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林檎大魔王  作者: 黒木遥
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林檎の毒

 小さい頃、父さんのことが好きだった。たまにげんこつを食らったこともあったが、面白い父さんだった。父さんはいつも帰りが遅く、朝も早く出社したため、基本週末だけ会えた。しかし、たまに父さんがいつもより早く帰宅する時もあった。最寄りの駅に着いた時に電話をくれたから、押し入れの中に隠れて、父さんの帰りを待った。怖くて、会いたくなくて、押し入れに隠れたのではなく、かくれんぼだった。かくれんぼで父さんに探してもらうのが楽しかった。広くない家に隠れることができた場所は限られていたため、隠れることができるのは数か所だった。その中の一つが押し入れだった。小さい体を布団の奥のほうに放り投げ、身を潜めた。父さんは分からないふりをして、数分探してから、押し入れの引き戸を開いた。

 今日の父さんはいつもと違った。今日は林檎を沢山食べて帰ってきた。林檎を沢山食べすぎて、父さんの顔はまっかっかだった。林檎大魔王に林檎を食べすぎて怒られて、父さんは林檎のように真っ赤な顔をして帰ってきた。林檎父さんは気持ち悪かった。いつもと何か違う。父さんが食べたのは、普通の林檎じゃなくて、白雪姫が食べたような、毒林檎だったんだと思う。白雪姫みたいに可愛くない父さんは、眠って、王子様のキスを待つんじゃなくて、その代わりに、父さんは毒林檎を食べて、なんだか甘えんぼーになっていた。林檎父さんは、林檎の爽やかな臭いではなく、なんかよく分からない臭いを放っていた。強いて例えるなら、ダンゴムシが死んでしまった臭い。蝉の死骸を靴で踏んでしまった後の、靴の臭い。林檎父さんが嫌いだった。気持ち悪かった。そんな時は林檎父さんから隠れて、押し入れに身を潜めた。

 ある日、林檎父さんと外にボールを持って公園に行った。林檎父さんが外で一緒に遊んでくれると言ったから。外で遊ぶのが好きだったから、嬉しかった。でも父さんは林檎父さんだった。昨夜、林檎父さんになって帰ってきた。土曜の朝の今もまだ、林檎父さんだった。昨夜父さんが食べた林檎はいつもより毒の量が多く、まだ毒林檎の毒が体から抜けていないようだった。林檎父さんとボールを投げ合った。林檎父さんのボールはいつもより弱かった。私は手加減はしなかった。父さんが林檎だろうがなかろうが関係ない。私は力強くボールを林檎父さんめがけて投げた。私はいつもより一生懸命だった。林檎父さんは帰り道、気持ち悪そうだった。林檎父さんは、道の端っこで林檎色した林檎の毒を口から出していた。父さんは苦しそうだった。なんか気持ち悪い。私は周りをきょろきょろした。だれも周りにいなかった。学校の友達に見られたら、恥ずかしいや。



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