第2話 機械人形の最低火力
「そこまでにしてもらおうか」
僕が声を張って言うと、周りにいた狂暴な騎士たちの動きが止まる。結構声が通ったようで、ほぼ全員の騎士が動きを止めたのだ。
道中にあった畑は荒らされ、ここにある家屋は焼き払われ燃えている。あちこちに転がる死体を見て、心の底から嫌悪感が沸き上がった。こんな騎士道精神の欠片もない奴らを、世界が野放しにしている。
そんなことが許されていいのだろうか。
「断じて許されない」
「何が許されないんだ。てめぇ、見ない顔だな。どこから来た?」
一番身なりのいい金ぴか騎士が、警戒心の欠片もなく近づいてきた。こんな金ぴか騎士を作るくらいなら、この村を助けてやれよ王様。
そんなことを思いつつ、僕は彼を見上げる。身長差がたぶん40センチメートルくらいあるのだ。今の僕は、ドーバを100センチメートルとしたら140センチメートルほどでしかない。
「僕は――違う世界からやってきた。お前たちの横暴は許さない」
「……違う世界、だと? そんなわけがなかろう。お前のような小娘が! 皇帝陛下と同じ存在だとでも言うのか!」
「皇帝、それがこの惨状の原因か」
なら、その皇帝を滅ぼそう。
「陛下を愚弄するか、小娘。それは死罪に値する」
金ぴか騎士が嗤う。太い槍を構えて、穂先を僕の頭に向けた。
「覚悟せよ。このアルトバラン・イリーゼが葬ってくれる!」
そう言って、金ぴか騎士は槍を突き出す。その攻撃を難なく躱した僕は、金ぴか騎士の懐に入った。
右手で拳を作り、思い切り前に突き出す。
たったそれだけのことで、金ぴか騎士は大きく吹き飛んでいった。燃えている家屋をぶち壊し、さらにその奥にいた騎士に偶然激突する。
「た、隊長!? くそ、全員でかかれぇ!」
銀ピカ騎士が号令をかけ、僕に対して攻撃を仕掛けてきた。
複数人ともなると、いちいち殴りまわるのが面倒くさい。だけど、そうも言っていられないので、僕は体に力を入れた。
「――ッ!?」
体が熱い。急激に体温が上昇している。それに、体の中で何かが駆動している音が聞こえた。パソコンのファンのような音だ。排熱しているのか?
疑問が頭に駆け巡る中、僕は我慢できなくなった。思い切り力を込めていくと、だんだんファンの音も大きくなっていく。
そして――カチャ、と何かがハマったような音が聞こえた。
「なんだ……それは」
銀ピカ騎士が僕を見て足を止める。ほかの騎士たちも足を止め、僕を見ていた。
より正確に言うなら、僕の体を。
「ひ、ひるむな! かかれ!」
銀ピカ騎士が大声を上げる。危険を感じた僕は、ジャンプした。
背から飛び出したのであろうジェットエンジンが噴く。空中にとどまった状態で、僕は武装を展開した。
ああ、知っている。
この体のことなら何でも知っている。嫌な気持ちにならなくて当然だ。心地よさがあっても間違いない。何より、この程度の騎士ごときに僕を害すことなんてできないのだ。
「僕はムラサキ。VRゲームのキャラクターのまま、この世界に来た。なるほど、あのわけのわからない存在が言っていたプレゼントは――」
「何をわけのわからないことを言っている! 空を飛ぶことは禁じられている! 皇帝陛下より高い位置に行くことはあってはならないのだ! 貴様を処刑する! さっさと降りて来い!」
まずは、この騎士たちを排除しよう。
話はそれからだ。
「初級装備に変更。武装再展開。照準を合わせて発射する。敵、23人の騎士」
予め展開していた武装は、最高ランクの敵を倒すために必要な装備だった。危ない。あのままブッパしたら、このあたり一帯が更地になっているところだ。
初級装備に変更を終え、武装を再展開する。
視界に移る23の標的に合わせて照準を固定し、空中に23の銃の姿を現す。自動追尾型狙撃銃だ。
「な、なにを! 貴様ぁ! いったい何をする気だ!」
銀ピカ騎士の耳障りな声が、静寂に染まった一体に響いた。
「ごめんね。これでも最低火力の武装なんだ」
真っ赤だった顔を真っ青にし、これから起こる未来を案じてか、銀ピカ騎士がさらに言葉を続けた。
「お、お前は許してやる! だから降りて来い! そ、そうだ。貴様に勲一等をやろう! 皇帝陛下の覚えもめでたくな――」
「――発射」
23の銃弾が赤の軌跡を残してそれぞれの標的を射抜く。
たった一発で、その体を上半身と下半身に分かつ。腹部がごっそりなくなった死体は、微動さえしない。
あれだけうるさかった銀ピカ騎士も静かになった。
襲われていた村人は僕を見て恐怖に震え、ドーバはあんぐりと口を開ける。
それも当然の反応だと、僕は思う。
ゲームの中ならともかく、リアルでこんな存在がいたら目を疑うし、実在することが確認されたなら怖くて仕方がない。
生きている村人は、およそ40人程度か。そのうちの死にかけは12人、と。
「武装変更。メディカル弾装填。標的12。発射」
緑の軌跡を残し、標的である村人12人を射抜いた。その光景を見て、村人たちは腰を抜かしたように頭を下げた。あまりにもかけ離れた存在に恭順を示すのは、どこの時代でも、どこの世界でも同じなのだろう。
そして、射抜かれた村人たちが息を吹き返す。
僕は何も、村人まで殺すつもりはない。そもそもドーバに助けを請われてやってきたのだ。村人を殺してしまっては本末転倒である。
「姉ちゃんすっげえええええ!!」
ドーバが喝采を上げ、絶望していた村人たちが頭を上げた。彼らは周りを見て、死にかけだった村人が立ち上がっていることに驚愕した。
「こんなもんか」
僕はジェットエンジンを切り、着地した。そして武装を収納する。
「姉ちゃん! ありがとう!」
「気にするな。僕はできることをしただけだからな」
抱き着いてきたドーバの頭を撫でてやりながら、これからのことを考えようと周りを見た。すると、周りで僕たちを見る村人たちが、決心したように僕の周りに集まってきた。
「助けてくださってありがとうございます。そして重ねてお願いがございます! どうか、どうか私どもをあなたの庇護下に入れてください!」
「「「「お願いします!」」」」
ブクマありがとうございます!
頑張って続けていこうと思います。