第4話 エルフと人間の子、ハーフエルフ
貧乳の自分を慰めながら、村での二日目を迎えた。
起き上がったころにはもう生活音が台所から聞こえていて、随分とにぎやかだ。
「マーティ!? お、おい! お前まさかそれを食わせるつもりじゃないだろうな!?」
「ドーバはこれで十分でしょ。我儘言わない! 私はあの天使様……じゃなかった。ムラサキ様に食べていただくためにいるの! あんたごときが邪魔しないでよね!」
「俺は残飯処理かよ!? ふざけんな!」
「何? 文句あるの?」
「え……いや、あの……ないです」
「よろしい」
マーティとドーバの会話で力関係がすぐにわかる。ドーバは本当にマーティのことが苦手なのだろう。あっさりと言い負かされていた。
話している内容的に、もう朝食ができたようだ。寝室からダイニングに行こう。
この元村長の家は随分広く、全部で6部屋もある。それとは別に、半分外のようなところにキッチンもある。6部屋のうち3部屋をそれぞれの部屋として使い、残った中で一番狭い部屋をダイニング、一番大きな部屋を集会所、そしてその間のサイズの部屋を客間として使っている。
「二人とも、おはよう」
「「おはようございます!」」
片や10歳くらいの少年、片や14歳くらいの少女から元気な声が返ってくる。僕も小学生までは校門で「おはようございます先生!」なんてやっていた。懐かしいなぁ。
6人は同時に食べるだけのスペースがある机に、3人分の食事が置かれていた。寝室側にあるのが一人分で、僕の分だ。反対側に二人分の食事が置いてあって、もう二人とも座っている。
僕を置いて温かいうちに食べてもよかったのに。
そして、よくよく食事を見ると、随分質素なものだった。黒パン一つに山菜が入ったスープ、そして牛乳が置いてある。
僕のところに置いてあるレベルでこれだ。
二人の分を見ると、マーティは黒パンと山菜抜きのスープと牛乳。ドーバは一回り小さな黒パンに牛乳だった。
「マーティ、ダメだよ。ドーバは育ち盛りなんだから」
そう言いながら、僕は自分の黒パンとドーバの黒パンを交換した。
半分本音で、半分建て前だ。
黒パンは硬いことで有名だ。スープに浸してようやく食べられると聞いたことがある。ゲームキャラの機械人形の種族になった僕に、硬さが関係あるのかどうかは疑問だけど。
ともあれ、ドーバはいっぱい食べるべきだ。ドーバに限らず、マーティも。
ドーバにスープをあげたいけれど、器がこの場にはもうない。
「器ってある?」
「えと、あります。とってきます」
マーティにとってきてもらった器に、僕のスープを半分ほど入れた。山菜ももちろん半分こだ。移したほうをドーバに渡して、僕は手を合わせた。
「いただきます」
「え? え?? ムラサキ様、これ……」
「それはドーバが食べていいよ。育ち盛りなんだし」
育ち盛りを強調して言うと、マーティとドーバが顔を見合わせた。
「あの、ムラサキ様。育ち盛りっていうのは……?」
「んー、見た感じドーバは10歳くらいだし、成長期だよ。いっぱい食べないと」
黒パンを持ち、どのくらいの硬さなのか気になった僕はそのまま齧る。ザクザクと食べ進めることができた。やっぱり僕はスープに浸さなくても食べられそうだ。
「ふぇ? ムラサキ様凄い……神様は違いますね」
「神様?」
僕は神なんかじゃない。ただの元高校生で、機械人形になってしまった哀れな元人間だ。
だけど、マーティは興奮したようにぐいっと僕に顔を近づけた。
「はい。だって、違う世界から来たんですよね? 私たちが住む人間界と、神様が住む天界。人間界じゃない世界って言ったら天界しかありませんよ?」
クスクスと笑って、マーティが牛乳を飲む。
そうか。この世界にはその二つの世界しか存在しないということかな。
つまり、あの皇帝とやらも神様のような存在ということ? 僕以外にも転生した人がいるのかな。……ありそう。
だって、僕一人だけが特別に転生させられるなんてことはないはずだ。もっと多くの人がいたっておかしくない。
「でも、神様も間違えることあるんですね! 私、ちょっとほっとしました」
「ああ、そうだな。俺を10歳の赤子と思うなんて、ムラサキ様も冗談きついぜ」
んん? 10歳の赤子?
「この様子だと、私もきっと勘違いされてますね。私、32歳ですよ。こっちのバカドーバは27歳です」
「……は?」
「う、嘘じゃないですよ! 俺たちはハーフエルフです。世界一長命なエルフの血を引いてるから!」
ハーフエルフ……!?
え、この世界ってそういう存在いるの? 人間だけじゃないんですか?
いや、でも、僕みたいな人もいることを考えると、十分現実的なのか……?
詳しく話を聞くと、エルフは永遠に近い寿命を持つらしい。そのエルフと人間との間にできた子がハーフエルフで、ハーフエルフの寿命はおよそ300歳とされているようだ。
彼らからすれば、20歳までが赤子という認識らしい。
ちなみに、ドーバの父アバーダはすでに150歳くらいのようで、もう年なんて忘れたとのこと。で、ドーバはまだ子供ではあるけれど、育ち盛りというほどのピークに来ているわけでもない。
そして、つまるところ、僕は赤子だ。
ブクマ、感想ありがとうございます!
ストーリー、亀の進みで申し訳ないです()
次回予告
「クランシステムの村再興計画」
※この通りの内容とは限りません。