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勝手なサプライズ

作者: まっきー

夕方6時過ぎの郊外の地下鉄内、定時上がりの私以外、人はまばらだ。パーソナルスペースを保つ乗客達は、それぞれリラックスした様子で携帯や本へ目を向けている。

私はこの人のまばらな地下鉄を利用するために、今の会社を選んだと言っても過言ではない。人生において一番苦手なのが満員電車だからだ。学生らは私達のような中年の会社員だらけの空間に押し込められて通学したくはないはずだし、私達のような中年だって、あんな人だらけの場所に毎日好き好んで行きたくはないのだ。

人間としての価値観が仕上がってくる年齢、いや、ただ私が頑固であるという性格もあってか、目の前の光景は余計に考えるものがあった。


車両の側面に横並びに座るタイプの座席に座る私は、自動的に反対側に座る人と向かい合わせになる。そして今、私の目の前には人二人程の間隔を空け、同年代であろう男の若者が二人座っている。

服装はそれぞれ自分に合ったものを身に付けている印象があるが、問題は二人の目の先にある。

片方の若者はスマホに目をやり、たまに文章でも打っているような動作をしている。そしてもう一方の若者は、ブックカバーをした単行本サイズの本をじっくりと見つめている。

同じ若者にここまで差があるか、私は瞬時にそう思ってしまった。

人には趣味があり、読書もまたその趣味の一貫であることぐらいは理解できる。しかし、熱心に本を読む若者とスマホを相手する若者では、私には、知的な青年と暇を持て余した若者、という人物像が出来上がっていた。


人生において、何が原因でこの差は生まれるのだろうか。私は電車を降りる数駅、目の前の二人が電車を下りなかったこともありその事ばかり考えていた。

家庭環境か?はたまた友人関係か?それとも、近くの書店の数が関係しているのか? など、あらゆる可能性が浮かんだが、どれも答えには辿り着かなかった。

そうこうしているうちに、私が降りる駅へと着いた。彼らはまだそれぞれに面を見つめている。

ホームは彼らの座っている側だった。私は電車を降りる時、窓から彼らの読んでいる、見ている画面を覗いて見たくなった。どうしてかは分からないが、気まぐれに若者への興味でも湧いたのだろうか。丁度窓から見える位置に彼らは座っていたことを幸運に思い、気づかれぬよう少しだけ覗いてみた。しかし、私は衝撃を受けた。

本を読んでいた若者は確かに本を読んでいたのだが、その本というのはマンガだった。私は活字を追っているとばかり思っていたため、思わず面食らってしまった。だが、これで終わりではなかった。

一方のスマホを見ていた若者も、ただスマホを見ているだけではなかった。スマホのメモ欄を使っているようだったが、上部に、「自作小説」とだけ書かれているのは見えた。後の細かい文章までは見えなかったが、彼はずっと小説を書いていたのだろう。

駅員に危ないと指摘されるまで、私は電車のいなくなったホームで外から窓を覗いていた体制のまま動けずにいた。

私の考えていたことは何だったのか?と、考えていたことが偏見であることを初めて認識した。


彼の価値観が少し変わった瞬間だった。

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