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第一章 迫り来るもの 3


「そうか、情報は得られずか……わざわざ立ち寄ってくれてありがとう。そうだ、少し食事でもしていくか?」


「えっ、いや流石にこの人数ですし遠慮しときますよ。」


 道中ガルバルトの所に立ち寄った。パーキュリスからは何の情報も得られなかった。というよりは気絶していたりアントラメリアに襲われていたりで、まともに聞き出す余裕もなく出発してきたのだからどうしようもない。落ち着いたらココが尋問をすると言っていた。有益な情報があれば通信で知らせてくれることになっている。焦らず待つしかないわけだ。


「そうか、じゃあせめてお茶だけでも飲んでいかないか?休憩だと思って……あっ!いやすまん、急に思い出したんだが急用があるんだった!急にすまん、また今度な!」


 そう言って急に追い出しにかかる。困惑しながらも外に出ようとした俺たちだったが、ミューが出口の前に立ち塞がって出られない。


「怪しいな。何をそんなに焦っている?」


「あ、焦ってなんかないぞ!ただちょっと会わせたくない奴がいるというかなんというか……」


 ……明らかに焦っている。俺達に会わせたくない人物とは如何なる者か、その答えはすぐに出た。


「お~い、おっさん帰ったぞ。一応頼まれてたもんは調達……して…………嘘だろ……」


「…………お、お前……」


「……こりゃあ不正解ってもんだぜ……じ、冗談じゃねぇ、じゃあな!!」


 あたふたと慌てふためきながら逃げようとするその男は!


「待ちたまえよ!」


「は、放しやがれ!俺様はもうてめぇらに関わりたくねぇ!」


 素早くゼオに襟首を掴まれてもなお必死に逃げようとする。この男、忘れるはずがない!


「霧四肢のゼフュール!生きていたのか!?」


「はぁ?違いますぅ。霧四肢の、とかそんな珍妙な呼ばれ方知らないですぅ。」


 往生際が悪いな。そもそも何でさっさと霧になって逃げないんだ?まあ、そのおかげでゼオが捕まえていられるんだが。


「あー、すまんゼフュール。お前の事をすっかり忘れて彼らを引きとめてしまった。私のミスだ、諦めよう。」


「諦めるのかよ!ちくしょう、もう逃げねぇから放しやがれ……」


 逃げる気力を失ってうなだれた様子を見てゼオが手を放すと、そのままのそのそとガルバルトの所まで歩いて行き荷物を床に下ろした。


「あの、説明はしていただけるんですよね?」


「分かった、分かったからそんなに睨むなよお嬢さん……」


 全員ぞろぞろと元の場所に戻る。まったく関係ないが、一人状況を飲み込めずにオロオロしているアルトラはとても可愛いと思った。


「キリくん、その顔……君ってさ、もしかして小さい子を……」


「そんなことより話を聞こう!」


 別に邪な事を考えてるわけじゃないが、とりあえず誤解が生まれる前に話を逸らして本題に入ろう!


「なんだ、君にはそんな趣味が……」


「げぇ、マジかよ。」


 そんな趣味って何ですか!?マジじゃないから信じないでくれ!


「えっ?えっ?いったい何が?」


「しっ、駄目だよユウトを見たら。」


 ゼオ、お前後で覚えてろよ……


「…………ふん。」


「勇人、そんな……」


 ミューがどうでもよさそうなのはいいとして、リリィクは割と本気で絶望したような顔をするのはやめてくれ……えっ、割とっていうか相当真剣に捉えてないかこれ?


「あわわ、リリちゃん、冗談!冗談だからね!」


「えっ……あっ、そうですよね!ごめんなさい……」


 ……不安だ。


「ハッハッハ、賑やかでいいな。」


 俺を犠牲に場は和んだ……そういうことにしておこう。カスタードが「ごめん」とジェスチャーしてくるのに片手を上げて応えると、改めて全員が部屋の真ん中に向かって円形に集まる。


「あー、最初に言っとくぜ。俺様が死ななかったのはあの女のせいだからな。」


 あの女?……ああ、こいつと俺達に共通している女性といえばソリドか。そういえばあの時彼女はこいつに対して何か囁いていたな。彼女は言葉で追い詰めたと言っていたが違ったということだろう。


「あれだけ思いっきり地面に縫い止めやがったくせに、生かしてやるから自分の情報を寄こせとか抜かしやがってな。さらに地面に埋め込まれるわ、引き抜かれたと思ったらさっさと話せとか……」


 そうか、ソリドも自分の事を知りたがっていたな。こいつにはストラーに連なるものがある。そして彼女を見た時、何か心当たりがあるような反応をしていた気もする。彼女は自分の事を少しは知れたんだろうか?


「で、話してるうちに傷も癒えたからな、さっさとずらかろうとしたんだがよ……なあ、あの穴相当深かっただろ?」


「ああ、底が見えないぐらいには。」


「だろ?だからよ、普通じゃ登れねぇから霧になって登ろうとしたわけなんだが……なれなかったんだよなぁ、霧に。」


 パーキュリスと同じ?なるほど、あそこまで追い込まれだが故にエーテルが抜け出して行ってしまったか。


「ん?なんだ、パーキュリスの野郎も同じ様になっちまったのか?」


「ああ、そこの所も含めて、エーテル特異体でなくなった場合我々はどうなるか、君なら分かるんじゃないか?」


 ガルバルトがミューの方を見やる。やれやれと言った感じの溜息で返してから少し考える様にしながらミューは答えた。


「はあ、私は便利屋じゃないぞ。エーテルが答えれば答えられる。ちょっと待て。」


 そう言って目を閉じて黙ってしまった。


「おい、エーテルって喋るのか?」


「ああ、俺も話したことはある。」


「マジかよ……色々信じられねぇんだが……」


 それは、そうだろうな……。俺だって一時的にエーテル特異体にされてなければ話を聞くこともなかったはずだし、未だに信じられていなかっただろう。


「はあ、なるほど。私もたまに雑音のような物が聞こえることがあるのですが、もしかしてこれもそうなのでしょうか?」


 アルトラがぽつりと呟く。彼女については守護龍の娘ということ以外は一切知らない。こちら側においてはそれだけで十分過ぎる事だというのは分かっているものの、どうも何か引っかかるというか……


「ああ、そうだろうな。私ほどではないが勇人よりは侵蝕度は遙かに高いはずだ。……どういう経緯でそうなったかは分からんが……」


 目を閉じたままミューが答える。しかし、侵蝕度か……そういう言われ方をすると妙にしっくりくるというか、エーテルが得体の知れない存在として捉えやすいというか……


「それに関しては私も詳しくは分かりませんが、父様……守護龍様からは瀕死だった私を発見して連れ帰って治療したと聞いています。私の記憶が定かなのはそれから大分経ってからの事なので、おそらくはその時に何かしらあったのかと。」


 こんな小さな子が瀕死になる状況……あまり考えたくはないが、この子も何か重要な鍵を握っているような気がする。周りの空気が震えたような気がして、それがエーテルの肯定の言葉の代わりなんだと感じた。だからと言って俺に何か出来るとは思えないが。


「うーん、深まるアルトラちゃんの謎。」


「なんだいそれは?」


「言ってみたかっただけだよ?」


「ああ、そう……」


 心和む二人のやり取りは置いておいて、リリィクに聞いてみたいことがあった。


「そういえばさリリィク、前に君もエーテル特異体の兆候はあると言っていたけど、もしかして声が聞こえたり何か感じるようなことがあったり……」


 なんとなく聞いてみたが、聞かない方が良かったかもしれない。皆には聞かれたくなかったんだろう。彼女がそっと耳元で囁いてくれたのは……


「エーテルの声は分かりませんが……ごめんなさい、あの、呪いのような声なら四六時中……」


「ごめん、余計なこと聞いて……でも、待っててくれ、もう少しなんだ……」


「はい、勇人……」


 ちょっとここだけ空気が重くなってしまったような気がする……が、そんなことはなかった。


「んぇっ、そんなに顔を寄せて……まさか、キス!?」


 違う!そんなことしてない!


「えっ、君たちそんな大胆な!?」


 お前分かってて言ってるだろ!?


「そ、そうなのですか!?」


 君はこういう話題に食い付き良すぎて将来が心配だ……


「ほう、若いな……」


 はい、若いです!


「ハッハァッ、やるじゃねぇか!」


 何もやってない!


「おい、カスタード!妙な事を言うんじゃない!」


「妙な事、ですか……そうですか……」


「リリィク……嘘だろ……」


 そこで乗っかっていくなんて……確かにそうであれば嬉しいなという気持ちは大いにあるが、今は変な風に話をこじらせたくないというか!


「……おい」


 いや、分かってくれ!決してそういうのが嫌なわけじゃなく、ちゃんと時と場所は考えてしたいっていうかなんて言うか!


「……おい!」


 違うんだ!決して君の事を嫌いなわけじゃなくて、周りに見せつけたりするのが嫌なだけで!


「おい……」


 エーテルで構成されたと思われる光の剣が眼前に突き出された……少しでも動けば刺さりそうだ……


「はい……」


 ミューは大層ご立腹の様だ。射殺すような視線に冷や汗が吹き出してくる。


「……話していいか?」


「あ、はい、お願いします……」


 スッと剣を消滅させてざっと皆を見回す。一同真剣な表情でさっきのやり取りなんて一切なかったかのように口を噤んでいる。カスタードだけがこちらに向かって「ホントごめん」というジェスチャーをしてきたが、今度は睨み返しておいた。


「先に言っておくが、そちら側のエーテルから聞きだすのは大変だったそうだ。気は乗らないが感謝しておけ。」


 そうやって俺達しか知らない事情を出していくのは止めた方がいいと思うが……


「あ?こっち側のエーテルってなんだよ?」


「後でそこら辺から聞くといい。重要な事はそこそこ知ってるぞ。何でも聞いてみるといい。」


 そう言って俺を指さす。説明が面倒だからって事情を知ってる俺に丸投げするのはどうかと思うぞ。確かに聞いたことはしっかり覚えてるし話せるけども……


「君はいつの間にそんな情報窓口みたいになったんだ?」


「ロワールで色々巻き込まれていくうちに流れるようにですね……」


 苦労したんだなと言わんばかりにしみじみと頷かれてしまった。


「結論だけ言うと、普通の人間だった時点まで戻して、それから後のことは知らないそうだ。良かったな。」


「良くねぇよ。」


「そうか?エーテルに縛られずに自由に生きれるんだぞ?私としてはそうあってほしいものだが……」


 そういえばミューの側のエーテルはあまり手放すことはないと言っていたな。ああやって話し掛けてきたということはおそらく俺もそうなんだろう。一度成れば早々戻ることは出来ない……だが、リクシーケルンによればもうそれは避けられないところまで来ているそうだ。その点についてはやはり怖い。戦力として考えた時には、あの感覚だ、間違いなく強くはなれる。しかし、それからどれほどの時間を生きていかないといけないのか考えると漠然としすぎていて恐ろしくなってくる。


「なあ、要するに、『もう普通の人間だから無理せず細々と生きましょう』って事でいいのか?俺様としてはもうストラーなんかと関わり合いになりたくねぇし、それはそれで大正解なんだけどよ。」


「ああ、そういうことだ。せめて死なないようにするんだな。」


 ミューはそう言って話し終わったと言わんばかりに満足そうな表情を浮かべる。……まあ、確かに結論は言ったしそれはそれでいいんだろうけども、せめてもう少し補足をするとか……あ、俺に丸投げされてたか……


 結局この後俺がエーテルに話を聞いた時の事を事細かに説明する羽目になった。ミューは頼むから要所要所でめんどくさがるのをやめてくれ。なんか俺がそれをフォローする流れが出来てしまいそうで恐ろしい。


「あの、勇人様、出来ればもう少し詳しくお聞きしても?」


 フォロー……


「ああ、すまん。これ以上詳しいことは流石にミューに聞いてくれ。」


 とことことアルトラがミューの所に歩いて行く。ミューは嫌な顔一つせずに……普段からしかめっ面だが……アルトラに説明していく。その流れで全員に話せないものか、今度それとなくお願いしておこう。


 粗方話し終わっただろうか?ガルバルトもゼフュールも納得したという感じの表情ではある。


「ああ、そうだ。てめぇらアルシアのとこに行くんだろ?俺様もさっき行ってきたところだけどよ、今日の森は平穏だぜ。アントラメリアの奴も大人しく回収されたみてぇだし今のうちにさっさと行っちまいな。」


「ああ、それがいいかもな。今の状況じゃいつ何が迷い込むか分からん、くれぐれも気を付けてな。」


 それじゃあまた、と軽く挨拶し部屋を出て洞窟の出口へと向かおうとする……が、何か忘れてないだろうか?


「どうかしたかい、勇人?」


「いや、何か忘れてるような気がしてな。」


 エーテルに関しては知っていることは伝えたはず。だが、何か胸に引っ掛かってる感じだ。


 足を止めて悩んでいると、リリィクが何か思い出したのか部屋の方へと戻っていく。


「あの、よろしければ娘さんの写真、持っていれば見せてもらえないでしょうか?」


 ああそうだ、帰りに聞こうとしてすっかり忘れていた。ガルバルトの娘さんの事だ。


「ああ、あるにはあるが……ストラーに捕らえられる前の物しかないぞ。構わないか?」


「はい、大丈夫です。流石に何も分からない状態で捜しても見つからない気がしますのでお願いします。」


「これだ。持って行っていいぞ。」


「ありがとうございます。必ずお返ししますね。」


 写真を受け取ったリリィクが軽くお辞儀をしてから小走りでこちらに戻ってくる。部屋の入口から顔を出してくれたガルバルトに俺もお礼のお辞儀をして、再び洞窟の出口へと歩みを進め始める。


「ありがとうリリィク。」


「いえ、思い出せてよかったです。」


 借りてきた写真を見る。深い緑色の髪に金色の瞳の少女、この子がガルバルトの娘、リュレーゼ。


「うーん、そんなに写真の子をじっくり見つめるなんて……キリくんってやっぱり……」


「三度目は止めておけよ?」


 流石に俺でも怒るぞ。いや、もう怒ってるんだけども。


「えっと、やっぱり……とは?どういうことなのでしょう?」


「ああ、君は知らなくていいと思うよ。ほら、ミューと話でもしておいで。」


「む、そう来るのか。別に構わんが。」


 しかし、六人か。まさかこんなに賑やかになるとは思わなかったな。


「勇人、少し楽しそうですね。」


「そうだな、皆が楽しそうだからかもしれないな。」


 リリィクの表情も心なしか明るい。こうして思い思いに話しながら進む道中というのは意外と息抜きにもなるのかもしれない。アルトラを賢者様の所に送り届けたらそのままラトラに向かうことになるだろう。それまではちょっと緩いかもしれないがこの調子で進んでいきたいものだ。


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