えば、生徒が集まるのに理由は十分だ。
だが、学院は一応、生徒間での私闘を禁じている。
加減も出来ない未熟者が、習ったばかりの魔法を使ってどうなるかなど、教授たちからすれば考えるまでもないことだ。
だからといって、規則に従う生徒ばかりではない。
誰だって、覚えたての魔法は人にかけてみたくなるものだ。
尖塔は教授たちが頻繁に立ち寄る場所ではなく、壁のない円形広間は風が吹き込み、声をかき消す。
特に夜などは、少々寒いことを除けば、何かを隠したり、誰にも聞かれたくない会話をするのにぴったりの場所だ。
だからこそ、この尖塔は長い年月、多くの生徒たちを見守ってきた。
『骸洗』のクーリア。
『型破り』、オレァ・ヘンナマッホシカ・ツックレネーノ。
『星海』、マリステラ・コール。
歴史に名を残した者も、忘れ去られた者も、一度はこの尖塔を訪れ、思い思いの時を過ごしたのだろう。
ある者は、秘密を隠し。
ある者は、新作の魔法を試し。
またある者は、星に祈り、声を聞いた。
尖塔は何も語らないが、教授たちより多くのことを知っている。
善いも悪いも、すべてを。




