「醜い死霊・後編」
「さあみんな、いらっしゃい。本物の幽霊と触れ合えるのはここだけよ!」
――降霊術の魔法使い
魔法使いの少女は自身が呼び出した画家の老霊と協力し、村の外に大きなテントを張ると、派手な看板を掲げた。
そこには大きな文字で『霊とおしゃべりしよう!』と記され、少女は霊体の老人に命じ、村やその周辺に宣伝をして人を呼び込んだ。
少女が呼び出す多様な霊たちと、孤独な死霊の男。無数の霊体に触れ合えるという好奇心から、たった数日で多くの人が集まった。
孤独な男は、一日で生前以上の人のぬくもりに触れ、泣きながらその幸福に感謝した。
少女もまた、日増しに料金箱に溜まっていく金に目を輝かせる。
しかし、そんな彼女とは対照に、画家の老人は暗い表情をしていた。
なんの因果か、少女が金儲けをすると不運が訪れる。
今回もそうなのだろうと、老人はすでに諦めており、来たる不幸に備えねばならなかったのだ。
そして、ついにその時は訪れる。
ある程度はと、老人も覚悟していた。ひどくても、死霊狩りや魔法協会に見つかって一悶着起きるくらいだろうと。
しかし、今回ばかりはその予想を遥かに超えていた。
不運という言葉では括れぬほどの災厄が、前触れなく少女に立ちふさがったのだ。
森から現れたのは、紫炎に焼け爛れた巨狼。
すでに死んでいたが、なんらかの力によって体だけが暴走し、周囲を無差別に破壊するだけの存在と化していた。
魔法使いの少女は村を守るため戦ったが、動く死体であるゆえに、いくら傷つこうとも止まることはなく、戦闘は長引くばかり。
そしてついに、狂狼の爪が少女に振り下ろされかけたその時だった。
空を覆うほどの巨躯。羽ばたき一つで嵐が生まれる、山のような竜。
それが少女の前に降り立つと、そのまま足で巨狼を踏み潰した。
それは、白亜の鱗を持つ始祖竜。
牙の隙間からこぼれる紫炎に、少女は巨狼を殺し、生ける屍にした存在が何者であるかを悟った。
そして、人生で最も過酷な戦いの始まりを予感すると、少女は守るべき村を背に、巨竜に挑まんと震える手で杖を構える。
だが竜は、じっと少女の瞳を見つめると、何を思ったのか黄金の翼膜を広げ、彼方へと飛び去ってしまった。
災厄は前触れなく起こり、その終わりもまた、唐突にやってきた。
しかし、竜と狼が残した傷痕は決して浅くはなく。森は紫炎に焦げ、村は半壊し多くの者が傷ついた。
だが、すべてが無くなったわけではない。
魔法使いの少女が瓦礫の後始末に奔走する様子を見て、死霊の男は悲しみから奮い立つと、村の住人を励まして回った。
物に触れない霊体ができるのは、自分が育った村の住人を勇気づけることくらいだ。
たった数日とはいえ、村の住人は男を恐ろしい死霊ではなく、人として見てくれた。その感謝を込めて、男は昼夜休むことなく人々を励まし、瓦礫に埋もれた人を探して回った。
そうして、さらに数日後。十分とは言えないまでも、村は元の形を取り戻す。
死霊の男は村人に受け入れられ、新たな家をもらって、二度目の人生をこの場所で過ごすことに決めたらしい。
魔法使いの少女は死霊の男から大いに感謝され、村の住人も工房用の住居を提供すると誘ってくれた。
しかし、少女は住人たちの提案を丁重に断ると、旅の支度を始める。
そして少女は、ここで稼いだ金をすべて村の復興資金として寄付し、竜が飛び去った方角へと向かうのだった。
「あの竜、嫌な予感がするわ。ま、おじいさんは別に、無理してついてこなくてもいいのだけれど?」
「ワシはお嬢ちゃんが呼び出した霊体じゃからのう。もちろん、主様に最後まで付き合うぞい」
――降霊術の魔法使いと、『蘇った画家』エドモンド。竜に至る旅路にて。




