小太郎 家庭教師
「明日から1週間 4時限で学校は終わりです」
「やったぁ!」
「こら 小太郎くんそんなに喜ばない!」
「だって なぁ!4年になったら毎日6時限で遊ぶ時間ないんだぞ…」
児童会会長の言葉じゃないな…
「明日からは家庭訪問だから 宿題をちょっと多めに出しますんで 忘れないように」
「えぇ〜それじゃ 学校にいる方がいいぞ…」
「どうして?」
「授業なら ぼぉ〜〜っとしてればいいもんなぁ…」
「………」
「あ〜〜ぁ…」
「どうしたの?」
「明日から宿題いっぱい出るのか…」
「いっぱいって言っても30分もあれば終わっちゃうでしょ」
「晶ちゃんはそうかもしれないけど…」
「太郎ちゃんは0分の時あるでしょ」
やって行かないって事だな…
「母ちゃん ただいま…」
「おかえり 小太郎 どうしたの?具合でも悪いの?」
「うん…明日から家庭訪問だって…」
「それで どうして具合悪くなるの?4時限目で終わるんでしょ?」
「その分宿題出すって…」
「あぁ〜それで!」
母ちゃん 納得するな…
「あ〜〜ぁ…」
ガチャガチャ…
「小太郎殿いかがいたした?ため息なぞついたりして」
「おっちゃんはいいよなぁ」
「何がじゃ?」
「学校も行かず仕事もしないで家にずっと居れるんだもんなぁ」
「何を申しておる!こう見えても わしだって寺子屋で勉強をしたのじゃ!」
「寺子屋?」
「今で言う 学校じゃ!」
「そうなのか!」
「そうじゃぞ!わしらは 1歳になって元服するまで忙しいのじゃ 勉強はもちろん 華道 茶道 武道 ありとあらゆる習い事をせねばならぬのじゃ」
「本当か!大変だな…」
「一番大変なのは 言葉と字じゃったな…」
「なんでだ?」
「わしが習った字は 漢字が主で それを簡単に書こうとし平仮名や片仮名という文字が出来ていったのじゃ そして何より言葉じゃな…時代の流れと共に 言葉遣いが変わっていったのじゃ」
「言葉?そういえば おっちゃん変な言葉使ってるもんな」
「変な言葉ではない!今時の若者の方が変じゃろ!なんじゃあの チョベリバとは!」
「俺も知らないぞ?」
「テレビと申す箱を観ておると 訳が分からぬ言葉ばかりじゃ あやつらは南蛮人なのか?髪の色も違うが…」
「南蛮人がわからないぞ…」
確かに 小ちゃいおっちゃんにとっては大変だったろうなぁ
「そういえば おっちゃん字読めるもんな」
「わしはこう見えて 妖大を首席で卒業したんじゃ!どうじゃ!すごいじゃろ!」
「妖大ってなんだ?」
「妖大を知らんのか?妖精界で一番狭き門の妖精大学じゃ!」
知らんのかって…
「ふ〜〜ん」
「なんじゃ?驚いてないのぉ」
「驚いた方がいいか?」
「聞かれて驚かれても嬉しいわけがなかろう…」
「あっ!」
「ぬおぉぉ!」
「おっちゃん何驚いてんだ?」
「急にデカイ声を出すでない…あぁ…びっくりした…」
「おっちゃん 宿題教えて」
「なんじゃ小太郎殿…わからんのか?」
「ん〜と 今日は算数の宿題だったなぁ…あっ 有った!」
ランドセルからぐちゃぐちゃになったプリントを出す小太郎
「どれどれ…なんじゃ小太郎殿 これはじゃな…」
「おっちゃん わかるのか?」
「愚問を…わしを誰じゃと思うておる」
「おっちゃん」
「……まぁ 良い!わしが解き方を教えてやるで 自分で解くのじゃぞ」
「えぇ〜」
小太郎…答えだけ教えてもらおうとしたな…
「これは商じゃな…53÷6とな…ふむふむなるほどのぉ…」
「おっちゃん わかるか?」
「うむ 小太郎殿 5に6はいくつあるのじゃ?」
「5に6は…0!」
「そうじゃな」
「んじゃ 答えは0だな!」
「違う!問題は53÷6じゃろ」
「あっ…そうか…」
「小太郎殿 問題は最後まで読まんといかんぞ では53に6はいくつ入っておるのじゃ?」
「ん〜と……」
「小太郎殿 その時は 積を使うのじゃよ」
「ゴホン ゴホン…おっちゃん わからないぞ?」
「それは咳じゃ…積とは かけ算のことじゃ!」
「なんだよ…最初からそう言えよなぁ…ん〜と…何の段やればいいんだ?」
「問題をよく見るのじゃ 53÷6じゃぞ」
「5の段…」
「違う」
「3の段…」
「違う」
「6の段…」
「正解じゃ!」
「んじゃ 答えは6と…」
「違〜う!」
「だって今 おっちゃん正解って言ったろ!」
「6の段が正解と申したのじゃ!」
小ちゃいおっちゃん…大変だな…
「そしたら6の段から53に近い答えはなんじゃ?」
「ん〜と…ろくいちが6 ろくに12 ろくさん18 ろくし24 ろくご30 ろくろく36 ろくしち42 ろくはち48 ろっく54…」
「おぉ 小太郎殿すごいぞ!6の段間違わず言えたのぉ!」
小ちゃいおっちゃん…九九は小学2年生の問題だぞ…
「そうしたら 53に近い答えは何じゃ?」
「ん〜と…ろっく54!」
「くぅ〜 惜しいのぉ!答えは48じゃ!」
「んじゃ 48と…」
「ちょい待て〜い!それが答えではない!」
「だって今 答えはって言ったろ…」
「まぁ…そうじゃが…良いか小太郎殿 問題はあくまで53÷6じゃろ じゃから53より大きくなってはいかんのだよ じゃから48なんじゃが 53と48では同じではなかろう?」
「そうだな…」
「じゃから 53と48の差を求めるのじゃよ」
「53と48の差?」
「引き算じゃよ」
「あぁ!ん〜と…5?」
「そうじゃ!でかしたぞ!小太郎殿」
「んじゃ 答えは…」
「5ではないぞ…」
「え?」
解答欄に5と書こうとした小太郎
「5はあくまで余った数 48にするには6に何をかけたんじゃ?」
「ん〜と…8!」
「そうじゃ!答えは8あまり5となるのじゃ!」
「8あまり5っと!」
「そうじゃ!やれば出来る子じゃなぁ小太郎殿は…どうじゃ?解けると面白いじゃろ?」
「ん〜 そうかもな…」
1問解くのに30分…
小ちゃいおっちゃんは夜遅くまで 小太郎の宿題に付き合った
「良いか ここがこうなってこうなるじゃろ じゃから…」
紙に書いて説明するが
「おっちゃん…見えない…」
小ちゃいおっちゃんが書いた字は小太郎には見えなかった
多分 この日 小太郎は今までで一番勉強をしたかもしれない…
鉛筆を持ったまま 机にうつ伏せになって小太郎は寝た…
「小太郎殿…勉強ばかりが全てではないが 覚えて損をするものでないのも確かじゃ 頑張るのじゃぞ…」
バタン…
「ガァ〜〜スゥ〜〜ピィ〜〜…」
小ちゃいおっちゃんも気絶するように小太郎の頭の上で眠りについた