第一章 迫り来るもの 6
食事を終えてそれぞれ用意されていた部屋に荷物を置きに行きます。この後は順番に温泉に入って眠るだけですが、
「リリちゃんリリちゃん!アタシどうしてもゼオくんの後に入りたいの!わかってくれるよねっ!」
ということで、なんだか怖いので私はその後に一人で入ろうと思います。勇人とゼオが一番手です。カスタードは積極的過ぎて時々訳がわからなくなってしまいますね。
「ゼオくんの残り湯、あわよくば遭遇。ゼオくんの残り湯、あわよくば遭遇。ゼオくんの残り湯、あわよくば遭遇。ゼオくんの……」
新しい呪文か何かでしょうか?彼女の部屋の前を通る時にブツブツと唱え続ける声が聞こえていましたが、深く考えるだけ時間の無駄でしょう。勇人にはそれとなく早く上がった方がいいとだけ伝えておきました。これできっと大丈夫です。
「ふう……」
部屋に入って荷物を置いて、そのままベットに身を投げ出します。仰向けになって何をするでもなく天井を眺めているとこのまま眠ってしまいそうです。これまでの事、これからの事、勇人の事、様々な事が頭の中を駆け巡っては消えていきます。このまま本当に寝てしまいましょうか。……流石にそれは止めておきたいところですね。窓から見える空は茜色から暗い青へと移り変わっていき時間の経過を知らせてくれています。ひとまず部屋のランプを点けましょう。
「おー、キリくん早いじゃん!」
ランプに火を灯そうとした時、窓の外からカスタードの声が聞こえました。
「ああ、多分お前のせいだな。」
「あはは、まさか、アタシがなにをするっていうのですか、はははは。」
「心当たりがありすぎるみたいだな……」
勇人もいるのですか?一体何の話をするのでしょう?ランプの事は放っておいて窓に近付きますが、少し移動してしまったのか姿は見えても声は聞こえなくなってしまいました。
「随分と……楽しそうに話をするのですね……」
勇人、最近私とそんな風に話してくれることはありましたか?
傍には居てくれるのに、あまり話をしてくれませんね。ずっと考え事をしています。
私と話したくはないですか?
カスタードと話す方が楽しいですか?そうやって楽しそうに……本当に、楽しそうですね。
霧払いの使徒様と話した事、未だに私に話してくれないのは話す気がないからではないのですか?
そうやって私を避けているのでしょう?
面倒な、厄介な女だと思っているのでしょう?
呪いを掛けたのは貴方なのに!
……だったら最後まで、私を見てください。
私だけを見て、もっと話をしてください。
ねえ、勇人、それだけでいいのです。
今そこからでもいい、ここに居る私に気付いてください!
カスタードなんて見なくていいから!
カスタードと話なんてしなくていいからッ!
「ううっ、勇人、私……」
ああ……今は……
そこにカスタードがいるから
そういうことですね。