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第8話 イリーゼ伯爵家


 僕たちの合計92人は空の旅に興じた。

 大聖堂がある拠点は広大な森と帝国の間にあり、厳密にはあの森も帝国の領土らしい。ただ、広過ぎるあまり開発が進まず、通常の工具や道具ではすぐに壊れてしまうのだそうだ。

 そのため、ドワーフたちに開発を依頼していたらしい。

 ドワーフたちは仕事を普通にしていたが、これまた麻薬の製造を秘密裏に行っていた村に向かおうとしたイリーゼ伯爵の次男が迷子になったことで、手違いが起きていたらしい。

 GPSとかがないこの世界では、正しい村に行くのも難しいのだろう。だって、空の旅といえど管制塔も何もないらしいのだ。町にはあっても、村にはない。

 だから、出発時の方角がすべてを決めると言っていい。


「イリーゼ伯爵家は迷子の家系でな。家の成り立ちも迷子が由来しているのだ」


 空から見下ろす帝国領も広大で、あちこちに村が見える。


「どんな由来なんだ……めちゃくちゃ気になる」


「元々初代イリーゼ伯爵は森を探索する有能な剣士だった。先程の村の横にあった森から、彼は母国である、帝国の隣国にある王国へ士官しようと森の外へ出たらしい。森が国境となっていて、こちら側が帝国、向こう側が王国になる」


「なるほど。出てくる方角間違えたとかそんなオチじゃないよね」


「まさかのその通り! 彼は王国に出たと勘違いし、帝国に士官した。長く森を探索したことから、王国が発展して街並みも変わったのだと思ったらしい。そして帝国へ貢献を果たし皇帝陛下に出会い、そこで男爵位を得た時に知ったそうだ」


「この国が王国ではなく、帝国であることに?」


「うむ。だが、男爵位をもらってはもう後には戻れない。これは帝国三迷家の一つ、イリーゼ伯爵家の本当にあった話だ」


 イリーゼ伯爵ってバカなん?


「イリーゼ伯爵家の者が道に迷うことは常識。我々も、伯爵領だからと言って伯爵に任せてしまった。本当に申し訳なく思っている」


 でも、伯爵なんだし、きっと相当な功績を積み続けているはずだ。

 それも、迷子が帳消しにされるほど。


 と、そこで僕は何かに気づいた。

 周りを見渡していると、一つの焼けた村に気づいたのだ。


「あそこ、燃えてない?」


 今も燃え続けている。

 広大な畑か何かだ。何かが燃えていて、煙がとてつもないほど出ている。


「あそこが、例の麻薬を製造していた村だ」


「確かに距離的には近いね……」


「我らがムラサキ殿のとこらへ行く前に、次男殿とアルトバラン殿が本来するはずだったことをしてから向かったからな」


 そうこう話しているうちに、うとうとしてきてしまった。

 僕は落ちないようにと思い、ドラゴンを操る人を強く抱きしめた。きっと落ちないだろうけど、不安だ。落ちてもどうにかなるだろうけど、不安だった。

 僕はゆっくりと眠りに落ちていく。



   *   *   *



 後ろからの拘束が強くなった。体がびくぅ! と反応してしまう。


「ッ!?」


 何がどうなっているんだと後ろをチラ見すると、ムラサキ殿が俺に抱きついていた。しっかりと抱きついている。


「な、な……!」


「おい、どうした? 顔が赤いぞ」


 同じ副長であるヒルズに声をかけられ、動揺してしまう。動揺がドラゴンに伝わったのか、少し不安定になってしまった。


「うおっ」


「おい、危ないだろ。本当に大丈夫か? 何かあったのか?」


「い、いや、なんでもない。気にしないでくれ」


「そうか。だが、ムラサキ殿が眠ってしまったようだし、少し飛ばそう。クラウベル様、よろしいですか?」


 クラウベル様が許可を出し、我ら近衛団12大隊は速度を上げる。


「それにしても、このような幼い娘があれほどの集団をまとめるとは。ハーフエルフの里にエルフが来たのかと思っていたが、どうやら違うようだしな」


「そのことですが、エルフの痕跡は確かにありました。エルフの何者かが干渉しているのは事実だと思われます」


「なに? では、このムラサキ殿がエルフである可能性もあるのか?」


 ヒルズとクラウベル様の会話を聞きながら、俺は密かにムラサキ殿の体を堪能していた。なんて柔らかい体なんだ。

 腕は細く柔らかく、髪はサラサラ。俺の妻より美人だ。


 ……なのになぜ、俺の息子は反応しないのだろうか。こんなにも魅力的だと感じているのに……。


「私はそう思います。ラングはどう思う?」


「俺もそう考えています。ハーフエルフだけではあれほどの魔跡を残さないと、戦いの跡を見た部下の一人が言っていました。しかし、ムラサキ殿からは魔力を感じません」


「そうか。エルフは魔力を持たないと言う伝説もある。やはり手を出すことは出来んな」


 ハーフエルフが迫害されようと、エルフが手を出してくることは稀だ。

 なぜなら、その現場にエルフがいる可能性はとても低い。現存しているエルフの数は100人にも満たないと言われているからだ。

 それにしても、魔力なくしてどうやって魔跡を残すのか。魔法を使った跡が魔跡となる。謎は深まりばかりだな。


「まずは様子見だ。伯爵の失態であることも事実。今回の件は、こちらが譲歩しよう。ムラサキ殿の持つ武力も、決して侮れないしな」


「了解しました。では、そのように」


 そうして、俺たちはイリーゼ伯爵邸への空路を進む。

ブクマありがとうございます!


次回は「イリーゼ伯爵」もしくは「イリーゼ伯爵邸」もしくは「イリーゼ伯爵の処罰」です。

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