表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/163

●「宮廷魔法使いの家・後編」

 彼の気が変わったのは、フィーアの悲劇から半年後のことだった。

 たまたま本棚を整理していた時に見つけた、旧知からの贈り物。やや強引に渡された魔法の書を、一度も開いたことがなかったと思い、彼はそれを手に取った。

 すると、不意に装飾の石が外れ、床に転がってしまう。

 それは魔力に反応する石で、こうした変わりものが好きな著者の言葉を、彼はそのとき思い出したのだ。


 人の世の楽しさとは、未知への挑戦にある。

 彼はその言葉に突き動かされるよう石を握りしめると、悲劇の場所へと向かった。


 大規模な魔力の爆発。それは少なからず、人に影響を与える。

 眠っていた魔法の才が、目覚めた者がいるかもしれない。

 この石を使えば、それを調べることができるだろう。

 彼は自分の技術と知識を、誰かに託すと決めたのだ。

 

 そうして、彼は出会った。

 絶望の中にいながらも、琥珀色の瞳に力を宿す少女に。

 その力強さに惹かれ、差し伸ばした手のひら。拒絶への不安を内に秘めたまま返事を待つ彼に、彼女はそっと、指を重ねてくれた。


 それから数年の間、彼は少女と暮らし、魔法の基礎を教えることとなる。

 しかし、子育てはおろか、そもそも彼は子供と接する機会があまりなかった。

 魔法の師としてはともかく、親代わりとして何をすべきかを、彼は知らなかったのだ。


 だから彼は、拙いながらも最低限の面倒だけを見て、できる限り少女の自由にさせてみた。

 それでも彼女はよく学び、自ら進んで物事に打ち込んだが、元々の気質がそうだったのか、度を超えた行為には及ばずとも、そのぎりぎりを攻めるという癖だけは、最後まで治ることはなかった。

 とりわけ金に対しての執着は凄まじいものがあったが、呪われているかのようにことごとく失敗し、ただそれでも彼女が儲け話を思いつくたびに見せる笑顔を前に、師としても家族としても、彼女を叱ることは一度もできなかった。


 そして、いよいよ次の年は北の学院へ入るという頃。

 少女は気まぐれに師の書斎に忍び込み、彼の過去を知った。

 しかし、なに食わぬ顔で次の日も師の教えを受けた。

 師もまた、少女が自分の過去を知ったことに気づいていたが、いつも通りに魔法を教えた。

 師の秘密は秘密でなくなったが、少女にとって、そんなことはどうでもよかったのだ。

 今、自分が教えを受けているのは、どこかの宮廷にいた魔法使いではなく、家族なのだから。


 ついに、少女が家を出る時が来た。

 師の体は衰え、少女の旅立ちを寝床から見守ることしかできなかったが、彼女はこの出会いに感謝し、二度と戻ることはないであろう家と師に、最後の別れを告げる。


 その時、彼女の師は問うた。

 この数年、家族と呼ばれたことはあっても、一度たりとも『父』と彼女が口にしたことはなかった。

 そう呼ばれることを望んでいたとまでは言わないが、師はそれを聞かずに別れるのは、どうにも心残りだったのだ。


 そして、少女は答える。

 琥珀色に輝く瞳に、目一杯の笑顔を添えて。


「私が小さい時に、父はお母さんを置いて家を出ていったの。だから、私にとって父という言葉は、それほど特別なものではないのよ。つまり、おじさまをおじさまと呼ぶのは、私なりの最大限の敬意と愛情ってわけ。だからその……ええと、こほん。それじゃ……行ってきます、おじさま」

 ――見習い魔法使い、アンバー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ