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ERROR

 SNS、ソーシャルネットワーキングサービスは、その発足より目覚ましい発展を遂げた。現代において、SNSは元来それが持っていた役割の他、平均的な活動時間の3割をSNSで過ごす事も、もはや珍しくも無い。人間のコミュニケーションは行動や言動で構成されている。映像媒体としてこれらを光の速さで、いつでも、どこでも送受信できるというのなら、これは現実におけるコミュニケーションの質を遥かに超えた、文字通り新次元の営みなのである。從って我々は物理干渉の枠から外れ、電脳の仮想現実における生物としての進化を促すべきであった。


 という都市伝説を耳にしたのは、国営サーバー常駐プライベート.ダイアログ内だった。そのダイアログに所属していたのは自分を含む5人。うち3人はIP非公開、つまり誰かは分からない。残る1人は自分のアシスタント.bot、IP***935、クミコと呼んでいる。フォロワーとの話のネタに、と、クミコに記録されたログから再びその都市伝説に検索をかける。直近のログだったので20分程で検索は終了した。断っておくが、クミコはとてもハイスペックで、特にテキスト解析や記録に特化したタイプだ。そのスペックを持ってしても検索だけで20分もかかったのは、奇妙というか、あり得ないのだが、故障が疑われた。そのフォロワーも待ちくたびれてしまったようで、そそくさと他のコミュニティに行ってしまった。あまり話していて楽しい相手ではなかったし、特に気にならなかった。

「エラー。」

 -ERROR.-

まずは文字化けを疑った。しかし初めて見たERRORの文字コードは、自分のメモウィンドウでも頑としてERRORと言い続ける。次に回線状況。クミコのステータスを確認しても異常はない。

 つまるところ、本当の本当にエラーなのである。天変地異である。

 少なくともクミコの処理能力において、かつテキスト解析において、エラーは存在し得ない。というのは、そもそも、それだけの情報量は用意され得ないからだ。

 程なくして、おぞましい可能性として、検索の妨害が挙げられた。これも都市伝説の一つにしか過ぎないのだが。各一つのIPにつき一つ属されるアシスタント.botは、製作される過程で''秩序''と呼ばれるプログラムが追加される。そのプログラムは、名に負う通り、秩序を守るためのものであるが、中には情報規制という機能があるらしい。正直、眉唾であるが、今はこれの仕業としか思えない。取りあえず、案内されたエラーコードをクミコの製造元のカスタマーセンターに送りつけ、エラーの表示を無制限コミュニティに投稿した。


 驚いたのは、その反響が、トップニュースばりの規模であった事だ。一昔前は、エラー表示なんて見かてもせいぜい2,3人のフォロワーが同情の様子で「どうしたの?w」とリプライを返してくる程度であった。今回は勝手が違うようで、投稿後1分間で20万のlikeが付けられた。その2分後にはリプライの通知で自分が何をしているのかさえ見えなくなった。今まで絡むどころか、そもそも知らないような大多数からのリアクションの中で、紅一点、一件の通知が目を奪った。


 merrowさんだ! メロウさんからのDMだ!!

 merrow。界隈では知らない者が居ない程のシンガーソングライターである。彼女の透き通った歌声は「電脳マーメイド」と呼ばれるだけあって、一度聞けば死ぬまで脳に焼きつくことだろう。彼女が1から10まで手掛ける曲はこれまで無数の人々にインスパイアを与えてきただろうし、自分もその無数の内が一つであり、しかしながら、それでしかないのである。從って、興奮を通り越してしまうのは道理であり、通知を切り抜いて小一時間眺めた挙げ句、まだDMの内容すら見ていないのに、返信の文面をいかにしようか、いや元より一ファンとして返信するのはおこがましいのではないかと思い至るまで脳がエラーを吐き出し続けたのだった。

 しかし、一つの疑念がよぎる。彼女の活動は、開始当初より見守り続けてきたが、決まって暦の満月の日にリリースされるというのが通例だった。しかし、前の満月の日にはリリースは無く、彼女のコミュニティは騒然となっていた。それからなんの報告もないまま、見ず知らずの投稿にリプライを送るのは、知った口ではあるが、彼女らしく無かった。その疑念、いや心配に近いような焦りから、私は知らずの内にDMを開封していた。


 以下はそのDMの概要である。


 「突然失礼します、投稿拝見しました」

 「私も自分のアシbotにエラーが出始めたんです、つい先月位から」

 「なにか共通の症状とかがあれば良いんですが、私のエラーと見比べてみてください」

 「あ、あとカスタマーには送らない方が良いと思います」


 DMにはメロウさんのエラーの表示が添付されていた。


 その後、自分でも稚拙だな、と思うほどぎこちない敬語を使い回し、なんとか自分がファンであること、好きな曲は初めてリリースされた曲であること、いつも新曲を待っているということを伝える事ができた。意外にも会話は弾み、いつの間にか、会うことになっていた。


正直カタカナ語多かったなぁー…と。

クミコの容姿が脳内で少しずつ完成していくのが最高に楽しいです。

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