「ゴブリン変異種」
ゴブリンは稀に、明らかに種の特性を逸脱した個体が生まれる。
オークと見間違うほどの巨体になることもあれば、矮小だがすばしっこく狡猾な個体など、種類は様々だ。
条件こそ解明されていないが、こうした変異種は不測の事態を起こす原因となり得るので、冒険者協会は依頼を受ける冒険者や周辺住民に注意を促している。
――ファビオ・マルティン・ロペス著『ゴブリンの危険性』
小さなゴブリン、コガラーは他のみんなと少し変わっていた。
みんなが村を襲いに行く時も、コガラーは逃げる人間を追うことを楽しいとは思えなかった。
みんなが家を笑いながら燃やしている時、コガラーは柵の中で逃げ惑うニワトリを見つけた。
可哀想だったので、コガラーは柵の入口を開いて、ニワトリを逃がしてあげた。
コガラーは他のみんなより小さい。
だから、ご飯はいつも自分が最後だ。
いつも洞窟の隅っこで、みんなが食べ終わるのを座って待つ。
その日は捕まった人間が何人かいたので、コガラーは人間たちのそばで座っていた。
大きな男の人は、胸の鎧が潰れて息苦しそうにしていたので、外してあげた。
真っ黒な三角の帽子を被った女の人は、足に短剣が刺さっていたので、抜いてから布を巻いてあげた。
コガラーと同じくらい小さな女の子は、体中擦りむいていたけれど、「大丈夫だよ」と笑ってくれて、なんだか温かい気持ちになった。
だけど、コガラーは人間と仲良くしていたのが仲間にばれて、棍棒で殴られた。
また隅っこで座っていると、小さな女の子がコガラーを心配してくれた。
女の子は話している間ずっと笑顔でいてくれて、またコガラーは温かい気持ちになった。
だからコガラーは、この女の子たちを助けたいと思った。
みんなが食事を終えて眠った時に、コガラーは女の子たちの鎖を外した。
慎重に、音を立てないよう注意して。
女の子も手伝ってくれたので、鎖を外すのに時間はそんなにかからなかった。
そして、コガラーは女の子たちを洞窟の外に連れ出した。
見張りと会わないように、秘密の出口を抜けて。
森に出ると、女の子が『ぎゅーっ』をしてくれた。
『ぎゅーっ』は、感謝や信頼の証、色んな意味があると女の子が言っていた。
そして女の子は、コガラーにあるものをくれた。
女の子の首に巻かれた、白い布。
それを女の子は、コガラーの首に巻いてくれた。
白い布はとても暖かくて、人間の匂いがした。
女の子は帰る時も、何度も振り返って手を振ってくれた。
コガラーも、女の子が見えなくなるまで手を振り返した。
そうして、一人になったコガラーは決意した。
怒られるから、もう洞窟には戻れない。
まだ見ぬ世界、新たな出会いを求め、旅をしよう。




