第6話 森の一団
「これ今日の分だからな。みんなで分けるんだぞ」
ゴールドとパンを交換し、それを大聖堂に置いて並べる。それを村人たちに取りに来てもらうという感じだ。パンはHPが1200回復するという効果を持つもので、村人たちはこのパンを食べて力が漲ってくるという。
そして、なぜか毎日牛乳だけは出てくる日々。
牛を飼っているところを見たことがないし、羊を飼っているところを見たことがあるわけでもない。
もしかしたら野生の牛や羊をとらえて絞っているのかと思いきや、そうでもないらしい。
「大変です! ムラサキ様! 帝国の使いが来ました!」
「帝国の使い? なんだろう」
いや、理由はわかりきっているか。
10数人の戻らない騎士がいるのだ。それに、使いを出す前に斥候くらい放っているだろう。その斥候が報告し、使いが来ているということだ。きっと。
「すぐ行く」
「はい!」
上から見下ろすと、確かに馬車を引き連れた騎士15人の一団がいる。村人たちは興奮しているものの、敵が槍を持って警戒していることから、まだ手を出してはいない。でも、戦闘になるのは時間の問題かもしれない。
神殿の正面の階段から降りてその場に行くと、騎士たちに睨まれた。
「お前がこの村の村長だな」
「村長……まぁ、そういうことになるのかも」
武装していないおっさんが出てきて、高圧的な態度を取る。ただそれだけのことで、周りの村人たちが嫌悪感を露わにしていく。まだ手を出していないのは奇跡かもしれない。
「皇帝陛下からのお言葉を伝える」
「はい、どうぞ」
「皇帝陛下からのお言葉を伝える!!」
使いの人が怒鳴る。僕、何かした?
「跪け!」
「え、なんで?」
「こ、こいつ……」
跪くなんてとんでもない。この村人たちの前でそんなことをすれば、僕の身さえも危うくなるかもしれないのだ。それに、ここにいる戦力なんて大したものではない。僕にかかれば秒だ。
後ろに控えているドーバが剣を抜き、マーティがメイスを構えた。
二人とも好戦的だなぁ。
「貴様ら、皇帝陛下への反逆は死罪だと知ってのことか?」
「別に、皇帝とやらに忠誠を誓っているわけでもないし。誰もが言う通りになると思っているなら、自意識過剰なんじゃない?」
そう言ってやると、使いの者と騎士たちがざわめきだした。
「ふざけるな! ここにイリーゼ伯爵の嫡子、アルトバラン殿が来ていたはずだ! なぜ姿が見えない!」
「死んだよ。その人」
「貴様が殺したのか……」
「そう、なるね」
思えば、初めて人を殺した。
先日の一件は僕にとって大したことのないことなのだろうか。人が死ぬことに対して感覚がマヒしている気がする。
「ガーター殿! こやつらを処刑せよ!」
「はっ。……みな、殺戮を開始せよ」
金ぴか騎士に向かって使いの人が命令し、金ぴか騎士が騎士たちに命令を下した。
その瞬間――金ぴか騎士の頭が吹っ飛んでいく。
マーティのメイスが金ぴか騎士を吹き飛ばしたのだ。体だけになった金ぴか騎士が地面に倒れた。
「あっけないなぁ。ドーバ! 早くやりなさい!」
いや、こわ! マーティこわ!
返り血を大量に浴びながら、指示とも言えない指示をドーバに出した。僕はただ見ているだけ。それでも、ドーバが次々に騎士の首をはねていく。
鎧を切ろうと思えば大変な力が必要だけど、急所を狙えばそうでもない。
そして、僕の出る幕がないまま使いの人だけを残した状態になった。
「さて、使いの人。僕たちは帝国から抜けることにする。それを皇帝とやらに伝えてもらえるか?」
「な……なん、だと。騎士だぞ。帝国の騎士は、一人で他国の100人の兵を殺すと言われているのだぞ! 何をした貴様ら――ぁ」
「あ。すみません、ムラサキ様。あまりにもうるさくて、つい」
謝罪するマーティ。使いの人は頭を吹き飛ばされてしまい、もう死んでいる。
「まぁ、いいんじゃないか。これからはほかの人も戦えるように、マーティとドーバでみんなを鍛えてくれ」
「わかりました。任せてください!」
「姉ちゃんのためだからな……うん。やります」
結構強くなった二人に村人を訓練してもらい、全員騎士より強くなれば……。
一騎当千の集団となって、一人が一軍に匹敵することになる。
そうなればもう、怖いものなしだ。
「じゃ、そういうわけで、みんな頑張って」
「「「はい!」」」
元気よく返事してくれる村人たちを後にして、僕は神殿の階段を上る。
正直、もう僕ができることといえば、毎日の食事を提供することくらいだ。だけど、僕には世界の秩序をもたらす役目がある。このままこの場にとどまっているわけにもいかないし、かといって置いていくのは……。
どうしたものかと再び頭をひねり、僕はふと森のほうを見る。
広大な森と広大な帝国に挟まれたこの場所から。
「あれは……?」
人だ。森の中に人がいる。それも、一人や二人ではない。27人だ。27人もいる。ひげもじゃで背が低い。俗にいうあれがドワーフなのだろうか。
「ドーバ!」
「は、はい!」
僕の呼びかけに、下からすぐに応える。ドーバはさすがだな。
「森の中に遭難しているかもしれない一団がいるから、迎えに行って連れてきて。もし住むところがほしいとか言ってたらここに住まわせてやって」
「わ、わかりました。いってきます!」
村人を増やし、勢力を増やすことによって国を作り上げる。こちらのほうが世界に秩序をもたらすのは簡単かもしれない。
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次回予告
「建国の日」
※この通りの内容とは限りません。