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●「宮廷魔法使いの家・前編」

 町の郊外、人目を避けるよう森の中に、その家はある。


 家の主はかつて、宮廷内部に蔓延(はびこ)(むし)を潰して回る魔法使いだった。

 彼は数名の仲間とともに、禁忌に触れた者、秘密に近づいた者、陰謀を(くわだ)てる者を人知れず処分していたが、ある時これを辞め、辺境に隠れるとそこで居を構える。


 この時すでに、彼の体は禁忌の術で疲弊していた。

 禁忌と対峙するということは、禁忌に触れるも同じ。禁じられた力は少しずつ、彼の体を蝕んでいったのだ。


 まるで老人のように枯れた体をなんとか動かし、目的もなく生きる日々の中で、彼は己が歩んできた道を顧みた。

 人を疑い、殺めるだけの人生。学んだ魔法はすべて、血塗られた記憶の中でしか活かされることはなかった。

 ともに語らう友も、家族もおらず、(のこ)すものもない。

 己がいかに虚無の存在であるかを自覚しつつあった時、ふと食料の買い出しに立ち寄った町で、彼はある噂を聞いた。


 『フィーアの悲劇』。

 それは富に目がくらんだ愚か者たちが、魔石の危険性を理解せずに起こした事件。

 魔石は純粋であるがゆえに、もっとも危険な物質だ。内包する魔力が一気に解放されれば、あらゆる生命を殺す毒にもなり得る。

 

 しかし彼は、それ以上の興味を示すことはなかった。

 宮廷では、国中の事件を見聞きしていた。彼にとっては、フィーアの悲劇も数ある悲しい事件の一つでしかないのだ。

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