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第一章 迫り来るもの 2


【バーゼッタ城】





「ウククク、いよいよだなぁ?」


「ああ、ナナと……それから撃喉を向かわせる。それで文句はないだろ?」


 ニタニタと笑って気持ちの悪い奴だ。そんなにも俺と勇人が敵対するのが楽しいか?腹立たしい。いや、分かっていたことだが……


「いやなに、当然文句などあろうはずもない。何よりも手を抜かずに動こうとしているのに感心してなぁ。クク、何か心境の変化でもあったのかと思ったわけだ。」


「……そんなものはない。オレは最初から慎重に動いてただけだぜ?知らなかったのか?」


 そうだ、慎重に動いている。今も、これからも。お前を倒す為にな。


「いやいや知っているとも、ウクククク。何せ幼馴染と命を奪い合うことになるわけだ。慎重にならないものを使おうなどとは思わん。」


 命を奪い合う、か……。こいつの頭の中に勇人をこちら側に付かせるという発想は元からない。姫様の隣に居る、ならば王の側の人間、であれば抹殺する。単純にそれだけだ。それ以外の事はない。全てが終わった後のビジョンもない。復讐がしたいだけの虚しい奴だ。


「ちゃんとやるさ。ところで、中庭のあの扉、あれが何か知ってるか?」


 ふと思い出したことをぶつけてみる。こいつはストラーの事を崇拝しているみたいだし知らないことはないだろう。何か面白い情報が聞けるかと思ったが……


「扉ぁ?なんだそれは?」


 まさか知らないのか!?そんなはずはない。機械人形はかつての実験場に続く扉だと言っていた。こいつはそこに居たはずなんだ。そこでストラーによって素晴らしい力を授かったと事あるごとに言っていた。だとしたら知っていなければおかしいはずだ。……いや、扉が付けられて現存していることを知らないだけかもしれない。


「機械人形からかつてのストラーの実験場に続く扉と聞いたが、知らないのか?」


「……機械人形、得体の知れぬ女よ。あの時ストラー様を裏切ったことが分かっているだけに復讐したいのはやまやまだが、底が知れぬ故手を出せぬ。その扉、場所はどこだ?」


「あ、ああ……」


 城の見取り図を取り出して扉のあった場所に印を付ける。


「龍弥殿、礼を言おうぞ。もしかしたらあの女の秘密に近付けるやもしれぬ」


 今まで見たこともない真剣な表情だ。その雰囲気に圧されて黙っている間にトーマはすぅっと部屋から出て行ってしまった。


「……なんなんだ、いったい……」


 あの野郎が機械人形を警戒しているのは常々分かっていたことだが、あの扉にそこまで重要な意味があるというのか。もしかしたら関わらない方が良かったのかもしれない。あの扉に向かわせたこと、これから何か良くない事でも起こりそうだ。そう思わせる悪寒がした。


「龍弥殿、失礼いたします!」


「うっ……ああ、ドラグアグニルか、どうした?」


 突然開け放たれたドアの音に一瞬怯む。出撃の準備でも出来たんだろうか?


「龍弥殿はあちらの魔道砲殿と幼馴染だと伺いました。もし何か戦闘に有利な情報を持っていたらご教示いただければと!」


「ああ、なるほど。悪いがそれは出来ないぞ。」


「な、何故ですか!?」


「こっちに来るまでオレもあいつも魔法なんて使えなかったどころか戦いとも無縁でな。そしてこっちに来てからはご存知の通りだ。あいつの戦い方なんて知らないから教えようがない。……ああ、一つだけ、あいつ異様にしぶといぞ。」


 そうですか、と納得したのかしていないのかよく分らない表情で考え事を始める。


「どうした?まだ何かあるのか?」


「その、龍弥殿は良いのですか?とても親しい御方なのですよね?そんな方の命を奪うなんて……」


 良いわけがない。が、だからといってここでそう言うわけにはいかない。


「きっと何か事情がおありだとは思うのですが、やはり親しい方同士で戦うのは苦しい事だと思うんです。……私の勝手な考えだと分かっていますが、もしよろしければ説得を試みても良いでしょうか?」


 驚いた。もしや彼女はそれを気にして自分が行くと言ってくれていたのか?だとしたら本当の事を打ち明けてみても……いや、それを決めるにはまだ早い。


「説得な……しかし、説得してどうする?オレ達の側に付けとでも言うつもりか?今あいつの傍には仲間がいる。それもここを取り戻す為に動いている。何よりも姫様がいる以上あいつだけを説得しても全く効果はないぞ。全員を説得しきれるのか?バーゼッタ奪還よりも価値のある交渉材料はあるのか?」


「うっ、それは……」


 あるはずがない。我ながら親切心を無下にする嫌な言い回しをしているとは思うが、こればかりは本当の事だ。幼馴染のオレがいる、だけではどうしようもない状況なんだ。


「まあ、その気持ちはありがたく受け取っておく……」


「でも……」


 まだ何か言いたそうだ。その優しさは痛いほど伝わってくるが、今の状況では否定することしかできない。


「……一つだけ聞いていいか?」


「はっ、なんなりと。」


「なんでトーマの野郎に付いた?」


 その優しさを持っていて、何故自分勝手な復讐しか考えていないあの野郎に……


「他に行く場所がなかったのです、父の行方を捜す為にも……」


「そうか……それで、見付かったのか?」


 無言で首を横に振る。未だ見つかっていないのか、それとももう……


「お父さんの事はもういいのです…………。あの、龍弥殿、もう一度言いますが魔道砲殿を……」


「やめておけ、何処で聞き耳立てられてるか分かったもんじゃないぞ。どうしても何とかしたいなら……そうだな、説得するんじゃなくて勇人のやつと話でもしてみればいいんじゃないか?それでお前がどうしようがオレの知ったことじゃない。」


「えっ、それは……!?」


 これ以上は何も言わない。無言で出ていくように促す。


「失礼しました!それでは準備に取り掛かります!」


 少し明るい表情で部屋を出て行ってくれた。あの野郎は……おそらくだが中庭の扉に御執心のはず、聞かれていないはずだ。


 オレ達の動きとは関係なく、彼女はここに居るべきじゃないだろう。父親を捜す為に、あの野郎が情報を持っていたんだろう。そしてさっきの反応、多分だがもう彼女はトーマに付いている理由はないとオレは感じた。読み間違いじゃなければいいが……


「龍弥!」


 慌てた様子で七美が部屋に飛び込んでくる。


「どうした、何かあったか!?」


「トーマが消えたの、何処にもいないの!」


「何だって!?」


 どういうことだ?いや、あいつが出たり消えたりするのは大して問題じゃない。何よりも気にかかるのは七美の慌てぶりだ。ただあいつが消えただけでここまで慌てるはずがない。


「詳しく頼む。何があった!?」


「うん、あいつが中庭の扉をすり抜けて中を覗いた後に、青ざめた顔で何かから逃げるように去っていくのを変な光が包みこんで……」


「消された……ってことか?」


 彼女もオレもあいつの出現を感知するための魔法を大事な話をする前に使うようにしている。それを使えばバーゼッタ内であれば何処に居るか何をしているかぐらいは分かるし、どこに移動しようとしているかも多少は分かる。


 その反応が、無い。


「うん、遠すぎてよくわからないけど、森の方に微かに反応があるから完全に消滅したわけじゃないみたいなんだけど……うまく観測できない感じ。」


「ひとまず状況把握に努めよう。出撃はトーマが戻ってくるまで引き延ばして……ッ!?」


 そこまで言って、ハッと息を呑む。開け放たれたドアの先、そこから鋭い視線を感じた。


「あら、まだ行かないのね。労いの言葉でも掛けてあげようと思ったのだけど、無駄足だったかしら?」


 冷たい笑顔だ。まるでその名そのもののように人形のような笑顔……


「あ、ああ、少しトラブルが起きてな……」


 七美を庇うように前に出る。得体の知れない女、あの野郎が言った通りなのが癪に障るが全くその通りだ。勇人達とは親しげに話してしたように思うが、今この場においてそんな雰囲気は一切ない。ただ、底なし沼のようにねっとりとまとわり付いて突き落とす恐怖があるだけだ。


「そう、残念ね。それとも良かったのかしら、うふふ……」


 一歩ずつ近付いて、じわじわと威圧してくる。


「しばらくは暇になると思うわ。この機会にゆっくりと、仲睦まじく、二人きりで過ごしたらどうかしら?ねえ、水間龍弥……そして、語部七美……」


 駄目だ。混乱と恐怖で吐きそうだ!なんでだ?なんで七美の名前を知っている……。誰にも一切漏らしてない。彼女自身だって一度も名前を口にはしていないはずだ!オレが七海だと分かった時だって彼女は一切名乗らなかった。勇人達との思い出を必死に語って、それでも絶対に名乗らなかったのに、なんで……


「ええ、分からないことだらけね、面白いわ。私が名前を書きとめられなかった貴女、聞きたいことは沢山あるけど……いいわ、今は聞かないでおいてあげる。そうね、貴方達が勇人達の事をどうするのかだけは見守ってあげるわ。あの子達の事は心配だもの。ふふ、一体どんな事を企んでいるのかしら?楽しみだわ。」


「トーマを……消したのか?」


 このままでは駄目だ、押し潰されてしまう。意を決してなんとか声を絞り出す。


「あら、気になるのかしら?でも、それは今一番聞きたいことじゃないでしょう。答えないわ。」


 この答えでは「そうだ」と言っているようなもんじゃないか。


「まあ、心配しないで。私は今のところ貴方達には何もしないから、好きに頑張るといいわ。それじゃあ、お元気で。」


 一方的に喋って有無を言わさずそれを終わらせて、そのまま踵を返して去っていく。足音が遠ざかって完全に聞こえなくなってからようやく全身の力が抜けて二人して床にへたり込んだ。


「なんなんだ、あれは一体……」


「私にもわからないよ……」


 もしかしたら警告しに来ていたのかもしれない。トーマの様にあそこに踏み入れば消すと。


 この事を勇人に伝えるべきか……いや、機械人形自信が言っていたことを鵜呑みにするなら、勇人達とオレ達の件が片付くまではこちらにも七美の件については追及してこない。言い換えるならそれまでは余計な事をするなという脅迫か。なんにせよ迂闊な事は出来ない。あの禁忌に触れたかのようなおぞましい感覚、二度とは味わいたくない……


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