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「フィーアの悲劇」

「君は、なにか欲しいものはあるかな?」

「アンバーはお腹がすきました。でも、お金がないと食べ物は買えません。お金が欲しいです。食べ物がいっぱい買えるくらい、たくさんのお金が」

 ――謎の男と、座り込む少女



 とある辺境の町、フィーア。

 その地下で、とても大きな魔石が見つかった。

 それは巨大な地下空間に何世紀ものあいだ眠っており、家を立てる際に落盤事故を起こすという偶然がなければ、ずっと地面に埋もれたままだったのだろう。


 町の住人が魔石を採掘する技術を持たなかったゆえに、噂を聞きつけた者たちがこぞって集まると、町は瞬く間に様々な人間の思惑で溢れ、賑わいを見せた。

 しかし、魔石をつつく者たちはそれがもたらす富に目がくらみ、こういったものが孕む危険を理解していなかったのだ。


 地下空洞に秘められた、巨大な魔石。それは、神代の頃より溜め込んだ魔力を封じていた。

 きっかけが誰だったかなど、もはや知るすべはない。

 ただ、採掘していた何者かが中心に触れ、直後に魔石は大きな魔力の奔流を放ち、爆発した。


 町は一瞬で人が住めないほど高濃度の魔力に汚染され、住人たちもまた、その影響を受けてしまう。

 魔法治癒士会の魔法使いたちは隣町の郊外に医療拠点をつくり、そこで住人たちの治療を行ったが、その被害は歴史に記されるほど悲惨なものだったという。

 

 それから半年ほど経っても、疲弊したフィーアの民に安息が訪れることはなく。次に彼らが直面したのは、帰る場所も物も、そして家族をも失ったという現実だった。


 半年という時の流れは人々の関心を薄れさせ、善意で残った一部の治癒士以外は町から去り、支援の物資を運んでいた商人なども立ち寄らなくなっていた。

 フィーアの民は避難した町で邪魔者と疎まれ、魔力汚染の後遺症で仕事にもつけず、夜は治癒士会が残したテントの中で寒さを凌ぎ、昼は蹴られ唾を吐かれてでも、施しを求めて町の道端に座ることしか彼らに選択肢はなかったのだ。

 

 そんな時、ある男が悲劇の被害者たちのもとへ訪れた。

 まだ齢四十ほどの顔つきだが、それにしては指は病人のように(しお)れ、首元のしわはまるで老人のような、不思議な男だった。

 

 男は町で座り込む子供たちに不思議な石を握らせると、一通り試した後に、ある少女に手を差し伸べた。

 その少女は髪も服もぼろぼろで、体もやせ細っていたが、瞳に宿る気力だけは、大人以上のものがあったのだ。


 母を(うしな)った少女は、差し出された男の手を取り、町を後にする。

 男が少女を選んだのは、まったくの偶然だった。

 しかし、その選択は思いがけず、新たな星の物語を(つむ)ぐこととなる。


「どこへ行くのですか?」

「私の家さ。君には素質がある。私が魔法の基礎を教えよう。それを覚えたら、北の学院へ行くんだ」

「そこには、なにがあるのですか?」

「願いを叶える力だよ。きっと、そこで手に入るだろう。君の願いはなんだい?」

「アンバーはお母さんに会いたいです。もう一度、会いたいです」

 ――謎の男と琥珀色の瞳の少女

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