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第一章 迫り来るもの 9

「姫様……相当追い詰められているんだね……」


「うん、リリちゃんが強い子じゃなかったらアタシこうしてここに居られなかったかも……」


「笑えないよ……」


 パーキュリスと対峙した時の事は特に改竄されていなかったから分かることなんだけれど、あの時点でも相当危険な状態だったと思うんだよね。もちろん緊急時、且つユウトの命が危なかったっていうのもあるけれど、それでもあそこまでの状態はもはや異常としか言いようがないよ。


「ねぇ、ゼオくん、アタシどうしたら良かったのかな?」


「うん?いや、君は何も間違ってないと思うよ。姫様も落ち着いてくれたみたいだし。」


「んぅ、そうかなぁ……」


 まぁ、何か間違いがあるとすれば、ここが温泉っていうことだよね。まったく、予想出来ていたとはいえ本当に入ってくるなんてどうかしてるよ……嬉しいけどさ。


「はぁ~あ、なんだか自信なくしちゃうなぁ。リリちゃんもキリくんも頼ってくれないし、ゼオ君は襲ってくれないし。」


「ちゃんと隠してくれてることだけは感謝してるから安心したまえよ。」


「……嬉しくない!」


「はぁ、カスタードの気持ちは嬉しいけどさ、何事にも順序とか心の準備とかいうものが必要でね?」


「うん、それは分かってるよ。こうして勢いで一緒に温泉に入ってはみたものの、これすごく、恥ずかしいし……」


 まったく、お湯が熱いからなのか恥ずかしさで赤くなってるのか、お互い分かったもんじゃないね。


「まぁ、でも、そういう積極的な所は嫌いじゃないよ……」


「えっ、今好きって言った?」


「言ってないよ。上がったら耳掃除でもしたまえよ、念入りに!」


 いけない、うっかり心情を吐露して彼女を舞い上がらせてしまうところだった。この状況でそうなれば抱き付いて来ることは間違いないし、そうなると僕の方も色々と危険だ。


「むぅ~、ゼオくんが冷たい!」


「はいはい、しっかり肩まで浸かって温まろうね。」


 はぁ、全く心臓に悪いよ。何がって?そりゃあカスタードの存在がだよ。だって考えてもみなよ。年上で長身で物凄く魅力的な身体をして僕に好意を抱いてくれているような幼馴染の女の子と布一枚のおかげで全裸とは言えないだけの状況で混浴しているんだよ?正直心臓が破裂しそうだよ……のぼせそう……


「ねぇ、ゼオくん……手……手繋いでも、いい?」


「え、うん、いいよ……好きにしたまえよ……」


 何で急にそんなにしおらしくなるんだい?流石にそういう態度だと余計に心臓が早鐘を打つように……


「アタシはこれだけでも幸せだよ……」


「うん、それは良かったね……」


 これは……うん、このままだとこれからの事なんて一切忘れてこの状況に浸ってしまいそうだよ。何か話題を……


「僕等はこうしていれるだけいいけどさ、姫様や勇人はどんな気持ちなんだろうね……」


「ゼオくん、今はそういうこと考えたくない……」


 しまったと思った。せっかく二人きりになれたのに思いっきりそれを否定するような話題だよこれは。


「ごめん……」


「いいよ、気にしないし……」


 気にしてるくせに、こういうときだけ本当に大人しいんだから……


「アタシ、さっきまでリリちゃんを何とか落ち着かせようとしてたのに、今はこうやって好きな人と一緒の時間を過ごしてる。ホントはいけないことなんじゃないかなって気にはなるけどさ、そこを気にし過ぎたらアタシらしくないんじゃないかとか……んぅ、グルグルしてる……」


「考え事ばかりしてる君の方が君らしくないとは思うけどね。」


「そりゃそうだね。難しいことは嫌いだよ。……でも、馬鹿じゃないからね!?」


「はいはい、分かってるよ。」


 湯船の中で手を繋いだまま、何となく空を見上げる。なんというかさ、今カスタードは髪をお湯に浸けないように上げてるんだけどさ……直視すると危険だよ。うなじとかさ、何でこんなに破壊力が高いんだろうね?ああ、彼女は普段頭の横で髪を結っているとはいえ元はすごく長いからね。普段見えない所が見えるというのが一番大きな部分なのかもしれないよ。……うん、見えない所がね……


「星、奇麗だね。」


 そう言いながら肩に頭を預けてくる。そろそろ止めておかないと際限なく進んでしまいそうだよ。


「ゼオくん……」


「なんだい?」


「す……ううん、ちがうちがう!色んな事がちゃんと解決していくといいね……」


「うん、そうだね。」


 別に言ってしまっていいのに。ここに来るまでに何度も言ってくれてるんだからさ。


 しばらく二人で空を見上げて、のぼせる前に上がってしまおうか。そう考えているけどカスタードは繋いだ手をより強く握って放そうとしてくれない。


「カスタード、そろそろ……」


 上がろうか、と言おうとして彼女がじっと僕の事を見つめているのに気付いた。ああ、これは駄目かもしれないね……


「ねえ、ゼオくん、アタシやっぱり……」


 そう言いながらぐっと顔を寄せてくる。


「やっぱり、なんだい……?」


 逃げようと思えば逃げれるけれど……


「我慢しようとは思ってるんだけど、やっぱり不安……だから……」


 もう吐息を感じられるぐらいに顔が近い。頬が赤いのはのぼせたからだなんて絶対に言えないね。


「キスして。それだけでいいから……」


 そう言って目を閉じる。ずるいよ、これじゃあ逃げられない。


 僕は何も言わずに唇を重ねた。触れた瞬間、電撃の様な衝撃が全身を駆け巡って脳天を貫いた。この感情の迸りが何なのか僕には分からない。こんな経験はしたことがないんだから。そうしている内に時間の感覚も分からなくなってしまう。カスタードからは甘くむせ返るような香りさえしてくるようで、もっともっと彼女を求めてしまいそうになる。駄目だ、このまま抱き締めでもしたら、もう後戻りは出来なくなるよ。でも……


「……ゼオくん、これ以上はダメ……ね?」


「うん……」


 カスタードは名残惜しそうに唇を放すと僕を諭すようにそっと囁く。まったく、自分から求めてきたくせに……ずるいよ、ずるい……


「歯止めが利かなくなっちゃう。全部解決するまで、アタシはちゃんと待てるから心配しないで……。先に上がるね。明日からもまた頑張ろう!」


「うん、そうだね……」


 うまく言葉が出てこない。いそいそと恥ずかしそうに去っていく彼女を見つめながら、今自分に起きたことを反芻していく。あの感触、あの感覚、衝撃……自然と指先が唇に触れる。


「こんなにも……こんなにも焼き付けていくものなんだね……カスタード……」


 わかっていたことだけど、僕はもう彼女から離れられない。きっと、ずっと一緒に居るに違いないよ。……そう、信じていたい。







 ようやく部屋に戻るとユウトが何か聞きたそうに僕の方を見ているよ。やれやれ、どうしたものかな……


「随分と遅かったけど何かあったのか?」


「あぁ、うん、ちょっと……いや凄く良いことがね……」


「気持ち悪い笑顔を浮かべないでくれ……で、良いことって?」


「ふっ、カスタードとキスを少々……」


「え……はっ?なっ!?」


「ふふふ、ユウト、僕は今ものすごく優越感というものを感じているのだよ……」


「く、詳しく……いや、そうやって聞いていいものじゃないよな……くっ、どうすれば……」


「ユウト……これはいいものだよ……ふふっ……」


「うわ、これまでになくムカつくな。」


「まあまあ、怒らないでくれたまえよ。よぉし、寝るぞ~!」


「テ、テンションがおかしい……大丈夫なのか?」


 多分すぐには寝られないと思うけど、僕は先に休ませてもらうよ。もう少し余韻に浸っていたいからさ……

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