「長靴を吐かせる魔法」
「え、長靴を吐かせる魔法かい? これは、オレァ・ヘンナマッホシカ・ツックレネーノという変わった魔法使いが考えたもので、彼の魔法はその……独特で、役に立つとは思えないけどなぁ」
「そんなのわからないわ、おじさま。学院に行った時に気に入らないやつがいたら、これで懲らしめてやれるでしょう? しかも、出てきた靴を売れば儲かるし、一石二鳥よ!」
「いやあ……困ったな。まさか、こんなふうに育ってしまうなんて」
――魔法使いの師と、魔法を学ぶ少女アンバー
長靴を吐かせる魔法は、変わり者の魔法使い、『オレァ・ヘンナマッホシカ・ツックレネーノ』が独自に編み出した奇妙な魔法の一つ。
ちなみに、『履かせる』ではなく『吐かせる』である。文字通り、魔法をかけた対象に長靴を吐かせるのだ。
また、ツックレネーノ本人の他には、彼の数少ない友人たちしかこの魔法の存在を知らず、さらに使える者となればごく限られる。
彼は友人たちに、半ば強引に魔法の使い方を記した書を渡したが、それらの多くは一度も開かれることなく本棚にしまわれるか、紛失して失われたかのどちらかだ。
実際に使用された例も少なく、記録されたものとしてはツックレネーノ本人が初めて使用した一回目と、北の魔法学院で二度確認されたのみである。
学院の記録によると、二回とも使用者および対象となった者は同一の人物で、二人は学院の生徒だったようだ。
とても珍しい魔法のため、学院の治癒士でも解除魔法で無効化するのに、半日を要したとの記録もある(半日のうち、数時間は対象者が怒りで放った炎の魔法による、医務室の消火作業時間)。
記録では三度の使用のみだが、各地で長靴を吐く猫が目撃されたとの情報もあるようだ。
まだ世界のどこかに、この魔法を知る人物がいるのかもしれない。




