第一章 迫り来るもの 7
「どうせ、ゼオがいるうちにうっかり早く来たふりして入ろうとしてるんだろう?」
「そんなまさか!アタシがそんなこと!」
「……するよな?」
「……するよ!何か悪いことでも!?」
うわっ、逆ギレされてしまった。リリィクから先に上がった方がいいと言われて何となく察してたけど、まさか本当に来るとはな……
「いやぁ、ホントは残り湯で我慢しようと思ったんだけどね、それだとキリくんも入ってたわけだし不純物的なね?」
「人を不純物扱いするな!それなら最初からあいつと一緒に入ればよかったんじゃないか?」
「んぅ、それ絶対断られるし……」
まあ、ごもっともだな。だがそれはあいつなりに理性と戦っているっていうことだと気付いてやってほしい。
「まぁ、アタシは別に嫌われてるわけじゃないって分かってるからガンガン攻めていくけどねっ!」
「はあ、そうですか、がんばってくださいね。」
「何その興味ありませんって感じの励まし……」
興味ないんだよなぁ、どんな風にアプローチ掛けていくかなんて……。細かいことはいいからさっさと正式に付き合いでもしていまえばいいんだ。だからって焚きつけたりはしないけど。あんまり積極的に出辛いこっちと比較してしまうとちょっと羨ましいとは思う。
「ねぇ、キリくん、ロワール出てから考え事多いけど大丈夫?」
「そうか?そんなつもりは……いや、そうなのかもしれないな。」
自分の事とかリリィクの事とか、後はこれからの事とか、考えても仕方のない事だってのは分かってるんだけどどうしてもな。
「考えてどうにかなることじゃないんでしょ?だったら程々にしとかないと、リリちゃんともあんまり話せてないみたいだし。」
「うっ、確かにそうだな……」
痛いところを突いてくるな……。確かにリリィクとはロワールを出て以降、いや、下手するとパーキュリスとリクシーケルンの件を解決した辺りから二人きりでまともに話す機会なんてなかったんじゃないか?
「う~ん、流石にまずいんじゃない?」
「……ああ、うん……」
「あのさ、キリくん、悩みに対して向き合うのはすごく大事なんだけど、一人じゃどうしようもないし限界はあると思うよ。何にも話してくれないからゼオくんだって心配してるし、アタシだって心配なんだからね。そこのところちゃんと覚えておいてほしいな。」
返す言葉もない、ただ頷くのが精一杯。彼女の言うことはもっともだ。一人で考えてはずっと堂々巡りしている。でもそれが自分の事だけなら容易に相談出来たかもしれないが、リリィクの過去についてとなると流石に迂闊に聞けたものじゃない。
「あぁ、成程ね。リリちゃん昔のことは話したがらないから……特にキリくんに知られたとなると、話した方も危ないかもしれないしね。ロワールで見たけどリリちゃんの制約、完全におかしなことになってるよね?あの状態のリリちゃんだとホントに命に関わるから……ちょっと話せないかな。ごめんね、それ以外で何か困ってる事があったら力になるよ!」
制約、か……。あれはもう呪いだ。俺が掛けてしまった呪いが制約によって押さえ付けられて、それでもなお表に出ようと力を増してきている。多尾狐の誘惑、知らなかったとはいえ俺自身の力だ。早く何とかしなければ……
「また焦ってる!そうやって頭で考えててもしょうがないよ。ともかく制約のことは抜きにしてリリちゃんと話してみようよ、うん、寝る前に時間作れるか聞いて来てあげようか?」
「それは……ああ、お願いしようかな。」
きっと俺だけだと部屋を訪ねるのも今は躊躇してしまいそうだ。
「うんうん、そうやってどんどんお姉さんを頼ってくれると嬉しいな!」
「ん?何処にお姉さんが?」
「……キリくん、温泉に沈めようか?」
「ご、ごめんなさいカスタードお姉さん……」
「うん、冗談は置いといて、さっと行ってくるから、えっと、外暗くなっちゃったしとりあえず部屋にでも戻ってて!」
「ああ、そうする。ありがとう!」
あっという間に踵を返して駆けて行きながら手を振っている。お姉さんという点に関しては未だに納得し難いが、こうして人に頼ることも俺はやっていかないといけないんだろうな。
リリィクなら会ってくれるだろうという驕りみたいなのはあったのかもしれない。結果からいえば彼女は疲れて眠っていたそうだ。無理矢理起こすわけにもいかないし今日は俺も休むことにした。
……それにしてもゼオの奴戻ってこないな。あいつとも色々話しておきたかったんだが、まさか……いや、帰って来た時に起きてたら問い質そう。
「しかし、何で俺達男二人は相部屋なんだ?」
何となく納得いかない疑問ではあったが、とりあえず気にしないでおこうと思った。